第三十九話:悪魔討伐・呪いの解除
玉座の間は、もはや戦場ではなく、崩壊の始まりだった。
セレナの淫聖の剣が、最後の光を放つ。
純白と黒が融合した輝きが、ベルゼフォンの魔力核――胸の中心に深く突き刺さった。
「グオオオオオオオッ!!」
ベルゼフォンの巨体が震え、黒紫の魔力が乱れ狂う。
影のような触手が萎み、幻影分身が霧のように消えていく。
巨大な存在感が弱まり、鱗が剥がれ落ち、翼が折れ曲がる。
「見事だ……セレナ……」
ベルゼフォンの声は、初めて弱々しく、優しかった。
「お前は……私の予想を……超えた……呪いを……解いてやる……」
淫魔の王の巨体が、光に包まれながらゆっくりと崩れ落ちる。
赤い瞳が、最後にセレナを見つめ、静かに微笑んだ。
「楽しかったぞ……」
その言葉を最後に、ベルゼフォンは完全に消滅した。
瞬間――セレナの身体に、激しい熱が走った。
「――あぁっ!」
呪いが解ける。
紐状の布が、溶けるように形を変え、初めて――普通のドレスに戻った。
純白の聖衣。
胸元は控えめに閉じ、腰回りは優雅に流れ、身体を完全に隠す。
肩を締め上げるバンドも、腰を固定する紐も、すべて消え去った。
「……終わった……」
セレナは膝をつき、ドレスの裾を握りしめた。
普通の布の感触。
冷たい空気が肌に触れ、息が穏やかになる。
試練の痕跡は残っていたが、呪いの締め付けは消えた。
だが――身体に染み付いた記憶は、消えなかった。
ゴブリン、オーク、触手、亡霊、ケンタウロス、囚人たち、貴族たち、サキュバス、鏡の中の自分、ベルゼフォン……
無数の試練。
無数の圧迫。
無数の「もっと……」
という叫び。
「……これで……終わり?」
虚無感が、胸を締め付ける。
普通のドレスを着た今、彼女は――何者でもなかった。
聖女には戻れない。
姫にも、戻れない。
ただ、試練を耐え抜いた旅人が、そこにいるだけ。
城が、崩れ始めた。
天井から石が落ち、壁が裂け、床が揺れる。
セレナはゆっくりと立ち上がり、出口へと向かった。
「もう……何も、残っていない……」
涙が溢れる。
だが、心の奥底で、微かな決意がまだ残っていた。
セレナは崩れゆく城から脱出し、夜の闇へと消えていった。
旅は、終わった。
だが、彼女の物語は、まだ終わっていなかった。
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