表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の白銀妃 ~行き遅れ令嬢は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする~  作者: 九條葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

閑話 雪花

 この世界(・・・・)において、死者の魂は転生を繰り返し、解脱というものを目指すのだという。


 そんな世界であるせいか、これまで大華国では数多くの『前世の記憶持ち』が活躍してきた。一説によれば、大華国を建てた高祖――初代皇帝陛下も前世の記憶を有していたという。


 そんなお国柄だからだろうか。白妃・雪花にも前世の記憶というものが存在した。

 それ自体は特に珍しいものではない。皆、「前世では修行が足りず、もう一度人生をやるハメになったのですね」と馬鹿にされるので口にはしないだけで。


 ただし。

 それが異なる世界の記憶(・・・・・・・・)というのは珍しいのだろうが。


 大華国のような国が存在し。しかし時代はまるで異なっていて。馬もないのに馬車は動き、鉄の塊が空を飛び、人民が人民の意思で政治を動かす――そんな、奇妙な国だった。


 あれは未来の世界なのか。あるいはまったく別の世界なのか……。それはよく分からなかったが、この知識は有効に活用するべきと雪花は判断した。


 ……正確に言えば、まだ子供だったので、知識を使って結果を出し、褒められることが嬉しかっただけなのだが。


 前世の記憶を思い出すのがもっと大人になってからだったなら慎重な行動を取れたのだろうが、子供だった雪花は褒められるまま前世の知識を活用し、神童と称えられ――気づけば、後宮に入って皇帝の寵愛を受け、皇后としてその知識を活用することを望まれた。


 親からすれば。雪花が皇后になれば実家の権勢がさらに高まると。欧羅との交易権をさらに得ることができると。そのための便利な『駒』でしかないことを雪花は理解していた。


 実家から付けられた侍女も、信用ならない。彼女たちはあくまで雪花を『皇后』にするために存在するのだから。


 ――後宮とは恐ろしいところだ、と雪花は聞いていた。


 そして、それは事実であった。

 誰もがその美しい顔に美しい笑顔を貼り付け、しかし裏では誰かを追い落とすことを躊躇(ためら)わず。人の皮を被った獣だ、と雪花は心底恐ろしくなった。


 おそらく、前世の記憶がある分だけ精神が成熟していなければ毎日震えて泣いていたことだろう。


 唯一信頼できるのは、乳母の娘であり幼い頃から一緒にいた(りん)ただ一人。


 そんな恐ろしい後宮の中で、雪花はとうとう妊娠した。皇帝の子を宿してしまった。


 途端に向けられる、目、目、目……。


 男子をと期待する侍女の目。嫉妬を隠しもしない妃たちからの目。何とかして蹴落として自分が妃になってやるという女官たちからの目……。


 もう、嫌だった。

 妃になんてなりたくなかった。

 子供なんて宿したくなかった。

 地元で平穏に暮らし、平凡な男と結婚し、子供を産んで、孫に囲まれるような人生を送りたかった。


 でも、雪花が実家に戻ったところで居場所なんてきっとなくて。皇帝の子供を産んだ女が、後宮から出してもらえるはずもなく。


 だから、雪花は――


 ――――。


 味方が必要だった。铃以外にも、もっと、もっと。

 信頼できる味方。

 何でも話せる味方。

 いざというときには庇ってくれて、普段は本音でやり取りすることができる……。そんな、心の支え(みかた)が必要だった。


 そんなとき、現れた。


 何とも可愛らしい銀髪金目の少女。

 皇帝の幼なじみというけれど、どう見ても15歳くらいにしか見えない女の子。……いや、それをいうと雪花も実年齢より幼く見えてしまうのだし、中身の年齢は実際より高いというややこしい状態なのだが。


 雪花の事情はともかく。

 宴の席に現れた少女――凜風はとんでもない女だった。


 本来なら皇帝陛下や四夫人を前にすれば少しくらい萎縮してもいいはずなのに、凜風にそんな様子は見受けられず。


 それだけでは飽き足らず、宴の余興であるはずの神仙術で海藍の本質を易々と当ててみせ、瑾曦が孫武の妹であると見抜いてしまい。さらには春紅を恐れさせ……いや、それはいつものことか。


 四夫人のうち三人を平然と相手取った凜風はその不思議な目で雪花を視て――


「――それは、止めなさい」


 胸の鼓動が乱れた。


「……なんのことでしょう?」


 声は震えていたかもしれない。

 そんな雪花の様子など意に介さず、凜風は続けた。


「平民である私が、妃である貴女に本来このような口をきいてはいけないのでしょう。しかし、神仙術士として助言します。それだけは、止めなさい」


「…………」


 この人だ、と雪花は思った。


 全てを見抜いた(・・・・・・・)上で。自分には何の関係もないはずなのに――むしろ、皇帝の寵愛を得るという意味では自分にとって有利になるはずなのに、それでも止めてくれた人。


 この人なら、信頼できるかもしれない。


 この後宮という魔境で、味方になってくれるかもしれない。


 そんな雪花の直感は、すぐに確信へと変わった。皇帝すら恐れることなく蹴り飛ばし、

毒を食べた铃を救ってくれたことによって。


 この人なら……。


 いいや。


 この人がいい。


 そう決意する雪花だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ