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27話 新しい媒体


 学校の校門へ向かえば、すでにそこには数十名の列ができていた。

 ずいぶんと賑わっているなと思えば、それらはどうやら受験者らしい。



「えっ、こんなにいるの!?」



 村長の家で勉強を教えてもらう程度だったレティシアからすれば、驚くべき人数だ。

 しかも、列に並んだレティシア達の後ろにも、すぐに次々に並ぶ人がいる。



「学校ってこんなにたくさんの人が通うの? デューク知ってる?」



 いかんせん外の世界をこれまで知る機会のなかったレティシアには、基準が分からない。

 そこは、デュークの方がよく知っているだろう。



「全員が受験しに来てるのを考えると、普通に多いと思うよ」



 それを聞いてほっとする。



「やっぱり多いんだ。となると、問題はどれぐらいの人達が合格するかよね。というか、これだけいたら、二人とも合格しない結果もあるんじゃないの?」


「あり得るだろうな。なんせ、レティは世情に疎いし、こいつは常識がないし」



 けけけっと笑うエアリスをデュークが握りつぶそうとして、さっと避けられている。



「絶対焼き鳥にしてやる」


「やれるもんならやってみろ~。けっけっけっ」



 常に喧嘩しているなとあきれつつ、これが二人のスキンシップと思えば微笑ましい。



「ほらほら、私達の順番がきたよ」



 そうして受付はあっさりと受理され終わったが、問題が一つ。

 媒体がまだないということだ。

 前世で魔導書にしまい込んだ中に媒体となるものも残していたが、媒体は魔法を使う際にとても重要なもの。

 その人に合った媒体を使うか使わないかで、魔法の精度も違ってくる。


 それでいうと、魔導書は最高神がレティシアに合わせて作られた最強アイテムだが、人前で魔導書なんぞ出せるはずもない。

 即座に国に報告が行き、かつての仲間で今や国王と王妃となったラディオとフローレンスの耳に入ってしまう。


 それに、宿で獣人と騒ぎになった際にも、仲間だったクロノがいた。

 他にもどれだけ昔の仲間が残っているか知らないが、名乗り出るつもりがない以上は、別の媒体を探す必要がある。



 ということで、いったん冒険者ギルドに寄り、そこで情報収集をしてから、町のとある店にやって来た。


 そこは魔導師御用達のお店だ。

 もっと高級店を予想していたが、奥に工房が併設された小さなお店だった。

 店内に客は片手で数えられるほどで、とても賑わっているとは言い難い。

 あまり品質がよくないのではないか、来る店を間違えたかと心配したが、そこかしこに無造作に並べられた品々は、大魔導師と呼ばれたレティシアから見て、かなり質のいいものばかりだった。



「これは陳列の仕方に問題ありでは?」


「ものはいいのになぁ」



 エアリスも深く同意している。

 丁寧に並べれば、これだけ質がいいのだから客はもっと来そうである。



「そんなにいいの?」


「デュークはあんまり分からない?」


「うん」


「まあ、これまで魔法とは無縁だったら当然か」

 デューク対して発したのではなく、一人言のように呟くレティシアは、ふとある品が目にとまった。


「これよさそうね」



 レティシアが手に取ったのは、対になった二つの指輪だ。

 しっくりと手に馴染み、試しに魔力を流してみても違和感が少ない。

 光の力を持ったレティシアの魔力は、普通の媒体では合わずに反発する感覚がするのだが、それがほとんど感じられなかった。



「不思議~、反発が少ない。デューク、試しに魔力流してみて」



 レティシアはデュークにもう一つの指輪を渡す。



「うん」



 まだ魔力の扱いに慣れていないからか、眉間にしわを寄せ少し苦労しながら魔力を少しずつ流している。



「どう?」


「……レティからもらったのがいい」



 少し考えた末に出てきた言葉がこれだ。

 デュークには、アカシトロビアから逃げ出す際に、媒体にもなる短剣を渡していた。

 しかし、できるだけ合うものを見繕ったが、持ち合わせのものだけでは本当にデュークに合うものをとはいかない。


 それに比べこの指輪は、光の力とも闇の力ともかなり相性がいいように感じた。

 けれど、デュークはレティシアからもらった短剣の方がいいという。


 気を遣ってくれているのか、レティシアからもらった短剣を返さないといけないと思ったのか。

 いや、きっとその両方だろう。

 レティシアはくすくす笑った。



「デューク、私はこれにするつもりだけど、これまで通り短剣でいいの? この指輪ならおそろいにできるのに?」



 ぱっと顔色を変えたデュークに笑いが込み上げる。

 最初はあまり表情の変わらない男の子だと思っていたが、しっかり見ていればその表情の変化がよく分かる。

 今は嬉しいけど迷っている顔だろうか。



「短剣は武器としても使えるからそのまま持っていればいいよ。でも、魔法を使うための、デュークに合った媒体は別で持っていた方がいいと思うの」


「短剣は返さなくていい?」


「うん」



 レティシアがしっかり肯定したのを見て安堵の表情を浮かべるデュークは、よほどレティシアからもらった短剣が気に入っていたようだ。

 まあ、ここで重要なのは『レティシアから』というところだ。

 そして指輪を受け入れたのも『レティシアとおそろい』というのがデュークの心を動かした。



「じゃあ、これでいい?」



 こくんと頷いたのを確認して、レティシアは支払いをすべくカウンターに持っていく。



「すみません。これください」


「レティ、俺が出すよ」


「大丈夫大丈夫。ここに来るまでにデュークが狩ってくれた素材がたくさん売れたからね」



 換金したお金のほとんどをレティシアが持っているが、デュークなくして手に入らなかったお金だ。


 けれど、デュークはあまりお金に頓着しないらしい。

 いや、そもそもなにに対しても執着心というものに欠けているように感じる。

 それはデュークの生い立ちゆえか、闇の力が影響しているのかはまだ分からないが、レティシアとともに行動すれば、きっとデュークの世界も広がるのではないかと思っている。


 そうであってほしいというレティシアの願望が含まれているのは否めないが。



 媒体となる指輪を買い、店の外に出た。

 二百年前からは考えられないほど人々の明るい笑顔と、元気な声が飛び交っている。

 この地がかつて荒野だったと誰が信じてくれるだろうか。 


 けれど、信じてくれなくともいい。

 重要なのは今がどうかなのだから。

 今この地は活気に満ちあふれ、人々は笑い、幸せに暮らしている。



「命をかけたかいがあるってもんね」



 どこか自慢げに笑うレティシアは、遠くに見えた立派な城に目をやった。

 そこにはこの国を建国した国王と王妃が暮らしている。


 自分の死後、ラディオとフローレンスがーーいや、残されたすべての魔導師達がどれほどの苦労の元この国を創ったのか、レティシアには想像できない。

 できるのは、彼らへの心からの感謝を遠くから伝えることぐらいだ。



「ありがとう。皆……」 



 まだ生きている者、すでに去ってしまった者。

 すべての仲間へ向けた感謝の言葉は、そばにいたデュークとエアリスにはしっかりと聞こえていた。

 





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