第八話:逃亡と傭兵団との同行
貴族の館から逃げ出したのは、夜明け前の薄暗い時間だった。
セレナは息を殺して裏門を抜け、通りすがりの荷馬車の荷台に隠れていた毛布の下に身を潜めた。
呪いのボンデージは外すことができず、革のバンドが身体を強く締め付け、鎖が歩くたびに肌に食い込み、冷たい夜風に震えが走る。
息も絶え絶えに、どれだけ走っただろう。
森の出口近くで力尽き、その場に崩れ落ちたとき、馬車の音が近づいてきた。
「おい、見ろよ。あそこに女が倒れてるぜ」
旅の傭兵団だった。
十数人の屈強な男たち。
リーダーらしき大柄の男が馬から降り、セレナに近づく。
「生きてるか? ……なんだ、この格好……」
男たちの視線が一瞬で変わった。
好奇と、危険な光が混じる。
セレナは震える声で訴えた。
「助けて……ください……」
リーダーは薄く笑った。
「助けてやるよ。ただし、条件がある。お前は俺たちの荷物番、雑用係としてついてこい。文句は言わせねぇ」
セレナは首を振ったが、呪いの衣装が身体を勝手に動かさず、逃げる力さえ奪われていた。
男たちに囲まれ、馬車の荷台に引き上げられる。
「逃げようとしても無駄だ。お前はもう、俺たちの仲間だ」
馬車が動き出す。
揺れる荷台の中で、セレナはただ震えるしかなかった。
男たちは彼女を監視し、自由を奪い、命令を浴びせた。
朝、昼、夜。
休憩のたびに、荷台に座らされ、身体を動かすことも許されない。
鎖を引かれ、屈辱的な姿勢を強要される。
男たちの視線が突き刺さり、嘲笑が響く。
最初は泣き叫んで抵抗した。
だが、日を追うごとに、心の抵抗が弱くなっていった。
呪いの衣装が身体を熱くさせ、無力感が心を蝕む。
ある夜、傭兵の一人――
若い金髪の男、レオンという――
が、セレナに近づいた。
他の男たちとは違い、乱暴ではない。
静かに毛布をかけ、冷えた手を温めるように握った。
「……辛いだろう。でも、今は耐えるしかない」
セレナは初めて、男の名を呼んだ。
「レオンさん……」
その優しさに、胸がわずかに温かくなった。
錯覚かもしれない。
だが、その瞬間だけ、心が少し安らいだ。
しかし、レオンが去った後、他の団員たちが再び近づいてきた。
「おい、レオン。お前だけ優しくすんじゃねぇよ」
「俺たち全員の荷物だろ、この女は」
再び嘲笑と監視の日々。
セレナは涙を流しながら、ただ耐えた。
身体を縮こまらせ、視線を避け、命令に従うしかなかった。
「私……もう、逃げられない……」
小さな声で呟く。
心の奥底で、微かな疼きが広がり始めていた。
それは、諦めか。
それとも、何か別の感情か。
セレナ自身にも、まだ分からない。
旅は、まだ続いていた。
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