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『悪役令嬢(ただし、前世は推理小説家)は静かに断罪されたい~死亡フラグを回避したら、王宮の名探偵に祭り上げられてしまいました~』  作者: 和三盆


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第25話 『舞台跡に落ちる三つの足音』

王都の北端へ向かう道は、人の気配が薄かった。

日暮れ前の光が、石畳に斜めに伸び、まるで“ここから先は別世界”と線を引いているようだった。


シャーロットはフードを深くかぶり、アルフレッドとマーリエと肩を並べて歩いた。

三人とも言葉が少ない。

けれど、その沈黙は重苦しさではなく、互いの鼓動の速さを確かめ合うような静かな緊張だった。


(レドモンド・フィス……

あなたはどこへ消えて、どんな“役”を与えられたの?)


昨日から胸に居座るその問いが、夕空の下でさらに濃くなる。


やがて、王都の最北端に辿り着いた。

石壁の外れ、草に覆われた広い空き地。

そこに“劇場のかけら”のような木材が散乱している。


かつて仮設劇場があった場所――

今は跡形もないはずの場所だ。


アルフレッドが周囲を確認しながら言った。


「痕跡は……誰かが最近、ここに入っているな」


草が寝ている。

足跡は風に削られつつも残っている。

ただ、その向きが妙だった。


マーリエがしゃがんで、指でなぞる。


「ねぇ……これ、行き先がバラバラじゃない?

同じ靴跡なのに、方向が……三方向」


シャーロットは胸の奥がひんやりとした。


「誘導ね。

ヴァレンは“この場所で迷わせた誰か”がいたと見せたいのよ」


“芝居がかった痕跡”。

そういう気配。


ふいに、風が吹いた。

足元の木片がコトリと転がり、シャーロットのつま先に当たる。


拾い上げると、それは古い舞台の“側幕”の破片だった。

裏には薄く文字が焼き付いている。


《第十三幕:影の演者》


アルフレッドがしゃがみ込む。


「……劇団の古い脚本か?」


「違うわ。レドモンドの劇団は十二幕構成だった。

“第十三幕”なんて、本来ないはずよ」


シャーロットは木片を裏返した。

すると、指先に黒い粉がついた。

灰。

そして、その灰には微かに香りがある。


――昨夜の封書と同じ、甘い残り香。


(やっぱり……ここに来たのね、ヴァレン)


胸がざわついた瞬間、マーリエが緊張した声をあげた。


「……誰か、いる?」


三人が一斉に顔を上げる。

舞台跡の一番奥。

破れた幕の影に、人影が立っている。


逆光で顔は見えない。

けれど、その姿勢、その佇まい。


シャーロットの心臓が強く跳ねた。


「レドモンド……?」


思わず名前が漏れる。

影はわずかに動いた。

それは“肯定”にも見えるし、“偶然”にも見える。

曖昧な、けれど恐ろしく“計算された”動き。


アルフレッドが前に出ようとした瞬間、シャーロットが袖を掴んだ。


「待って。あれは……少しおかしい」


影の立ち方が不自然なのだ。

片足に重心を寄せすぎている。

それは、“人”というより、

まるで“人形の重心”。


マーリエが震える声で言った。


「ね、ねぇ……まさか……」


シャーロットはそっと息を吸い、影に一歩近づく。


「あなたはレドモンドじゃない。

でも……彼を“演じるように作られた誰か”。

いいえ——誰か、じゃない。

“何か”」


その瞬間。


影の足元が、コトリと崩れた。

倒れた拍子に、木製の腕が露わになる。


それは人間ではなく――

精巧な、操り人形だった。


マーリエが悲鳴を吞み込み、アルフレッドが即座に剣に手をかける。


シャーロットは操り人形の胸元に落ちた紙片を拾った。


そこには、たった一文。


《影は人ではない。

 だが、人を映す。》


それを見た瞬間、背筋が冷たいものに撫でられた。


「これ……ヴァレンは、私に“影の定義”を見せようとしているのね」


アルフレッドが紙片を覗き込み、低く唸る。


「レドモンド本人を見せるんじゃなく……

影を、形にして配置したのか」


「ええ。

つまり、レドモンドは“この場にいない”。

でも“姿勢や癖のデータだけ”はここにある。

影は人間じゃない。

けれど、その人間の“情報”を写す」


マーリエが小さく震えながら尋ねた。


「じゃあ……レドモンド本人は……?」


シャーロットは夕闇の中へ視線を向けた。


「どこかで……まだ生きてる。

そしてヴァレンはそれを、私に気づかせたかった」


操り人形が風に吹かれ、ギシリと揺れる。


その揺れ方は、まるで

――“幕が上がる前の合図”のように見えた。


(ヴァレン。

あなた、どこまで私を引きずり込む気なの?)


シャーロットは紙片を胸元で握りしめた。


レドモンドの影は、形になった。

ならば次は――本物を探せということだ。


「行きましょう。

ヴァレンは“舞台の次の幕”を、もう始めている」


夕焼けが沈み、北端の空が深い藍色に変わる。


その色の中で、三人の影が長く伸びた。


まるで新しい幕が、静かに降りていくかのように。

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