EP 3
神ゲーかと思ったら、AI(騎士団)が弱すぎてクソゲーだった件
「す、すげぇ……。ここがゲームスタジオですか?」
翌日。
オッサン(佐藤太郎さんと言うらしい)に連れられてやってきたのは、王都の地下深くに存在する巨大な施設だった。
分厚い金属の扉。厳重な警備兵。そして並び立つドワーフの技術者たち。
俺は思わず息を呑んだ。
(これがトリプルA級タイトルの開発現場か……! 情報漏洩対策ガチ勢すぎるだろ。警備員が本物の槍を持ってるぞ)
俺のオタクフィルターを通すと、物々しい軍事施設も「開発費をかけた最先端スタジオ」に変換されてしまう。
太郎さんがニヤリと笑う。
「ああ。我が『G.G.社』が社運を賭けたプロジェクトだからね。早速だが、これが君のコントローラーだ」
案内されたのは、カプセル型のコックピットだった。
全周囲モニターに、身体を固定するハプティクス(触覚フィードバック)スーツ。そして手元には、馴染みのある『マグナ・グローブ』のハイエンドモデル。
「うわぁ……没入感ヤバそう……。これ、PCスペックどうなってるんですか?」
「最新の魔導コアを百個連結してるよ(国家予算一年分だ)」
「へぇ~(富豪の道楽かよ)」
俺はワクワクしながらシートに座り、グローブを装着した。
シュゥン……と低い駆動音が響き、視界が暗転する。
次の瞬間。
『システム・オールグリーン。同調率、計測不能……いえ、120%で安定!』
『バカな、初回起動だぞ!?』
ヘッドホンから開発スタッフ(ドワーフ)の慌ただしい声が聞こえる。
演出が細かいな。こういう「選ばれし者」感を出してくるオープニング、嫌いじゃない。
『……聞こえるかい、牛太君』
インカムから太郎さんの声。
『これから「チュートリアル」を始める。仮想敵を用意した。自由に料理してくれ』
「了解です。……お、グラフィック綺麗ですねぇ」
モニターに映し出されたのは、荒涼とした演習場のフィールド。
そして前方から、ズシン、ズシンと地響きを立てて現れたのは――三体の巨大な人型ロボットだった。
白銀の装甲に、巨大な剣と盾。いかにも「ファンタジーRPGの騎士」といったデザインだ。
(ふむ……敵のデザインは王道だな。でも、ちょっとテクスチャが古臭いか?)
俺は冷静に分析する。
対して、向こうのロボットたちは殺気満々で剣を構えている。
『こちら「白銀の牙」隊長、ガレスだ! テストパイロットがどこの馬の骨か知らんが、戦場の厳しさを教えてやる! 総員、包囲して叩き潰せ!』
敵のボイスチャットが聞こえた。
ガレス? 有名声優だろうか。熱演だが、セリフがテンプレすぎる。
俺はため息をついた。
「ま、チュートリアルだしな。サクッと終わらせて、本編に行きますか」
俺は指を鳴らし、愛機――全高18メートルの試験機『プロト・レンジャー』を起動させた。
◇
(モニター室・視点)
「陛下! 無茶です! ガレス隊長は王国最強の『白銀の牙』筆頭ですよ!?」
「素人の子供一人に、正規軍の精鋭三機をぶつけるなんて……殺す気ですか!」
モニター室では、将軍や騎士団長たちが青ざめていた。
これはゲームではない。
タロウ国が開発した、有人搭乗型巨大兵器『メガ・ギア』の実戦テストだ。
対戦相手のガレス隊長たちは、歴戦の猛者。いくらシミュレーター上の遠隔操作とはいえ、精神的負荷で廃人になりかねない。
だが、佐藤太郎だけは、カップ麺をすすりながら不敵に笑っていた。
「見ていれば分かるさ。……ほら、始まった」
画面の中で、ガレス隊長の機体が猛スピードで突撃した。
騎士の誇りをかけた、必殺の唐竹割り。
誰もが牛太の機体の粉砕を予期した、その時。
◇
(牛太・視点)
右方向から斬撃。
速い……か? いや、遅い。
モーションが大きすぎる。
『剣を振りかぶる』という予備動作が丸見えだ。FPSなら「撃ってください」と言っているようなものだ。
(AIの難易度設定、イージーになってないか?)
俺は欠伸を噛み殺しながら、右手の小指をわずかに動かした。
機体が半歩、右にスライドする。
ブンッ!
豪快な空振り。敵の大剣が地面を叩く。
『なっ!? 避けた!?』
「硬直時間が長いよ。隙だらけだ」
俺は敵が剣を引き抜こうとしている隙に、スッと懐に入り込む。
そして、理髪師が客の髭を剃るような繊細さで、敵の関節部分に指を這わせた。
このゲームの物理エンジンがどれほどか、試させてもらおう。
俺の機体の指が、敵の膝関節の「装甲の継ぎ目」に引っかかる。
クッ、と手首を返す。
テコの原理。
バキィィン!!
『ぐあぁぁぁ!? ひ、膝がぁぁぁ!』
敵の巨体が、ありえない方向にひしゃげて崩れ落ちた。
俺はそのまま、倒れた敵の背中に乗り、バックパックからワイヤーアンカーを射出。
残りの二体に向かって撃ち込む。
「え、これオートエイム(自動照準)入ってる? 判定ガバガバなんだけど」
狙ったわけでもないのに、ワイヤーは正確に敵のメインカメラ(目)に吸い込まれた。
視界を奪われた二体がパニックになり、同士討ちを始める。
『うわぁぁ! 前が見えん! こっちに来るな!』
『バカ野郎、俺だ! 味方だ!』
「……AIのルーチン、どうなってんだ? 連携も取れないのか」
俺は呆れた。
今のFPS界隈、Bot(CPU)だってもっとマシな動きをするぞ。
これじゃあ「無双ゲー」としての爽快感すらない。ただの作業だ。
「フィニッシュムーブ、っと」
俺は倒れているガレス隊長機の首元に、隠し武器のヒート・ナイフを突き立てた。
ブシュゥゥン!
強制排出のエフェクトと共に、敵機のシグナルが消える。
残りの二体も、ワイヤーでぐるぐる巻きにして転ばせ、機能停止させた。
所要時間、わずか30秒。
俺は誰もいない荒野で、ポツリと呟いた。
「あのー、運営さん。これ『ハードモード』に変えられませんか? ヌルすぎて練習にならないんですけど」
◇
(モニター室・視点)
シーン……。
司令室は、静まり返っていた。
歴戦の騎士団長が、口をパクパクさせている。
ドワーフの技術長が、計算機を落として呆然としている。
「……ありえん。ガレス隊のフォーメーションを、単騎で……しかも無傷で?」
「あの子、何をした? 関節技? 巨大ロボットで柔術をやったのか?」
「最後、ワイヤーでカメラを潰しましたよ……あんな芸当、プログラムでも不可能です……」
全員の視線が、カップ麺を啜り終えた国王に集まる。
太郎は満足げに頷いた。
「言っただろう? 彼は『本物』だと。……さて、牛太君に伝えてやってくれ」
太郎はマイクのスイッチを入れた。
『あー、すまん牛太君。ちょっと設定ミスで「ベリーイージー」になってたわ』
モニターの向こうで、牛太が「やっぱそうですよね~w」と安堵したように笑う。
その笑顔を見て、将軍たちは背筋を凍らせた。
王国最強の騎士団を子供扱いしておいて、「設定ミス」で納得するその感覚。
(((この男……無自覚な化け物だ……!)))
こうして、タロウ軍の極秘ファイルに、一人のとんでもないルーキーの名が刻まれた。
コードネーム『チー牛』。
後に大陸全土を震え上がらせる、伝説の司令官の誕生である。




