第四十一話:王都帰還・英雄の歓迎と心の葛藤
王都エリュシオンの城門が見えてきた瞬間、セレナは息を呑んだ。
純白の聖衣を纏った彼女の姿は、遠くからでも輝いて見えた。
噂はすでに先行していた。
「悪魔ベルゼフォンを倒したのは、あの聖女候補セレナ姫だ!」
「王国を救った英雄!」
民衆は道の両側に溢れ、歓声を上げ、花を投げ、手を振った。
子供たちが「セレナ姫!」
と叫び、女性たちが涙を浮かべ、男たちが誇らしげに胸を張る。
王都全体が、彼女を英雄として迎え入れた。
セレナはゆっくりと馬車から降り、歓迎のパレードの先頭に立った。
普通の純白のドレス。
胸元は控えめに閉じられ、腰回りは優雅に流れ、身体を完全に隠している。
初めて、普通の女性として歩けるはずだった。
だが――群衆の視線が、熱かった。
無数の目が、彼女の姿を追う。
聖衣越しに肩の輪郭を見られ、腰の曲線を眺められ、歩くたびに裾が揺れる姿を凝視される。
その視線は、かつての試練の記憶を呼び起こした。
「……あ……」
下腹部が熱くなる。
息が乱れ、膝が震え始める。
聖衣の下で、身体が不快な熱さを覚える。
「聖女姫! お帰りなさい!」
民衆の歓声が、さらに彼女を追い詰める。
視線が、まるで影のように身体を這う。
肩が布地に擦れ、不快な震えが走る。
腰が締め付けられ、息が詰まる。
「だめ……こんなところで……」
膝が震え、歩くのがやっとだった。
歓迎の花が舞い、子供たちが駆け寄り、手を振る。
その無垢な笑顔さえ、セレナには「見られている」
という事実を突きつける。
宮殿に到着した。
大広間で、両親と婚約者のアルベルト王子が待っていた。
「セレナ……!」
父王が駆け寄り、強く抱きしめる。
母后が涙を流しながら、頬に触れる。
アルベルト王子が優しく手を握り、額にキスをする。
その瞬間――
「――っ!」
抱きしめられただけで、肩が父王の胸に押し潰され、息が乱れる。
アルベルトの唇が額に触れた瞬間、首筋が熱くなり、身体がきゅっと締まる。
不快な波が訪れ、汗が滴り落ちる。
「あ……」
セレナは必死に声を抑え、身体を震わせた。
絶頂のような波が近づく。
両親の温もり、婚約者の優しい抱擁。
普通の家族の愛情のはずが、彼女の身体には――試練の記憶を呼び起こすだけだった。
「セレナ、どうした? 顔が赤いぞ」
父王が心配そうに尋ねる。
セレナは震える唇で、微笑んだ。
「……大丈夫です……ただ、疲れているだけ……」
彼女は両親と婚約者の前で、必死に耐えた。
だが、心の奥底で、囁きが響く。
(聖女になる道は……もう閉ざされた……) 普通のドレスを着た今、彼女は――英雄として迎え入れられた。
だが、身体はもう、普通の幸せを求めていなかった。
セレナの目は、すでに静かな決意を帯び始めていた。
王国は救われた。
だがセレナの戦いはまだ終わっていなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。




