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9話 地下への扉


 檻から出たレティシアは、誰かに見られる前に魔法で自分の姿を隠す。

 エアリスには当然見えているが、魔導書を使って姿を隠す魔法を施しているので、匂いや足音も綺麗に消すことができている。

 五感が優れている獣人すら欺いて見せるだろう。

 部屋扉の前に行き、その向こうの気配を探る。

 しかし、見張りも誰一人いないようだった。



「完全に舐められてるわね」



 レティシアが逃げられるはずがないと高を括っているのだ。

 おかげでレティシアは気にすることなく普通に扉を開いて外に出た。

 ひとりでに扉が開いたというのに、周囲に誰もいないため、気にする者はいない。

 さらには姿を隠して屋敷内を悠々と歩くレティシアの横を、普通に獣人が通りすぎていく。

 中にはレティシアの世話をしに部屋に来る見知った者もいたが、レティシアを見向きもしない。

 日頃の扱いを思い出したレティシアは、こっそり魔法で水の玉を作り出して彼女の頭の上から落とした。



「きゃあ!」



 頭から濡れ鼠となった彼女は、きょろきょろと周囲を見回して疑問符を浮かべている。

 レティシアは笑いをこらえて、急いでその場を後にした。



 その後も屋敷の中を確認して回るが、誰も気がつかない。

 それほどにレティシアの魔法は完璧で、獣人の優れた五感をもってしても見破れるものではなかった。

 ただ魔力があるだけではない。それを呼吸をするように自然と操る魔力操作が群を抜いているのだ。

 前世でも優れた魔導師はたくさんいたが、レティシアほど扱いに長けた者はいなかった。

 魔力が多くとも使えなければ宝の持ち腐れだ。


 最高神から授かった加護と魔導書があったからではあるが、レティシアが大魔導師と呼ばれた理由は決してそれだけではない。

 圧倒的なまでの魔法の才能。

 それが若くして大魔導師と称賛され人々の希望となっていた。

 恐らくそれは人々だけでなく、世界に災厄を落とした邪龍すらも思っていたに違いない。



「地下室はっと……」



 レティシアは魔力を広げて屋敷内の構造を把握しながら、闇の力に近づいていっているのを感じていた。

 近くにいる――。

 そう確信できるほどに、闇の女神の気配が近い。

 それは、闇の女神の加護を与えられた者の存在を示している。

 光の加護を持つレティシアにしか分からないだろうその気配を辿っていくと、地下へと続く扉を見つけた。


 しかし、その前には警備の者が立っている。

 見張りもなく放置されていたレティシアとは大きく違う。

 まあ、ここ最近は従順にしていたので気を緩めていたというのもあるのだろう。

 逆を言うと、その扉の向こうには警戒すべきなにかがあると言外に教えているようなものだ。



(さて、どうしようかな)



 地下へ行くためには、そこにいる警備を抜けていかなければならない。

 姿を消した今のレティシアなら入るだけなら気づかれないが、中へ入るために扉を開ければ異変に気付かれる。

 やはりここは魔導書の出番だ。

 慣れた様子で手の中に魔導書を出すと、無地の紙に文字が浮かぶ。



『ひと時の眠りをかの者達に――』



 レティシア以外には分からない濃密な魔力が警備の者達を包み込むようにしてゆっくりと襲いかかる。

 途端に眩暈を起こしたようにぐらりと体をふらつかせた。



「なんだ……?」


「急に眠気が……」



 警備の者達が異変を感じた時には遅く、すぐに体はゆっくりと崩れ、壁によりかかる。

 しかし、そのままでは誰かに異変を察知される。

 レティシアはさらなる魔法をかけた。



『傀儡と化せ――』



 そう、レティシアが唱えた途端、倒れた警備の者達がゆらりと立ち上がり、先程まで立っていた元の位置に戻った。

 その目は開いているが、うつろではっきりとしていない。

 しかし、ちゃんと仕事を果たしているようには見えるだろう。



「前世の力を今使えるか心配だったけど、どうやら問題なさそう」



 レティシアは魔導書の扱いに問題なしと判断して鼻歌混じりに警備の者達の横を素通りして扉を開いた。

 レティシアに操られている者達は、目の前でひとりでに扉が開いてもなんの反応も示さず、ただ前をじっと見ていた。

 これほど簡単に人を操ってしまえる魔導書の力に、レティシアはとんでもない代物だなと再確認しつつ、最高神が気まぐれを起こしてレティシア以外の者に渡さないことを祈った。


 少なくともレティシアはこれほどの力を持っていても悪用しようとは思わないが、人を操れる力に目の色を変える輩は多い。

 特に邪竜を生み出そうとするような獣人の手に渡ったら世界は終わりだ。

 さすがに最高神もそのような無責任な行動はすまい。


 そもそも神々は気に入った者以外に心を砕くようなことはしないので、最高神が唯一加護を与えるレティシアに敵対する可能性が高い相手に力を貸すことはないだろう。

 例外があるとすれば、闇の女神の加護を持つ邪竜の生まれ変わりぐらいだ。



 扉の先は蝋燭の火が点々と見えるだけで、ほとんど見えない。

 レティシアはすかさず魔法で光る玉を作り出す。

 魔導書をわざわざ使う必要もない、簡単な魔法だ。


 それでも、『火』ではなく『光』を出せるのは光の力を与えられた者だけの特権である。

 光ならば熱さもなく、密閉された中で出しても窒息することもないので、ほとんど魔力消費もない簡単な魔法でも重宝するのだ。

 





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