EP 5
緊急イベント? 獣王レオ乱入
『おいコラァァァ!! タロウ!! 楽しそうなことやってんじゃねぇか!!』
格納庫の巨大モニターに映し出されたのは、金髪の獅子のような男だった。
画面越しでも伝わってくる、暑苦しいほどの闘気。
背景には、どこかの闘技場のような場所が見える。
「……誰だ? 有名配信者か?」
俺は首を傾げた。
ゲームのテスト中に、開発者の知り合いが乱入してくる。オンラインゲームでは稀にある「運営のおふざけイベント」だろうか。
通信回線の向こうで、タロウさん(国王)が慌てている。
『レオ君!? 君、どこから回線に入ってきたんだ! ここは軍の最高機密だぞ!』
『うるせぇ! 俺の「野生の勘」が、そこに美味そうな獲物がいると言ってるんだよ! そこのメガネ! テメェだ!』
画面の中の獅子男が、ビシッと俺を指差した。
『さっきの騎士団との戦い、見てたぞ。……良い動きだ。久しぶりに血が滾ったぜ』
「あ、どうも(観戦機能もあったのか)」
『俺と勝負しろ! 今すぐだ! 俺の愛機「ゴールド・レオン」で噛み砕いてやる!』
強引なマッチング申請。
俺は少し考えた。
テストプレイは順調すぎて退屈していたところだ。それに、この獅子男……まとっているオーラ(エフェクト)が違う。
間違いなく「レアキャラ」だ。
「タロウさん、これ受けていいんですか? 『レイドボス戦』ですよね?」
『え? あ、ああ……まあ、彼なら相手にとって不足はないが……実戦形式になるぞ? 本当にいいのか?』
「望むところです。調整した機体の性能チェックに丁度いい」
俺はグローブを締め直し、再びコックピットへ滑り込んだ。
シートに深々と座り、ニヤリと笑う。
「相手はパワー系か……。なら、マップは『市街地(ビル街)』を選ばせてもらいますよ」
◇
仮想空間が展開される。
そこは、建設中のビルが立ち並ぶ複雑な市街地エリア。
俺の『シャドウ・ウォーカー(巨大版)』は、ビルの屋上に音もなく着地した。
対する敵は、メインストリートのど真ん中に転送されてきた。
黄金に輝く、四足歩行のライオン型巨大メカ。
推定重量は俺の機体の3倍。装甲も分厚い。
コスト2の重量級機体『ゴールド・レオン』だ。
『ガアアアアアッ! 隠れてないで出てこい! 正々堂々、殴り合おうぜぇ!』
敵のボイスチャットが響く。
開幕から咆哮と共に、周囲のビルへ無差別に破壊光線を放っている。
野蛮だ。あまりにも野蛮なプレイスタイル。
(FPSで一番カモにされるタイプだな……)
俺は冷静に分析する。
真正面から撃ち合えば、火力の差で負ける。
だが、ここは入り組んだ市街地。そして俺は『理髪師』だ。
複雑な髪の毛(地形)を読み、ハサミ(罠)を入れる角度を決めるのは得意中の得意。
「セット完了。……開戦」
俺は指を弾いた。
シャドウ・ウォーカーが、ビルからビルへとワイヤー移動を開始する。
『見つけたぞォォ! そこかァッ!』
レオ機が反応し、猛スピードでビルを駆け上がろうとする。
だが、その足が、建設用の鉄骨を踏んだ瞬間だった。
チュインッ。
『あ?』
鉄骨が不自然に崩れた。
俺が事前にワイヤーで切れ込みを入れておいた、「崩落トラップ」だ。
巨大なライオンがバランスを崩し、無様に地面へ落下する。
『ぐおっ!? 小賢しいマネを……!』
「まだ終わらないよ」
俺は落下地点に向けて、バックパックのコンテナを開放した。
投下されたのは、大量のドラム缶。中身は、さっき整備工場から拝借した「潤滑用ハイパー・オイル」だ。
バシャアアアアン!
地面に叩きつけられたレオ機の周囲が、ヌルヌルのオイルの海になる。
起き上がろうと足を踏ん張るが、摩擦係数ゼロの地面では、20メートルの巨体が滑るだけだ。
『滑っ……!? 立てねぇ! なんだこれ!? バグか!?』
「仕様です」
俺はビルの屋上から見下ろしながら、コンパウンド・ボウを引き絞った。
矢の先端には、着火用の「ヒート・チップ」が装填されている。
「キャンプファイヤーの時間だ」
放たれた矢が、オイルの海に着弾。
ボッ!!!
猛烈な炎が巻き上がり、黄金のライオンを包み込んだ。
『熱っ!? 熱ゥゥゥゥ! コクピット温度上昇!? ふざけんな、出てきて戦え!』
『戦ってますよ。これが俺の(陰キャの)戦い方なんで』
俺は冷静に、炎の中でもがくライオンの「関節の隙間」を狙い撃ち続ける。
一発撃つごとに、敵の機動力が削がれていく。
これはもう戦闘ではない。一方的な「処理」だ。
◇
(モニター室・視点)
「……酷い」
誰かが呟いた。
最強の獣王レオが操る最新鋭機が、手も足も出ずに燃やされ、弄ばれている。
レオの悲鳴と、牛太の淡々とした作業音だけが響く。
「あの子、性格悪すぎませんか……?」
「いや、あれこそが『戦場』を知る者の戦い方だ。名誉も誇りもない。あるのは勝利のみ……」
タロウ国王だけは、満足げに頷いていた。
やがて、画面の中でレオ機が機能を停止した。
圧倒的な完封勝利。
コックピットから出てきた牛太は、少し汗を拭いながら言った。
「ふぅ。ボスにしては単調でしたね。……あ、ドロップアイテムとかあります?」
その言葉に、通信画面の向こうで黒焦げになったレオが、ガバッと起き上がった。
『……完敗だ』
「え?」
『道具、地形、心理……全てを利用した完璧な狩り。俺は今まで「力」に頼りすぎていたようだ』
レオの瞳が、キラキラと輝き始めた。
『頼む! 俺を弟子にしてくれ! 師匠!!』
「……はい?」
俺はポカンとした。
どうやらレイドボスを倒したら、なぜか「ペット(弟子)」になってしまったらしい。
「(まあ、フレンド申請みたいなもんか。廃課金プレイヤーっぽいし、承認しとくか)」
俺は軽いノリで頷いた。
「いいですよ。とりあえず、まずは『牛丼の正しい食べ方』から教えますね」
『オス! ご指導お願いします! アニキ!』
こうして、タロウ国最強の軍事機密施設で、俺と獣王の奇妙な師弟関係が爆誕したのだった。




