第二十九話:玉座の間前・ベルゼフォンの眷族たち
ヴィオラの身体が、召喚の間の床に崩れ落ちた。
セレナは震える手で鎖を外し、荒い息を吐きながら立ち上がった。
ヴィオラの嘲笑が、まだ耳に残っている。
だが、もう後戻りはできない。
最上階――ベルゼフォンの玉座の間は、すぐそこだ。
階段を上る足取りは重く、身体は限界を超えていた。
呪いの布は薄いヴェール状のまま、汗と疲労で透けきり、身体の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。
息が乱れ、膝が震える。
「もう……少しだけ……」
最上階の扉を押し開けると、そこは広大な前室だった。
黒い大理石の床、赤い絨毯、天井から吊るされた燭台の炎がゆらゆらと揺れる。
扉の前に、ベルゼフォンの直属眷族が待ち構えていた。
上級サキュバスとインキュバス。
女性型は豊満な肢体を黒い革のドレスで包み、長い尻尾が優雅に揺れる。
男性型は筋肉質の肉体に金の装飾を施し、赤い瞳でセレナを見つめる。
二人とも、静かに微笑んだ。
「ようこそ、最後の試練の間へ」
サキュバスが優雅に手を差し伸べる。
「主君の前に立つ資格があるか……私たちが試してあげるわ」
セレナは後ずさろうとしたが、呪いの布が脚を絡ませ、動きを封じる。
インキュバスが一歩踏み出し、彼女の首輪の鎖を掴んだ。
「逃げても無駄よ。もう、あなたは私たちのもの」
二人に挟まれ、セレナは床の中央に引きずり出された。
サキュバスが背後から抱きつき、肩を優しく包み込む。
柔らかな手のひらが肩を撫で、腕を固定する。
インキュバスが正面から近づき、熱い視線で首筋を眺める。
「あっ……! やめて……!」
だが、二人の存在感は圧倒的だった。
サキュバスの指が肩を強く押さえ、爪で軽く引っ掻く。
インキュバスの視線が耳元を撫で、息を吹きかける。
「ん……あぁ……」
二人のテクニックは完璧だった。
サキュバスは肩を撫で、首筋を優しく締め上げる。
インキュバスは視線で腰を固定し、息を吹きかける。
「あぁ……! だめっ……こんな……上品に……!」
不快な波が訪れる。
汗が噴き出し、床を濡らす。
セレナはもう抵抗せず、自ら身体を預けていた。
二人の視線と圧迫に、頭が真っ白になる。
「もう……ここでいい……」
一度、心が折れかけた。
サキュバスとインキュバスに囲まれ、永遠にここで試され続けたいと思った。
だが、胸の奥で、微かな意志が灯る。
「……呪いを……解く……」
セレナは震える声で呟いた。
サキュバスたちは少し驚いたように目を細め、しかし微笑んだ。
「ふふ……まだ意志が残ってるのね。素晴らしいわ」
二人はセレナを解放し、ゆっくりと後退した。
「合格よ。主君のところへ、行きなさい」
セレナはぐったりと床に膝をつき、息を荒げていた。
全身が汗と疲労でいっぱいになり、身体は力が抜けきっていた。
「……ごめんなさい、父上、母上。もう、純粋な姫君には戻れません……」
震える唇から漏れた言葉に、自分でも驚いた。
涙が溢れる。
だが、心の奥底で、微かな決意が大きくなっていた。
セレナは震える手で身体を抱きしめ、玉座の間の扉へと歩き出した。
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