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8話 聖獣エアリス


 深夜、レティシアは魔導書を開く。

 窓もない部屋で今が深夜だと分かったのは、少し前にやって来た使用人が食事を持ってきた時に夕食だと言ったからである。


 そこから怯える様子を見せつつ躊躇いがちに時間を聞いた。

 もちろんその態度は相手から上手く情報を聞き出すだけである。

 本当なら力技で聞きだしてもいいぐらいだが、まだ騒ぎを起こすのは早いと自重した。


 それから寝静まる深夜を見計らってこの鬱陶しい檻の中から抜け出して屋敷の中を探索しようと思ったわけだが、万が一誰かがレティシアの様子を見に来たら、レティシアがいないことにすぐ気がつかれてしまう。

 そのための対策が必要だった。



 魔導書にこれまでで一番の魔力を流し込む。

 魔導書が自然とパラパラとめくられていき、止まった瞬間光が溢れる。

 眩いほどの光が魔導書から発せられる中、光が次第に集まり形どっていく。

 それは神々しいまでの輝きを放つ優美で優雅な尾羽を持つ鳥だった。


 けれど、その姿はこの世界に存在するどの鳥とも違っている。

 それは当然で、この鳥は聖獣と呼ばれる存在。

 レティシアが魔導書から生み出した、肉体を持つ生物とはまた違った生き物なのだ。


 レティシアの体ほどもある大きな鳥は、つぶらな瞳でレティシアを見たかと思うと、目を吊り上げた。



「おそーい!!」



 開口一番文句から始まると思っていなかったレティシアは、驚いたように目を見張った後、呆れた顔をする。



「エアリス。久しぶりに会えたのに、いの一番に言うことがそれ?」



 不満そうにするレティシアに、エアリスと言う名の聖獣は文句でもって返した。



「文句も言いたくなる! どうしてこんなに俺様を召喚するのが遅れたんだ! もっと早く呼び出せただろう。ずっと魔導書の中で待ってたのに!」



 どうやら多少のことは魔導書を通してレティシアの今の事情を知っているようだ。

 ぎゃんぎゃんと喚くエアリスからは、先程までの神々しさはなく、ただの駄々っ子のようだ。



「ごめん、忘れてた」


「さらっと酷い! 唯一の相棒になんという扱い!」


「まあまあ、そういうのは後でいいから、悪いけどさっそく私の身代わりに監禁されててくれる?」


「より酷い! どういうことだ?」


「ちょっと会いに行く人がいるの。でも、その間に誰か来たら困るでしょう?」


「邪竜の生まれ変わりってか? ほっとけば? 面倒臭そうだし」


「ほんとあなたって最高神様の影響受けまくってるよね」



 エアリスは確かにレティシアの魔力によって生み出された聖獣だが、魔導書という神具があってこそ存在することができている。

 そしてその魔導書は最高神から与えられたもの。


 エアリスの態度を見ていると、確実に最高神の影響を受けていると感じられる。

 人に無視されると拗ねるところや、面倒臭がりだとか、調子はいいところなど、他にも多々ある。



「また獣人達が邪竜を作ろうとしているのに無視できるわけがないでしょ。それよりその大きさだと狭く感じるからちっさくなってくれる? 真っ白でモフモフでコロンとしてるかわいい姿がいいわ」


「注文が多いぞ!」



 そう文句を言いつつも、言う通りに体を小さくしていく。

 最終的にはレティシアの要望通りにモフっとして、つついたらコロコロどこまでも転がっていきそうなまん丸姿のかわいい鳥の姿となった。



「これでどうだ!」


「あはっ、かわいいかわいい!」



 レティシアは手を叩いて喜んだ。



「俺様の優雅な姿をこんなちんちくりんにするなど、屈辱っ……」


「かわいいからいいじゃない。普段はその姿でよろしく。それより早速行ってくるから、私の姿になってくれる?」


「まったくもって要求が多い!」



 面倒臭そうにしながら、エアリスはベッドにぴょんと飛び乗る。

 すると、瞬く間にレティシアそっくりの姿に変わった。

 しかし、その姿を見たレティシアは不満そうにする。



「え、私ってそんな感じ?」


「そっくりそのままにしてるぞ」


「全然十六歳に見えない……」



 この部屋には鏡がなかったので第三者視点で自分を見る機会がなかった。

 それでも十六歳。前世で死んだ時と同じ年齢だ。

 その時とは容姿も変わっているのは当然ではあるが、エアリスが変化したレティシアの姿は到底十六歳には見えないほどに幼く、思っていた以上にやせ細っていた。


 病人だと言っても誰もが納得するほどに、健康的には見えない。



「最近はちゃんと食事も取るようにして、運動もしてたんだけどなぁ」



 八年まともな生活をしていなかったのだ。

 一カ月にも満たない短い間食生活の改善に努めても、簡単に肉がつくはずがない。



「逃げる時は魔法で補うしかないか」



 とても生身の状態で逃げる力があるとは思えない。

 はた目から自分の様子を確認できただけでも、エアリスを呼び出したのは正解だった。



「バレないように気をつけてね」


「任せとけ。お前のことを誰より知っているのは俺様だからな」



 ふふんと得意げな顔で胸を張るエアリスだが、自分の姿をしているのでやめてほしいと思うレティシアだった。

 しかし、そんなやり取りをする時間も惜しいので、諦めて足についた枷を外す。


 レティシアを逃がさぬために用意された強固な枷だが、魔法を使えばあっさりと開錠してしまえる。

 それを今度はエアリスの足につける。

 あからさまに嫌そうな顔をされるが、我慢してもらおう。



「じゃあ、よろしくね」


「早く帰って来いよ。さすがに、獣人の番いへの本能まで隠し通せるか分からないからな」


「確かにその心配があったか」



 げんなりとするレティシアは、早めに帰るようにするからと言って、厳重な牢の鍵もまるで施錠されていなかったようにあっさりと開けて檻の外に出る。



 実に八年ぶりの外の世界だ。








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