10:王子様たちとのお茶会
国王との謁見が終わった後、私は王宮内の庭園にある瀟洒な東屋で王子三人と円形テーブルを囲んでいた。
空は青く晴れ渡り、降り注ぐ陽光は眩しい。
東屋の周囲には色とりどりの花が咲き乱れ、鳥が春を謳歌するように鳴いている。
まるでこの世の楽園のような光景である。
私の右隣にルカ様、左隣にノクス様。
向かいの椅子には王太子であるギムレット様が腰かけている。
いずれも眩暈がするほどの超美形であり、彼らとお茶を飲む栄誉を与えられた私は国一番の幸せ者なのだろうが――あいにくとこの状況を心から楽しめるほどの胆力は備わっていない。
「海外から取り寄せた茶葉はどうだ? 口に合うか?」
とにかく失礼のないように、粗相のないようにと自分に言い聞かせながら、ぎくしゃくとした動きでお茶を飲む私を見て、このお茶会の主催者であるギムレット様が微笑んだ。
ギムレット・バル・アンベリス様。二十一歳。
髪の色は三つ年下のノクス様と同じ金で、柔らかそうな髪質も良く似ている。
金糸の長い睫毛に縁取られたその瞳はようやく芽吹いた春の若葉と同じ、瑞々しい緑色だった。
「はい、大変美味しいです」
嘘です。味がしません。匂いもしません。
極度の緊張で味覚も嗅覚も機能停止しています。
ティーカップを持つ手が震えるんですけども!!
「そうか、良かった」
ギムレット様は薔薇色の唇の端を軽く持ち上げた。
「この茶葉の独特な匂いと味は私には合わなかったが、女官の間では好評らしいので試しに出してみたのだ。何でも美容に良いらしいぞ。気に入ったなら後で部屋に届けさせよう」
「ありがとうございます……」
大きな音を立てないよう、慎重にティーカップをソーサーを置いた私の右隣で、ルカ様は静かに座っている。
ノクス様は優雅にお茶を飲んでいるけれど、ルカ様は口をつけようともしていない。
「菓子は嫌いか?」
体調が悪いんですかとルカ様に尋ねようとしたそのとき、ギムレット様に声をかけられた。
仕方なく質問を諦めてギムレット様に向き直る。
「いえ、好きです」
三段になっている銀製の菓子器に乗せられた菓子は全てが芸術品のようであり、大変美味しそうだが、緊張しきっているいまの私に食欲などない。
「なら遠慮なく食べるといい」
「いただきます」
王太子に勧められては拒否権などあるわけがなく、迷った末に、私はクルミが入ったクッキーを手に取った。
「美味しいです」
味のしないクッキーを咀嚼して嚥下し、微笑みを作ると、ギムレット様は満足そうに笑って私と同じクッキーを食べた。
それからしばらくは他愛ない話が続いた。
ギムレット様は私が戦地で体験した話を興味深そうに聞き、お返しとばかりに王宮で起きた愉快な出来事や怪談の類も教えてくれた。
ギムレット様の話術はとても巧みで、お話しされる内容はどれも興味深いものばかりだけれど……でも、そろそろじれったい。
お菓子に一切手を付けず、貝のように黙って動かないルカ様のことも気になるし、いい加減話を切り上げないと。
「ギムレット様。それで、私にしたいお話とは何でしょうか?」
話の区切りがついたタイミングで私は切り出した。
東屋にいるのは私たち四人だけ。
女官や護衛を下がらせた以上、まさか雑談するために私を呼んだわけじゃないはずだ。
「もう本題に入るのか? 私はステラともう少し会話を楽しみ、ステラを知りたいと思っていたのだが。なあルカ、ステラを私に譲ってくれないか? お前ばかり独占するのはずるいぞ」
「ステラは私の所有物ではありません。従って殿下に譲ることもできません」
この日初めてギムレット様に話を振られたルカ様は淡々とそう答えた。
ルカ様の前に置かれたお茶は既に冷え切っている。




