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友達に彼女ができました

作者: ウィロ

麻生玲(大学4年生・21歳)、柳康太(社会人・23歳)、佐藤浩一(大学4年生・21歳)、浜金谷慶(大学3年生・20歳)、中野隼人(フリーター・21歳)

「――ありがとうございました」


 パソコンの画面が切り替わって一気に緊張感が解ける。


 面接の一つが、今終わった。

 上手くいったような気もするし、いかなかったような気もする。

 想定通り答えられた質問もあれば、必死にその場で考えながら答えた質問もあった。

 バイトの面接レベルならともかく、就職活動の面接は面接官も就活生全員に何らかの期待をしているわけではないことが多いので非常につまらない。

 今回の面接官なんか(おそらく)会社の作った質問集を機械的に無表情で聞いてくるだけのハズレ面接官だったし。


 とりあえず、厄介ごとの一つが終わったことの解放感に浸ることにした。

 こうやって面接が終わってすぐ気が抜けるというのは、リモート面接の良いところかもしれないと思った。

 対面での面接だと、終わってからもしばらくは気が抜けなかっただろうし。


 とはいえ、いつまでもダラダラはしていられない。

 今の面接だって一次面接が終わったに過ぎないし、直近でいえば来週までの卒論の概要を書いて提出しなければならない。

 単位だって卒業までにあと数単位は取らなければならないので、授業をサボり過ぎるわけにもいかない。


 やらなければならないことはたくさんあるが、どれもいまいちやる気が出ない。

 それに今日は久しぶりにバイトの友達と飲みに行く予定もあった。

 今日くらい休んでもいいんじゃないかという悪魔の囁きに負け、予定までの時間を自堕落に過ごすのだった。



「おっ、それいいんじゃない?」


 集合時間に少し遅れて、僕はさも最初からいましたよ感を出して、友達三人に声をかける。


 遅れたのは、いざ集合場所に行こうとなった時に、現金の手持ちが少ないことに気付いたからだった。

 最近はキャッシュレス払いが増えて、現金を使っていなかったからなぁ。


 そんなこんなで僕たちは今、有名な回転寿司チェーン店の一つにいた。

 あ、今は回転寿司じゃなくて完全オーダー制になったんだっけ。

 飲み屋じゃないのは、友達の一人が寿司も食べに行きたいと言い出したからだった。

 だったら、両方行こうと。

 ここで海鮮系の飲み屋に行こうとならないあたり、学生だなと思う。


 遅れたことを多少いじられつつも、誰も謝罪を要求せず、気にしていないようだった。

 突然だけど、僕にはちょっとした能力がある。

 相手が求めていることが色で何となく分かるというものだ。

 共感して欲しい時は緑色、盛り上げて欲しい時は赤色、謝罪して欲しい時は紫色、といった具合に。


 今は全体的に赤色になっているので、遅れたことを謝罪するよりも場を盛り上げる発言をした方が良いということだ。

 とりあえず、タッチパネルの言語表示を弄って遊んでいる浜金谷(はまかなや)君に適当な突っ込みを入れつつ、自分の分の寿司も頼んでいく。


 途中、佐藤君が『この店のうどんはコスパ最強だから』とか言い出してテーブルの上が寿司屋からうどん屋にチェンジしたのにはいかにも男子四人のノリという感じで笑った。

 佐藤君のこういう空気を読まないというか、雰囲気に流されないところはすごいなと思う。

 さっきの発言だって佐藤君から緑色のオーラがほとんど出ていなかったから、共感して欲しいとかじゃなくて、自分がそう思ったから言ったってことだし。

 空気に流されるんじゃなくて、空気を作るタイプ。僕にはできないことだ。


 ある程度空腹が満たされたところで、雰囲気は食事から会話メインに切り替わっていく。


「そういえば、隼人って何で忙しいの?」


 柳さんの質問に佐藤君と浜金谷君は少し拒絶の黒いオーラを出す。

 

「あー、何でっすかねー」

「あいつは今あれやからなー」


 適当にはぐらかそうとするが、少し空気が読めないところがある柳さんはさらに追求する。


「んー、あれって何?」


 隼人とは僕たちのバイト友達の一人で、以前まではよく五人で一緒に遊んでいた人だ。

 柳さんは二つ年上の先輩で既にバイトを卒業して社会人になっているので、隼人が忙しいと言って僕らと遊ばなくなった理由を知らないようだった。


「あー、隼人は付き合い始めたらしいから。……お母さんと」

「あー、なるほどね。……それならお姉ちゃんとの方がましじゃない?」

「どっちでも一緒でしょ」

「それはそう」


 佐藤君が上手い?具合に隼人の現状を柳さんに伝える。


 それにしても、柳さんは相変わらず『色』を出さない。

 今回はただの事実確認とはいえ、普通は少しくらい面白い返答を期待して赤色っぽいオーラが出たり、不安な気持ちが出て青色っぽいオーラが出たりするものなのに。

 まあ、その方が僕も普通の人間としてコミュニケーションできてる気がして別に良いんだけど。


 そこから話はまた切り替わって、仕事の話、将来の話、趣味の話などありふれた話題が続いていく。

 その度に色は少しずつ、あるいは劇的に変化し、その色に合わせた言動を僕はしていく。

 それだけ聞くと滅茶苦茶疲れることをやっているように聞こえるが、そんなことはない。

 色に合わせた行動をするのは癖みたいなものだし、僕はみんながこうやって笑っているのを見るのが好きだ。

 だから、こうやって友達と話をすることは普通に楽しい。


 そんな楽しい時間も永遠には続かないし、なんなら楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 寿司屋の後、焼き鳥屋にもはしごして目一杯楽しんだが、そろそろ帰らなければならない時間だろう。

 明日も、ほとんどの人は学校なり会社なりに行かないといけないみたいだし。


 名残惜しくて店から少し離れた場所で三十分くらい喋っていたが、本格的に帰る時間となった。


「じゃあ、また今度」

「またなー」


 帰り道の方向が違う佐藤君と浜金谷君と別れ、柳さんと二人で帰ることになる。

 まだ日はまたいでいないが、それでも辺りは真っ暗な夜でこれでは僕の『色を見る』能力もあまり意味はない。

 そもそも、柳さんはほとんど色を出さないんだけど。


「そういや、隼人ってまた誘った方が良いのかな?」


 あまりリーダーという感じはしないが、年上ということもあり何だかんだでみんなを誘うことが多いのは柳さんだ。

 何でもない風に切り出してはいるが、会話にちょっと間があったので、結構真剣に聞いているのだと思う。

 誰かの相談を受けるのは割と好きな方なので、率直に自分の意見を言ってみる。


「僕は別に気にせず誘った方が良いと思います…け…ど……」


 え、え、え……!?!!

 思わず、僕は柳さんの方から顔を背けてしまう。


「ん?麻生君、どうかした?」

「あ、いや、なんでもないですよ」


 少し覚悟を決めて柳さんの方に向き直ると、そこにはいつもの柳さんの顔があるだけだった。


「そ、そう。なら、良かったけど」


 僕の顔が少し強張っていたからか、若干たじろいだけれどすぐにいつもの調子に戻った。


 ……さっきのは僕の見間違いだったんだろうか。

 あの一瞬、柳さんから見たことがないくらい禍々しい黒っぽい『色』が見えた。

 あれはただの拒絶の意味での黒色ではないと直感した。

 上手く説明できないけれど、透明感のある黒色というか、艶のある綺麗な黒色というか。

 まあ、だから何だという話だけど。


 結局、その時以来隼人の話題はお互いに出すことなくもうすぐ僕の家に着くというところまで来た。

 

 あの後、表面上はいつもと変わらない調子で雑談をしていたけれど、僕はあの色が気になって仕方がなかった。

 もう今しかあの色について知るタイミングはない!


「柳さん、ちょっとこっちに来てもらえませんか?」

「え?それはいいんだけど……」


 オーラの色が少しでも見やすいように、明るめの街灯の下に移動する。

 ここなら他の通行人の邪魔にもならないし、周りを気にせず話ができる。

 突然の僕の行動に柳さんは戸惑っているが構わず続ける。


「柳さん、結局隼人のことはどうするつもりですか?」


 これは、軽いジョブだ。

 あの色は隼人に関係することだが、それだけじゃないとも思っていた。

 だって、これまでも隼人の話題は出ていたし、直接隼人と一緒に遊んでいる時もあんな色は見たことなかった。

 だから、まずは大雑把なところから攻めていく。


「どうするって……麻生君の言うようにまた()()誘ってみるつもりだけど」

「!」


 ……きた。

 意識していないと分からないレベルだけど、確かにほんのちょっとだけ()()黒っぽい色のオーラが出た。

 どんどん行こう。


「隼人に彼女ができたことについてどう思いました?」

「いや……普通に良かったなって思ったけど。まあ、俺らと遊びにくくなるのはちょっと残念だけどね」


 少しだけ、あの黒っぽい色のオーラが強くなった気がする。

 ……もしかして、嫉妬、なのか?

 たしか、柳さんに彼女はいなかったはずだから、それを羨ましく思ったとか?

 でも、嫉妬なら他の人でも見たことあるし、あんな色にならないはずなんだけどなぁ。

 確かめてみよう。


「羨ましいっすよね~。リア充爆発しろってちょっと思いましたもん」

「それは俺は思わなかったけどな。あんまり彼女欲しいとか思ったことないし」


 あ、色が消えた。

 やっぱり、嫉妬じゃなかったっぽい。

 嫉妬なら少なくとも緑に近い色のオーラが出てたはずだし。

 当てが外れたけれど、黙るのも不自然なので適当に会話を続ける。


「たしかに、彼女がいると気を遣うことも多いですからねー」

「佐藤君とかも同じようなこと言ってたしな」

「佐藤君の場合、素直じゃないだけだと思いますけどね」

「俺は素直……かな?」

「柳さんはそもそもそういうことあまり話さないですよね。もっと色々話してくださいよー」


 そんな会話をしていると、またあの黒っぽい色のオーラが出た。


 ん~、ここで出るの、か。

 しかも、今までより黒色の中の

 普通に考えれば、秘密主義の人にありがちな自分のことを探られたくないってことなんだろうけど……。

 そういう人はこれまでにも見てきたし、柳さんの性格的にも違う気がする。


 もうちょっとで分かりそうなんだよなぁ、と思いながらこれまであの『色』が出た場面を振り返ってみる。


 一つ目、隼人のことを誘った方が良いのか聞いてきた場面。

 二つ目、隼人のことをもう一度誘うと意思表示した場面。

 三つ目、僕が柳さんの性格について話して、要望を伝えた場面。


 これらの場面を自分に置き換えてみると……


 あっ。


「あっ」

「どしたの?急にボーっとして。眠くなってきたならそろそろ帰る?」


 分かった。

 最初は禍々しくも感じたあの透明な黒色の意味は――


「眠いわけじゃないんですけど……そうですね。そろそろ帰りますか」

「そうするか。じゃ、また今度」

「はい!……あ、あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……あっ、そう?」

「では、また今度!」


 僕の突然の告白に柳さんは面食らった様子だったけど、これで良かったはずだ。

 もちろん、この流れで僕がゲイ的な意味で好きだと言ったわけではない。


 これは僕の予想だけど、あの透明感のある黒色は正直に答えて欲しいという意味の色だと思った。

 言い換えれば、嘘をつかないで欲しいということ。

 誰だって嘘をつかれたくはないとは思うけど、それが一番の想いとして出てくるのは珍しいことだと思う。

 だってそれって、常に相手に嘘をつかれているかもしれないって警戒してるってことでしょ?

 そんなの滅茶苦茶疲れるじゃん!


 当たり前だけど、柳さんがそんな疲れることをいつもしているとは僕だって思わない。

 実際、あの色を見たのは今日が初めてだし。


 でも、普段から色を出さないのは警戒心の現れだとするならば。

 あれらの場面で嘘を警戒する気持ちも分かる。


 まあ、今回の場合は嘘を警戒するというより、僕らとの関係について不安に思う気持ちが大きかったんだろうけど。

 柳さんがあの色を出した場面のすべてで、僕らとの関係性に対する不安が見え隠れしていた。

 三つ目の場面は分かりにくいけど、自分の性格に関する評価を聞くのだから不安になる気持ちが出るのも分からなくはない。


 それなら、僕はそんな不安がなくなるようなことにマジっぽく言うだけだ。

 誰が相手だとしても期待にはできるだけ応えるという僕のスタイルは変わらない。


 その代わり――僕を嫌わないでね。



 なんてね。


みなさんは友達に彼女ができた時、どのような対応を取りますか?

A.今までと変わらず接する

B.そっと距離を置く

C.積極的に絡んで弄る

僕自身、Aが多かったかな……とは思いますが。

実際、麻生君の能力で拒絶の黒いオーラが見えたらショックでBになると思います。(笑)

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