43 作戦室 戦闘態勢
同日 二十二時半頃 作戦室
ダニーからの連絡によって作戦室へと足を運ぶと、そこにはリックを除く部隊員が全員集合していた。
「皆、夜分遅くによく集まってくれた」
これまでとは明らかに雰囲気が違う。
ここに集まる誰もから、普段の抜けた空気感が全く感じられず、表情はどこか引き締まっていた。
それもそのはず。遂に奴が再び現れたのだ。
「既に聞いたと思うが、先日のファントムが再び出現した。我々はこれを【ファントムP1】と名付けた。現在偵察に赴いているリック隊員の情報によると、エリア一帯にはグレイファントムの存在も確認している」
そこまで説明して天多の方へと目線を向けると、一瞬目を伏せて、説明するように言葉を付け足した。
「グレイファントムは、ファントムが成長の際に自己を守るために生み出す小さな分身だ。個体としてはあまり脅威ではないが、とにかく数が多い」
グレイファントムについて簡潔に説明した藤宮は、次の説明を進めようとしたところで作戦室のスピーカーから声が聞こえてきた。
『こちらリック。敵個体捕捉、レベル3羽化段階だね。』
「了解。リックはそこで待機してくれ」
『了解』
リックからの通信が終了すると、藤宮から目くばせを受けた詩音が彼の隣に並び、再び藤宮は口を開いた。
「リックの報告の通りだ。奴の成長をこれ以上許すわけにはいかない。これより我々第07部隊は、【ファントムP1討伐作戦】を開始する」
作戦名を伝えた藤宮に続くように詩音が一歩前に出ると、手元にあった端末を操作してAR技術によってエリアマップを展開し、作戦に関する概要を伝えた。
「ここからは私が引き継ぐ。作戦エリアは隣町の鉋橋マーケット跡地。エリア一帯には既にグレイファントムの出現が確認されているため、P1到達前のこれらとの戦闘は避けられず、強引に侵入すれば四方から挟撃されるリスクさえある」
再び端末を操作すると、各部隊員の名前が書かれた駒が出現し、詩音はそれを操作しながら言葉を続けた。
「そのため、部隊員を分担しこれらの掃討にあたる。一定数削れれば十分だ。私が指示したらリック、ダニー、天多の三名はP1の撃破を目指せ。その間、来夏一人でグレイの相手をしてもらう。無論私も全力でサポートするが……やれるな?」
「問題ない」
「では、続けて作戦パターンを伝える。戦闘開始後に来夏の範囲攻撃で雑魚を削ったらダニー、天多二名が続き、リックは後方支援を行う。これを基本陣形として作戦A。そこから来夏が雑魚掃討に残り、二名はボスフロアへと侵入して成長前にそれを叩く。これを作戦Bとする」
目の前に表示されるエリアマップで各隊員の駒を動かして淡々と説明を続ける詩音は「だがもし」と言葉を続ける。
「この段階での討伐が為せない場合、周囲への被害は考慮する必要はない。場合によってはリックにも後方支援ではなく直接の戦闘に参加してもらう。これをそれぞれ作戦C、Dとする」
「それと、リーダーは以前出撃許可が下りないため、先に戦闘エリアへと向かって結界の展開・維持を頼んだ」
「やっぱりか……了解した。だが緊急時は独断で動くが構わないな?」
「これ以上立場を危険に晒したくなければできるだけ動くな。どうしてもというなら自己責任だがな」
一通りの説明を済ませた詩音は藤宮に目配せをし、補足説明を求める。
「今のが今回の任務内容だ。陣形はあとで各自のデバイスに転送するから確認するように。それと、天多君」
「はい」
「君が今回の主力だ。俺が動けない今、君の扱う武器が俺達の中で一番火力が高い。だから君は、仲間を信じてとにかく攻撃しまくれ!」
「わかりました」
「よし、それじゃ出撃は一時間後、各自これより準備を開始せよ。解散!」
「「「「了解」」」」