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-ファントムレイジ- BETRAY Phantom/Rage  作者: ロニ・フィレンス
第一章 ユスティス入隊編
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6 遭遇

 同時刻 喫茶店花丸前にて


 「ハァ……ハァ……、いつも思うがここの坂きつすぎやしねえか?」


 「マンモス坂って呼ばれるくらいだからな」


 「なんでそんなにすまし顔なんだよ」


 「慣れてるからな。ほら頑張れ、もう少しで目的地だぞ」

 

 「よし、着いたぞ」


 「到着ぅ……足いてぇ」


 「お疲れさん」


 「ひぃ……ふぅ……うし、ここはいつも閉店時間がまちまちだから、ラストオーダーになる前に入っちまおうぜ。今日は一杯食べるぞー」


 切らした息を整えながら今日は一杯食べるぞーと隣で息巻いている友人を横目に見ながら、俺は店の扉を開いた。


カラン


 「いらっしゃい。おや、天多君じゃないか」


 「ただいまマスター」


 すでに閉店手前の店に足を踏み入れると、天多が普段からお世話になっているこの店の店主が優しそうなまなざしを向けて接客を行っていた。

 過去、ある事情によって孤独な暮らしを強いられた天多に対して、この場所【喫茶花丸】の二階に備えられている部屋を無料で貸し出したうえで食生活の管理まで行ってくれる優しい老人だ。


 「お久しぶりっす」


 「お帰りなさい。今日はご友人もつれてきたのですね」


 「はい。それで今日はお店の方で晩御飯食べようと思っていたんですが、注文ってまだ受け付けてますか?」


 「ええ勿論ですとも。今、メニュー表とお冷をお持ちしますので、お好きなところに座っていてください」


 それからメニュー表を持ってきたマスターに各々食べたいものを注文し、食事を済ませた。


 普段からお世話になっている天多は、毎日のように皿洗いなど雑用の手伝いをしようと申し出たが、今日はバイトの日ではないから大丈夫だと断られ、2階にある自室で結叶とゲームで遊ぶこととなった。


 「いやー食った食った。天多は毎日タダでこんなうまいもんを食べてると思うと羨ましいぜ」


 「確かに毎日のご飯はおいしいけど、別にお店の品みたいなのをいつも食べてるわけじゃないぞ。それに店で食べるときはここでのバイト代から食事代が抜かれてるから無料でもない」


 「へえ、そこんところしっかりしてる辺りは流石だな」


 「別に大したことじゃないさ。むしろタダ飯は嫌ってのを承諾してくれたマスターに感謝だよ」


 「確かに。お、いつの間にかもう二十時になってたのか。あたりもこんなに暗くなってるし、そろそろ帰る準備しとかねえとな」


 壁に掛けられた時計を見ると、結叶の言う通り確かに時間は既に二十時を回っており、外に目を向ければ夜の街を光が照らしていた。


 いそいそと自賛したものを片付ける結叶を尻目に見ながら、天多も自分で引っ張りだしたゲームを片付ける。

 すると少しして、「ちょっといいか」と結叶の方から声が聞こえて振り向くと、


 「帰る前に不躾で悪いんだが、飲み物もらえないか? のどが渇いちまってさ」


 申し訳なさそうに飲み物をいただけないかと聞いてきた。


 「お前が不躾なのはいつものことだろ。はぁ、下に降りて何か取ってくるから、それまでに帰る準備でもしておけよ」


 いつもながら図々しい友人にそう言い残し、部屋から出て下の階へと向かう。


 階段を下りて、店の厨房につながる扉の前まで来て俺はある違和感に襲われた。


 「静かすぎないか?」


 閉店時間は確かに過ぎてはいるが、明日の仕込みをする必要があるためまだ店仕舞いには早いはずだ。

 それなのに、一切人の気配がしないのはどういうことだ。


 得体のしれない不安に駆られる。クソッ、さっき見た「()()」のせいで敏感になっちまってるのかもな。


 「よし」


 意を決し、ゆっくりと扉を開く。部屋を見渡すと、どうやら明かりがついていないようだった。

 やはり人けは無く、どうやら店の鍵も絞められているようだ。

 鍵が占められてることからおそらく、食材の買い出しにでも行ったのだろう。


 「マスター、買い物にでも行ったのかな」


 得体のしれない不安が消え、ふぅ、と一息ついた。やはり昼間のあれのせいで敏感になっているのだろうと、自分の胸をなでおろす。


 すっかりと安心した俺は、飲み物を取りに冷蔵庫の方へと歩みを進めた。電気がついていないため周りがよく見えないが、明かりをつけようにも、そのためのスイッチも冷蔵庫側にあるためそこまではこの暗さを我慢する必要がある。


 「確か電気のスイッチはこの辺りに……ってうわ!」


 足元を見ずに歩いていたせいか、床にあった何かを踏んでしまった俺はその場で勢いよく転んでしまった。


 「痛ッッてえ」


 暗いとはいえ普段から生活している場所であるから油断していた。今の醜態を誰にも見られなくてよかったなんて考えながら反射的に閉じた目を開く。


 「くそ、いったい何を踏ん————」


 どうせ段ボールから落っこちたリンゴでも踏んだんだろうと思っていた俺は、目の前にあるそれを見て思考が停止した。


 「な、んだ、これ……」


 そこにあったのは、人間の死体だった。


 いや、もっと正確に言うならば、人間であったものの亡骸というのが正しいだろう。その肉体からは完全に水分が失われており、まるでゾンビのようであった。

 足があったであろう場所は、先ほど俺が踏んだせいか肉が引きちぎれ、中からは白骨が顔を見せていた。


 さらによく見ると、それが身に着けていた衣類に見覚えがあることに気づいた。気づいてしまった。

 この服も、この装飾品も、この指輪も、これら全てはついさっき会ったばかりの人物がつけていたものだ。


 「ます、たー……?」


 それに気づいた瞬間、一層動悸が激しくなり、急激な吐き気に襲われた。

 死んでいる。死んでいるのだ。俺の目の前で、俺のよく知る人物が、あまりにも無残な姿で。


 突然の出来事に叫びそうになった口を押え、今にも発狂しそうな頭をフル回転させる。


 マスターとはつい先程まで話していたのにもかかわらず、ほんの僅かな時間の間に音もなく殺害された。つまり、犯人はまだ近くにいる可能性がある。


 (まだ犯人が近くにいる!)


 「————っ、結叶!」


 すぐに結叶とここから逃げなければ次は俺達が殺されるかもしれない。

 友人の危機を感じた俺は、結叶のいる二階へと急いで戻る。


 今すぐにでもここから逃げなければ次に殺されるのは俺達だ。

 俺の予想が正しければ、犯人は昼間の————!


 二階へと向かう階段はそこまで長いわけでも、急なわけでもないが、焦りと恐怖のせいか部屋の前へとたどり着くころには息を切らしてていた。だが、そんなことはお構いなしにその勢いのまま一気に扉を開け放つ。


 「結叶! 今すぐここから————!」


 『————————?』


 そこにいたのは俺の友人赤崎結叶ではなく、マスターと同じ無残な姿となった結叶を、巨大な腕で握りつぶすこの世ならざる者だった——。

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