第四十六話:聖女の座の放棄・正式な辞退
王宮の大広間は、重い沈黙に包まれていた。
玉座の前に並ぶ貴族たち、聖職者たち、民衆の代表たち。
父王と母后が玉座に座り、アルベルト王子がその傍らに控える。
全員の視線が、セレナに注がれていた。
セレナは純白の聖衣を纏い、ゆっくりと進み出た。
長い金髪を優雅に結い上げ、碧い瞳は静かに輝いている。
胸元は控えめに閉じられ、腰回りは優しく流れ、身体を完全に隠している。
普通のドレス。
普通の聖女の姿。
王国は、彼女の功績――悪魔ベルゼフォンの討伐と呪いの解除――を認め、改めて聖女認定式を挙行したのだ。
「父上、母上、そして王国の民よ」
セレナは深く頭を下げ、静かに口を開いた。
「本日をもって、私は聖女の座を辞退いたします。また、王女の地位も、正式に放棄いたします」
広間に、どよめきが広がった。
父王の顔が青ざめ、母后が手を口に当てる。
アルベルト王子の瞳が揺れる。
貴族たちはざわつき、民衆の代表たちは困惑の表情を浮かべた。
「セレナ……何を……」
父王の声が震える。
セレナはゆっくりと顔を上げ、穏やかな――しかし、揺るぎない微笑みを浮かべた。
「私の道を選びたいのです」
その言葉は、静かだった。
だが、確固たる意志を宿していた。
「私は……聖女になる資格を失いました。ベルゼフォンを倒し、呪いを解いたのは事実です。ですが、その過程で、私の身体も、心も……変わってしまいました」
セレナは胸に手を当てた。
聖衣の下で、試練の痕跡がまだ疼く。
だが、彼女はそれを隠さず、ただ静かに続けた。
「この身体は、もう清らかな祈りを捧げるものではありません。試練に染まり、無力感に囚われ……聖女の座は相応しくないのです」
神殿が静まり返る。
民衆の歓声が止まり、貴族たちのざわめきが広がる。
セレナはゆっくりと立ち上がり、祭壇から降りた。
聖衣は元の形を保ちながらも、彼女の瞳はすでに――静かな決意を宿していた。
「王国を救ったのは、私の力ではありません……ただ、試練に耐え抜いただけ……」
彼女は深く頭を下げ、宮殿の出口へと歩き出した。
両親の悲しげな視線。
アルベルト王子の絶望的な表情。
民衆の困惑。
すべてが、セレナの背中に突き刺さる。
だが、彼女は振り返らなかった。
聖女になる道は、閉ざされた。
しかし、彼女の身体は、もう普通の幸せを求めていなかった。
セレナは、王都の門をくぐり、外の世界へと消えていった。
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