5 現れる気配
午後二十時 商店街 ファミレス
学校から締め出される前にファミレスへと場所を変えた生徒会の面々は、学園祭についての話し合いが一段落し、現在は食後の雑談で盛り上がっていた。
「なーなー、これ学園祭の出し物にしてもよさげじゃねー?」
注文用の電子パネルを操作しているリックは、家族連れの客が多いこの場所には明らかにそぐわない代物を指さして、また突拍子もないことを言い出した。
「なんだ……その……食べ物を冒とくしてる代物は……」
「超激辛殺人タバスコ味のずんだシェイクこってりスープ風味!」
「激辛シェイクの……こってり?」
頭がおかしくなりそうだ。
こんなものをよくもまあ店の品として出せるものだと思う反面、あまりにも宇宙を感じるネーミングセンスがどうしようもなくしょうもないこの飲み物……? に対しての興味をそそる。
「リチャード君、私の方にはプリンを頼んでもらってもいいかな」
「リック、私の分も甘いのを一つ頼めるか」
「りょーかい。ダニーはもちろんさっきのだな?」
「やめろ。というか俺はもう何もいらん」
「はいほーい」なんて適当な空返事を返しながらダニーの制止を全く聞かずにポチポチとパネルを操作するリックは、頼まれた品に自分の食べたいパフェと、謎のずんだシェイクを注文していた。
「よっし、注文完了」
「はぁ……頼んだのはいいが、それを飲むのはリックだからな。俺は絶対に飲まん」
「えー! だって飲みたいって……」
「言ってねえ!」
「お前ら本当に仲いいな」
「そうでしょ」「絶対違う」
「ほらダニーとタイミングもぴったしだろ! やっぱ俺達……今なんて言った?」
「ふふっ、キミらを見ていると本当に飽きないよ。けど、時間もいいところだし、次の品を食べたら切り上げ……っ!?」
ロジェが突然立ち上がり、窓の方を凝視する。つい先程まで騒いでいた生徒会の3人も、彼女の切迫した表情から何かを感じ取り、彼女の方へと目を向ける。
「この嫌な感覚……【ファントム】が出現したわ! それも大型!」
「貴海、場所がどこだかわかるか!?」
「この距離だと多分……坂上の方だと思う」
「なんだと?」
場所を聞いた途端、ダニーの表情が一気に曇った。
「不味いぞ、そっちは天多の住居だ。まさか……!?」
「ダニー! 今一番早いのはキミだから先に行って!」
「ああ、先に行かせてもらう!」
そういうや否や、速足で喫茶店を出ると路地裏から人間離れした身体能力で一気に屋根上へと昇り、空間に穴をあけ、それを潜ることでショートテレポートのように空中を移動する。
ギフト、それはこの地球において古代の時代に失われたとされていた【魔法】と呼ばれるものに酷似した超常の力であり、この力を持つ人間を知る者からは【ギフト保有者】と呼ばれている。
天文学的な確率で生まれた際に保有している先天性の身体機能であり、この力を持った赤子の出生条件は全くの未解明状態であるのが現状である。
もしもこの力を持って生まれたとしても、多くの場合は国に知られれば秘密裏に処理される。仮にバレなかったとしても、力を隠し通して孤独な一生を終えるか、悪用して闇の世界の住人となるか、ギフトを知る機関に取り込まれるかのどれかしか選択肢が残されていない忌まわしき力。
この中で唯一能力を保有するダニーも、その例に漏れずある機関に所属している。
彼が保有するのは空間のギフト。空間に穴をあけ、自分の所持する異空間へと入ることができる能力。ダニーはこの特殊な空間を自在に制御できるため、異空間へと突入すると同時に出口の座標を指定してワームホールのように扱える。
座標の指定に長い時間を掛ければどこにでも移動できるが、使用する度に訪れる五秒のクールタイムに加え、僅かな時間での座標指定となると大体三十メートルの移動が限界。
その上入口を閉じないと出口側はその直線状にしか出現されられないため、ダニーはこのショートテレポートと自分の身体能力を掛け合わせて移動していた。
「アナグラには既に連絡を入れといたぜ。武装械器の使用許可がまだ下りねえから転送できないってさ。必要なら始末書書いとくから一度帰投して勝手にもってけとよ」
「相変わらずうちのバカリーダーはルールを守らないな」
来夏は自分達の所属する部隊の上司をバカリーダー呼ばわりしているが、その顔は笑っていた。
「それじゃあすぐに戻って出撃の準備……おい、どこに行く気だ」
背を向けダニーの向かった方へと走り出すリックに来夏は言葉を投げかける。来夏に対してリックはニヤリとすると。
「被害を抑えるのが先、だろ?」
一切の躊躇いなくそう言った。
「フッ、そうか。ではそちらは任せた。私は準備が終わり次第すぐに向かう」
再び前を向いて走り出すリックにロジェが「お願いね」と伝えると、来夏とロジェは反対方向にある拠点目指して駆けだすのだった。