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『悪役令嬢(ただし、前世は推理小説家)は静かに断罪されたい~死亡フラグを回避したら、王宮の名探偵に祭り上げられてしまいました~』  作者: 和三盆


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第29話 『標的の名はシャーロット』

倉庫全体が震えた。

天井の梁がぎしりと軋み、壁の奥から空気が逆流してくる。


アルフレッドがシャーロットを庇うように押し倒し、剣を構えた。

その刹那、床を這うように黒い線が走る。


石膏の粉ではない。

もっと乾いていて鋭い──“炭”。


シャーロットは息を呑む。


(罠じゃない……これ、“演出”よ)


黒い線は、生き物のように床を走り、三人とレドモンドの間に境界を描いた。

四角い枠。

その枠の中だけ、空気の流れが異様に静まる。


レドモンドが震える声で叫ぶ。


「近づくな!

それは……結界だ! 踏み込んだ瞬間──“役を奪われる”!」


「役……?」


シャーロットの眉が寄る。


レドモンドはかつてないほど怯えていた。

舞台の怪談も笑い飛ばしていた男が、今はひどく取り乱している。


「ヴァレンは……舞台の“主役”を奪うんだ。

誰からでも……簡単に。

そして君を──主役にしようとしてる!」


その言葉に、空気が固まった。


主役。

それはつまり、物語の中心。

そしてヴァレンの言う“中心”とは──


(“破滅の主役”)


シャーロットの脳裏に、第10話での言葉がよみがえった。


──あなたを、物語の中心に引き戻す。

──逃げても無駄ですよ、シャーロット。


アルフレッドが歯を食いしばる。


「ふざけるな……!

お前を主役にして、どうするつもりだ!」


レドモンドが震える手で胸元を掴む。


「君が中心に立てば……全員の結末が、ヴァレンの“脚本通り”に収束する。

僕はその“稽古台”にされて……役の書き換えを……」


そこで言葉が途切れた。


彼の瞳に、一瞬だけ“異物の光”が走る。


シャーロットの背筋が凍りついた。


「レドモンド……あなた、操られて──」


言い終わる前に、レドモンドが叫んだ。


「違う!

完全には操られてない!

だから今のうちに言う……!」


彼はふらつきながら、四角い枠の外から、必死に手を伸ばした。


「“北倉庫”じゃない……本命は別だ!

君を誘ってここまで来させただけ!

本当の舞台は──王城の中央ホール!」


アルフレッドとマーリエが同時に息を呑む。


「王城……!?」


「そんな……あそこは警備が──」


「だからこそだよ!!」


レドモンドの声は、もはや悲鳴だった。


「誰もが隙を生む場所。

式典の準備が進んでいて、物資が出入りし、誰でも人を紛れ込ませられる。

ヴァレンは……中央ホールを“舞台”にするつもりなんだ!」


シャーロットの胸が強く脈打った。


(中央ホール……

そこは、王太子の執務室に最も近い)


嫌な予感どころではなかった。

これは──悪夢に近い。


レドモンドは続ける。


「君を主役にして、王城の中心で“クライマックス”を起こす……

それが、ヴァレンの脚本だ!」


次の瞬間──


カチッ。


どこかで何かが外れる小さな音がした。


シャーロットが振り返った瞬間、天井から落ちた。


白いものが、ざらざらと。


(石膏……じゃない。これは……)


アルフレッドがシャーロットを抱えて横へ飛ぶ。


直後、床に落ちた白い粉が“人の形”に膨らんだ。


形だけの“影の写し”ではない。

今度は──人間の背丈のまま、ほとんど“実物の人間”に近い。


マーリエが悲鳴を押し殺した。


「これ……こんなに精密な……!」


シャーロットの指先が震える。


(本物と見まごうほどの“影”……

ヴァレン、あなた……どこまで作り込むつもり?)


影の写しは動く気配こそなかったが、そこに立っているだけで圧倒的な“嫌な存在感”を放っていた。


その背後の壁に、文字が浮かび上がった。


『主役のあなたへ

 挨拶は、舞台で』


ヴァレンの筆跡。


(やっぱり……王城が最終幕)


シャーロットは紙を握るように無意識に拳を握った。


レドモンドが苦しげに言う。


「行け……シャーロット。

僕はもう……ヴァレンに“役”の一部を押しつけられている。

長くは……持たない」


「置いていけるわけないわ……!」


「置いて行け!!

君まで巻き込まれたら……この劇は、本当に“悲劇”で終わるんだ!」


シャーロットの目が揺れた。


そのとき、アルフレッドが彼女の肩に手を置く。


「シャーロット。

ここは任せろ。

レドモンドさんは俺たちが守る。

お前は……お前にしかできない場所へ行け」


マーリエも涙ぐみながら頷いた。


「あなたじゃなきゃ……ヴァレンを止められないよ」


胸が痛む。

でも、理解していた。


(私が動かなきゃ……本当に、全員が“ヴァレンの物語”に飲まれる)


シャーロットは深く息を吸った。


そして、レドモンドの前に跪いた。


「必ず助けるわ。

そのためにも……私は行く」


レドモンドは泣きそうに笑った。


「……うん。

行って。

次の幕は……君が変えるんだ」


そして。


倉庫の扉が、再び──自動的に開いた。


まるで、“主役の退場”が準備されていたかのように。


シャーロットは振り返らず、暗い夜の道へ走り出した。


向かう先はただひとつ。

王城中央ホール──ヴァレンが待つ最終幕。


(ヴァレン……

舞台に上がるのは私よ。

でも、あなたの脚本通りには終わらせない)


夜風が吹き、シャーロットの髪を揺らす。


その風は、まるでこれから訪れる“最後の幕”の音を運んでくるようだった。

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