27「陰謀」
織歌とダミアンがフラグを構築している頃、スピークイージーに残されたシュヴァリエは偽警官を制圧していた。
「お騒がせしました。お代は結構ですので、本日は閉店とさせてください」
丁寧な所作で頭を下げる。
「さっさと出て行け」と言う意味が込められていることに気づかない馬鹿な客はいないようだ。
マフィアのスピークイージーに来るだけあって、客もトラブルには慣れているらしい。
皆余計なことは口にせず、静かに立ち去って行った。
「うっ……うう……」
静まり返ったメインフロアでは、私と日本人の男――確か、名は勝――が生きて捉えた偽警官が呻いている。
数は5人。全員銃を持っているので一人では荷が重いかと思ったが、この日本人の男のおかげで死者を出さずに制圧できた。
初めて駅で見た時の彼は軍服を着ていたのでその技術かと思ったが、襲撃に対する対応の慣れ方・所作はまるで裏社会の人間のものだった。
(……まあ、私には関係ないか)
一瞬この男のことが気になったが、すぐに思考を止める。
私は何も持たない、何も望まない、だからダミアンの下にいるのだ。
「うちに任せたらパパが拷問してくれるヨ」
「あなた方の手を煩わせるわけにはいきません」
「痛いのやだよぉ~、やめなよぉ」
ハクレン――チャイニーズマフィアのプリンセス――が正体を暴くのを手伝うと申し出るが、借りを作るわけにはいかない。
一般人のC.A.D.の前で謎の襲撃者の正体を暴くことも控えたいので、ダミアンが戻ってくるまでできることはあまりない。
それもあって織歌には女性たちを連れて行ってほしかったのだが、この女性たちは気丈にもダミアンと織歌の仲を認めると決めてこの場に残ったのだろう――自分の感情を押し込めてでも。
「”ハクレン” ”ちゃん”」
「ハクレンでいい! 気持ち悪イな!」
襲撃者たちを逃がさず殺さずにどう留めておこうか思案していると、男がカタコトでハクレンの名前を呼ぶ。
ハクレンは嫌そうな顔をしつつも、面倒見のいい性格のため男の元に行って何かしら話しているようだった。
「何かありましたか?」
「えーっと……ワタシも意味わかんなイけど……クラゲだっテ」
「クラゲ……?」
意味深な言葉に男の顔を見るが、男は頷くばかりで喋らない。
(参ったな……共通言語がない……)
だがハクレンにこれ以上の通訳も求めないあたり、クラゲと言う単語の意図はハクレンには知られたくないのだろう。
それでありながら、私にはその単語で伝わる言葉――
私と男の間で交わした言葉は少ない。
劇場でスーツをあつらえてやったが、その時も共通言語がないので互いに簡単なジェスチャーで意思疎通をしただけだ。
(それなのに伝わる暗号。私たちに共通するなにか……織歌、ダミアン、エンゼル、劇場、スーツ)
頭の中で単語を並べると、ひとつの答えにたどり着いた。
クラゲ、海、海軍――そういうことか。
(ベインブリッジ……)
この男が会うとしたら日本海軍の関係者――琅玕隊絡みだろう。
となれば立場的にも”奴”が関わっている可能性は高い。
棄てたはずの怒りが腹の底に溜まるのがわかる。
ベインブリッジ少将――かつて私を破滅させ、この裏社会にまで叩き落した男。
奴はまた私の前に現れて、今度はダミアンごと潰そうとしているのか。
(……渡すわけにはいかない。私には彼が必要だ)
これは復讐だ。
誉ある白人将校の私が野蛮人の奴隷をする――その様を見せつけることで、奴の腐りきった白人至上の思想を穢してやる。
だから、ダミアンには野蛮人でいてもらわなければいけない。
私を穢してもらわなければいけない。
(対策をしよう。ベインブリッジ少将にも、織歌にも……)
織歌に恋をして彼の歪んだ劣等感が無くなってしまったら、彼には価値がなくなってしまう。
それだけは、許してはならない。
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