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【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~  作者: 月神世一
本編

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EP 13

早口で解説したら引かれた

 恋とは、盲目である。

 だが、千津ちず 牛太ぎゅうたの場合、それは盲目どころか「認知機能の完全なバグ」と言っていいだろう。

 タロウ国の商業区、その一等地に聳え立つ『ゴルド商会』本社ビル。

 その最上階にある豪華な応接室に、場違いな男が一人座っていた。

 三色チェックのネルシャツ。

 指紋で少し汚れた丸メガネ。

 そして、緊張のあまり貧乏ゆすりが止まらない右足。

「(ふぅ……落ち着け俺。これはデートだ。いや、実質的な結納と言っても過言ではない)」

 牛太は出された高級紅茶(一杯で牛丼10杯分の値段)に口もつけず、脳内でシミュレーションを繰り返していた。

 昨日の今日で、弁護士リベラから「お話があります」と呼び出されたのだ。

 彼の思考回路において、これが「愛の告白」以外である可能性はゼロだった。

 ガチャリ。重厚な扉が開く。

「お待たせしましたわ、牛太様」

 現れたのは、今日も完璧な美貌を誇るリベラだった。

 シルクのドレスに身を包み、優雅に微笑む姿は、まさに高嶺の花。

「い、いえっ! 僕も今来たとこデュフ!」

 牛太は裏返った声で立ち上がり、無意味にメガネの位置を直した。

 リベラが対面のソファに腰を下ろす。

「単刀直入に申し上げますわ。……貴方の『知識』をお借りしたいのです」

 リベラが切り出した。

 彼女の目的は単純明快だ。

 今後、ゴルド商会が『マグナギア関連事業』を展開するにあたり、専門的な技術顧問アドバイザーが欲しかっただけである。

 牛太のような「扱いの楽な専門家」を囲い込むための、純粋なビジネスミーティングだ。

 しかし、牛太の脳内変換機能フィルタリングは優秀すぎた。

「(知識……? そうか、彼女は俺の内面を、知性を愛してくれているのか! 俺の趣味や得意分野を共有したいと!)」

 牛太のスイッチが入った。

 オタク特有の、「自分のフィールドに相手が入ってきた瞬間の加速」が始まる。

「あ、あのですねリベラさん! マグナギアっていうのは単なるオモチャじゃないんです。あれは現代の……いや、異世界の魔導技術と物理演算の結晶でして!」

 ここから、地獄の時間が始まった。

「例えば昨日のサソリ型メカ、あれの関節駆動系、甘かったですよね? 本来ならサーボモーターのトルク配分を……あ、トルクっていうのは回転力のことでして、F=r×Fで求められるんですけど、ドワーフの設計思想は基本的に『剛性』に頼りすぎなんです! もっと『柔よく剛を制す』というか、サスペンションの減衰係数をですね……」

 早口である。

 息継ぎのタイミングが見当たらない。

 牛太は身を乗り出し、手振りを交えて熱弁を振るう。

 その瞳はギラギラと輝き、口角には白い泡が溜まっている。

「……」

 リベラの笑顔が、陶器のように固まっていた。

 彼女はただ「この契約書の、技術的な不備がないか見てほしい」と言おうとしただけなのだ。

 それなのに、なぜか「流体力学」と「FPSのフレームレート理論」の講義が始まってしまった。

「……なるほど、そうですのね(長い……)」

「そうなんです! で、法的に言えばですね! 俺、日本の……あ、いや、故郷の法律も少し齧ってまして! PL法(製造物責任法)の観点から見ると、あの改造メカは完全にアウトでして! 欠陥の定義っていうのは『設計上の欠陥』『製造上の欠陥』『指示・警告上の欠陥』の三つがありましてね、ドグマ博士のあれは全部満たしてるわけでしてデュフフ!」

 牛太は止まらない。

 相手が黙っているのを「興味津々で聞き入っている」と勘違いしているからだ。

 彼は「自分がいかに博識で、頼りになる男か」をアピールしているつもりなのだ。

 だが、現実は残酷である。

 リベラの瞳から、完全にハイライトが消えていた。

 彼女は扇子の裏で、小さくあくびを噛み殺しながら、心の中でこう呟いていた。

「(……会話のドッジボールが酷すぎますわ。この男、黙って座っていれば『腕の良い職人』なのに、口を開いた瞬間に『歩く騒音公害』になりますのね)」

 リベラは冷めた紅茶を一口飲み、絶妙なタイミングで会話(独演会)を遮った。

「ええ、大変よく分かりましたわ(全く聞いていませんでしたが)。……つまり、この契約書の第5条、『機体損壊時の免責事項』は修正した方がいい、ということですわね?」

「えっ? あ、はい! そうです! その通りです!」

 牛太はキョトンとした。

 自分はまだそこまで話していなかったはずだ。だが、結論としては合っている。

「(す、すごい……俺の高度なマシンガントークから、瞬時に要点を理解したのか!? さすが俺の選んだ女……知性レベルが俺と釣り合っている!)」

 ポジティブすぎる解釈である。

 リベラは単に、彼が早口の合間に指差した箇所を読み取っただけなのだが。

「助かりましたわ、牛太様。……では、今日はこれで」

 リベラが立ち上がる。

 これ以上の滞在は精神衛生上よろしくないという判断だ。

「あ、もう終わりですか? まだ『対空兵器における弾道計算のロマン』について話してないんですけど……」

「それはまた、次の機会(永遠に来ない未来)に」

 リベラは営業スマイルで彼を出口へ誘導する。

 牛太は名残惜しそうにしながらも、「また会える」という事実に胸を躍らせた。

「(ふふっ……完全に俺の話術に魅了されていたな。最後、顔が赤かったし)」

 それは酸欠になりそうな彼を見ての呆れ顔だったのだが。

「では、また連絡します! リベラさん!」

「ええ、お気をつけて(二度と早口にならないでくださいまし)」

 バタン。

 重厚な扉が閉まる。

 廊下に取り残された牛太は、ガッツポーズをした。

「勝った。……知的な会話トークで、彼女のハートをガッチリ掴んだぞ。これは結婚まで秒読みだな」

 彼は満足げに、チェックシャツの襟を正した。

 一方、部屋の中では、リベラが即座に窓を全開にし、秘書に「強力な空気清浄機を持ってきてちょうだい。空気が淀んでますわ」と指示を出していたことを、彼は知らない。

 こうして、世界最強のパイロットと世界最強の弁護士の、あまりにも噛み合わない協力関係が成立した。

 次なる犠牲者ヒロインが現れるまで、牛太の勘違い暴走機関車は止まらないのである。

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