51:社交の結果は
一週間ぶりに会うルカ様に少しでも気に入ってもらいたくて、ドレス選びには時間がかかってしまった。
ミアやロゼッタの意見を聞きながら、頭が痛くなるくらいに悩んだ挙句、最終的に選んだのは薄桃色のドレス。
ふんわり膨らんだ袖と三段になったスカート。
後ろの腰部分で結ばれたリボンが可愛らしいドレスだ。
頭にはリボンを結び、シンプルな意匠の小さな首飾りもつけた。
――あ、来た。
頼りない月光の下でも、ぼんやりと浮かび上がる輪郭だけでわかる。
真ん中にいるのがルカ様で、向かって右にいるのがラーク、左にいるのがシエナだ。
『柘榴の宮』の外灯が照らす範囲内に三人が入るのを待ってから、私はスカートをつまんで優雅に一礼した。
「お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした」
月と星の社交場と化した夜空を背景に、ルカ様は軽く目を見張って動きを止めている。
シエナはルカ様と似たような顔をしているし、ラークは「へえ。様になってんじゃん」といわんばかりに唇の端を上げた。
「……どうでしょうか?」
誰よりもルカ様の誉め言葉が欲しくてドキドキしながら尋ねると、ルカ様は笑った。
「驚いた。どこの令嬢かと思った。――ただいま」
いつものように抱擁されるのかと思いきや、ルカ様は私の左手を取ってそこにキスを落とした。
「!?」
予想外の行動に心臓が飛び跳ね、血が団体で頭に上っていく。
「あー。遠慮せず熱烈なキスを交わしてくれてもいいぜ? ルカが一刻も早く帰りたい、ステラとフィーに会いたいっつーから、せっかく王都を通ったのに何の店にも寄れなかったんだよ。いい加減腹減ったし、オレらは先に帰って夕食にするわ。後はどうぞごゆっくりー」
ラークはシエナの背中を押して私の傍を通過しながら手を振った。
「な、何を言ってるのラーク。私も夕食はまだだから、仲良く皆で食べましょうそうしましょう!」
「え? お帰りのキスは口でしなくていいの?」
「しませんっ!!」
振り返ってニヤニヤしているラークに、私は激しく動揺しながら叫んだ。
主人の帰還を祝ってその日の夕食はいつもより贅沢だった。
国民の血税を浪費するのを厭ってか、ルカ様が普段食べている食事は庶民と大差のない内容なのである。
「ユグレニー公国の園遊会はいかがでしたか?」
私は鴨肉のソテーを食べながら、隣に座るルカ様に目を向けた。
ユグレニー公国はドラセナ王妃の出身国。
アンベリスの南西に浮かぶ豊かな島国では各国との交易が盛んに行なわれており、ドラセナ王妃のお父様のユグレニー大公が国の統治者だ。
神力を持ち、国王であると同時に神官でもあるユグレニー大公は毎年春に各国の王侯貴族を集めてもてなす会を開いている。
おととしはギムレット、去年はノクス様。
そして今年はルカ様が行くことになった。
「庭園が見事だった。肝心の各国の王侯貴族との社交は……特に問題もなく、無難にこなせたと思う」
あまり自信はないらしく、ルカ様は目を伏せて焼きたてのパンを口に運んだ。
ルカ様の足元ではフィーが白い身体を丸めて眠っている。




