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推理


「偶然……。あくまで偶然と?」


 人がせっかく答えてあげたのに、まるで信じていない張さんだった。失礼な人間である。

 まぁ張さんが慇懃無礼なのは割といつものことなのだけど……それよりムカつくのが、話を聞いていた梓宸がにやりと笑い、「そういうことか! 俺には分かっているぞ凜風! なぜなら俺と凜風の仲だからな!」みたいな訳知り顔をしていることだ。


「そういえば」


 梓宸が阿呆なことを言い出す前に、私は両手を叩いて話の流れをぶった切った。


「皇帝や妃が使う指輪って、装飾品の格とかあるんですか? こう、大華国伝統の模様じゃないと笑われちゃうとか」


 あまりに話が飛びすぎて理解がおよばないのか張さんが眉をひそめる。


「はて? 何の話でしょう?」


「実は毒検知の魔導具を製作しまして。指輪にするのが一番使いやすいかなと思ったんですけど、もしかしたら格式とかあるのかなと思いまして」


 私がルビーのような球体を取り出すと、張さんは興味深そうに受け取り、宝石の鑑定をするかのように凝視し始めた。


「毒検知と言いますと、これがあれば毒が混ぜられているかどうか分かると?」


「はい。蛍のように光りつつ点滅して教えてくれます。指輪にはめ込むのが一番使いやすいんじゃないですかね?」


「それは便利ですな……。一応、本当に毒を察知してくれるか確かめたいので、しばらくお借りしてもよろしいでしょうか? 暗部に頼めば主要な毒は手に入るでしょうし」


 さらっと怖いことを言う張さんだった。暗部って。主要な毒が手に入るって。宮廷こわい。


 鶏の心臓のように心が弱い私はガクガク震えながら毒探知の魔導具(本体のみ)をいくつか張さんに預けたのだった。とりあえず十個くらい渡しておけば十分でしょう。





 後宮への帰り道。


「へ~、こんなちっちゃな宝玉で毒が分かるのかい?」


 興味深そうに日に透かして見る瑾曦様だった。


「そうですね。あとは個人的な食品との相性もある程度は分かるはずです。欧羅風に言うと……『あれるぎー』でしたかね」


「これ、あたしも貰えるのかい?」


「もちろんですよ」


「……あんた、これがとんでもないものだってこと、分かってる?」


「へ?」


「あぁ、やっぱり分かってないんだ………。じゃあ、まぁいいか。そのうち分かるでしょう」


「意味深長な物言いはやめてもらえません……?」


「あっはっはっ、無自覚に力を使うのが悪いのさ。――さて、少し真面目な話をしようか」


 警戒するように周囲を見渡してから、瑾曦様が声を絞った。


「凜風は、誰を庇っているんだい?」


「庇っている、とは?」


「とぼけるんじゃないよ。偶然野蒜(ノビル)に水仙が混じり、侍女が食べたと本気で考えているわけじゃないだろう?」


「いやぁ、でも実際そうとしか考えられないのでは?」


「……取り調べの時、食品の納入業者の男は言っていたよな? 『素人ならともかく、うちらが水仙と野蒜を間違えるってことはありません』って。その通りだ。素人ならともかく、玄人が間違えるはずがない。それは料理人でも同じことだ」


「…………」


「いくら野蒜と水仙が似ていようが、皇帝陛下の料理番を長年勤め上げるほどの料理人が間違えるはずがない。そうでなくともこの国では取り違えによる食中毒事件が多いのだから、特別に注意を払っているはず。そうだろう?」


「いやぁ、毎日大量に料理を作っているんですから、間違えることもあるのでは?」


「あくまでとぼけると? ……凜風の視た(・・)結果が事実だと仮定するなら、犯人は誰もいないことになる。納入業者は故意に混入したわけではなく。料理人も毒を混ぜず、配膳をした侍女も無実であるのだから」


「えぇ、ですから事故で混じってしまっただけ――」


「だが、もう一人だけ実行できる人物がいる」


「…………」


「あの毒殺未遂事件が起こった宴の時。侍女が毒を食べて倒れる直前。凜風は雪花に対してこう言ったよな? 『それは、止めなさい』と。あれは一体どういう意味だったんだい?」


「それは……」


「初対面の凜風が止めるほどのそれ(・・)。それとは一体何なのだろうね? 考えたあたしは一つの可能性に思い至った。――もしかしたら、白妃である雪花が侍女に命じて、毒を自分で(・・・・・)食べさせた(・・・・・)んじゃないかとね」




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