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『悪役令嬢(ただし、前世は推理小説家)は静かに断罪されたい~死亡フラグを回避したら、王宮の名探偵に祭り上げられてしまいました~』  作者: 和三盆


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第24話 『午前の影踏みと、三人の沈黙』

王城の朝は、いつもより静かだった。

静けさ――というより、“音が抜け落ちている”ような。

通りすがる侍女たちの声も、どこか控えめだ。


昨夜の火薬事件。

そして、リースの部屋に残されたかすかな“侵入の痕跡”。


城は、誰も口にしないまま緊張していた。


シャーロットは書庫の鍵を握りしめたまま、長い廊下を歩いていた。

足音が石床に淡々と響く。

その音だけが、彼女を現実に繋ぎ止めている気がした。


(ヴァレン……あなたは何を見せたいの?

誰を、舞台に立たせたいの?)


昨日の封書。「影」。

あの一語に、彼女はずっと胸の奥を掴まれている。


「シャーロット」


背後からアルフレッドの声がした。

振り返ると、彼は珍しく少し乱れた気配を纏っていた。


「北端の爆破跡、追加の調査結果が出た」


「痕跡は?」


「ほぼ何も。だが……異様に“整って”いた。

破片の散らばり方が一定すぎる。人の仕業ではない“演出”だ」


シャーロットは瞼を閉じる。

やっぱり、と小さく思う。


「ヴァレン……外側の空気まで舞台にしているわね」


アルフレッドは眉を寄せながら続ける。


「そしてもう一つ。

爆破地点の中心に、紙片が一枚」


「図面の?」


「いや。今度は——“名前”だ」


息を呑む。

彼は紙片を差し出す。


白い紙に、ただ一行。


『レドモンド・フィス』


シャーロットは、紙を持つ指が少し震えるのを自覚した。


「わざわざ……“見せて”きたのね」


「知っていたのか?」


「ええ。書庫で見つけた行方不明者の記録にあった名前よ。

舞台に立っていた大道芸人。

カメラの前で、観客を“引き込む”視線をしていた」


アルフレッドは彼女の瞳を探すように見た。


「……ヴァレンの正体か?」


「今は断定できない。

でも、“モデル”にしている可能性は高いわ」


シャーロットは歩き出した。紙を持つ手は軽く震えていたが、その足は静かで、まっすぐだった。


「彼は私に問いかけている。

──この名前に、どんな“意味”を見つける?って」


「おまえを指名しているようだな」


「そうね。困ったことに、嫌でも“観客の中心”にされた」


アルフレッドは彼女の後ろ姿を見つめ、ひとつ息を吐いた。


「なら、俺も舞台に上がる。

おまえを独りにする気はない」


その言葉は、廊下の冷気をやわらげるほど温かかった。

けれど、その温度は一瞬で消える。

マーリエが走ってきたからだ。


「シャーロット! い、急ぎなの!」


息を切らしながら、手に握る布切れを見せる。


「リースの部屋の窓枠……これが挟まってたの」


布は小さく、灰の匂いが残っている。

それは、昨夜の封書に落ちていた灰と同じ匂いだった。


シャーロットはその布を指でつまみ、静かに言った。


「ヴァレンは……“気づかせた”のね。

リースの部屋に入れたことを」


「なぜわざわざそんなことを」


「私に、“影”を意識させるためよ。

彼は、影を使って舞台を仕立てる。

その影が、私にとって何を意味するか……見たいんだわ」


沈黙が落ちた。


アルフレッドは低く言った。


「シャーロット。

……おまえが怯えるのを、楽しんでいる可能性は?」


「あるわ。でもね、彼の興味は“恐怖”よりもっと先にある。

私の反応を……“脚本の素材”にしてるのよ」


彼女は窓の外を見る。

陽光は薄く、まるで煙の向こうから差すようだった。


「ヴァレンは、舞台の中心に私を置きたい。

でも……中心に立つのは、私だけじゃない」


「誰か、他に?」


シャーロットは柔らかく息を吐いた。


「ええ。“影”。

たぶん、彼はその影を……私のすぐそばに置いている」


その言葉の響きは、三人の間に、奇妙な重みを落とした。


マーリエは不安げに、シャーロットの袖をつまむ。


「ねぇ……その“影”って……リースのことじゃないよね?」


シャーロットは首を振る。


「違う。

でも……リースは“影へ続く入口”なのかもしれない」


アルフレッドが警戒するように窓へ歩いた。


「なら、一刻も早く“影”を炙り出すしかない。

レドモンドの足跡……行きつく先は?」


シャーロットは紙を握りしめた。


「——今夜、行きたい場所があるわ」


二人が振り返る。


「レドモンドが最後に立った舞台。

市壁の脇の、古い仮設劇場跡。

記録には“解体済み”とあったけど……

ヴァレンの置いた名前は、そこに呼んでる」


アルフレッドが頷く。


「行くぞ。護衛も連れて——」


「ううん。

たぶんヴァレンは、“三人だけ”を望んでる」


シャーロットはマーリエとアルフレッドを見た。

そして、少しだけ微笑んだ。


「舞台に上がるのは……私と、あなたたち。

“演出家”が望む形で始めるつもりはないけれど、

呼ばれたなら、行ってあげるしかないでしょう?」


その笑みの奥には、恐怖と覚悟が静かに並んでいた。


今夜、古い舞台跡へ。

レドモンドの名を掲げた“招待”に応じるために。


そして、シャーロットの“影”が何を示すのか。

その答えが、闇の奥で息を潜めていた。

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