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-ファントムレイジ- BETRAY Phantom/Rage  作者: ロニ・フィレンス
第一章 ユスティス入隊編
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9 『起動、覚醒』


 倒したはずの化け物が突如として動き出し、黒衣の人物をその剛腕で握りつぶす。


 (くそっ、何とかしないと! このままじゃあいつが……!)


 立ち上がるために全身に力を込めるが、その直後に右足の膝から下に激痛が走り、俺の身体は情けなく前へと崩れ落ちる。


 「———ッゥ!」


 今までに感じたことのない激痛が俺を襲い悲鳴を上げそうになるが、化け物の意識をこちらへと向かせまいと咄嗟に唇を噛んで堪える。


 眼前には命が失われんとする絶望の景色。


 しかし同時に、奴がこちらに気づいていない今、化け物から逃亡する最大のチャンスが訪れているのもまた事実だ。


 そんなことは天多自身にも理解できていた。だが、ここまでに既に二名、彼が大切に思っていた人物をあの化け物に殺された。しかも、そのうち一名は無力な自分が見捨てたことが原因で絶命したのだ。


 逃げなければと頭では理解しても、彼の心には既に、目の前で失われる命を見捨てるという選択肢は残っていなかった。


 何より、マスターや結叶を殺したあの化け物を、天多は許せなかった。


 その瞳は眼前の化け物を捉え続け、思考を全力で巡らせる。


 (考えろ、今の俺に何ができる!?)


 少し前まで圧倒していたはずの黒衣の人物が、一度隙を見せただけで窮地に陥っている。そんな化け物を相手に、自分が何をしたところで結果が変わるはずがない。


 そんな当たり前のことは重々承知のことだ。だが、逃げないのならば、このまま何もせず立ち尽くしているうちにまとめてあの世行きだ。


 だが、どうする……?


 あれは先程の驚異的な一撃を受けてなお立ち上がる本物の化け物だ。今の俺に、できることは……


 その時、あるものが天多の目に留まった。


 距離にして僅か2メートル先、黒衣の人物が殴られたときに落としたそれを認識した直後、天多の身体は勝手に動き出していた。


 しかし、今まで息を潜めて気づかれないようにしていた彼が突然動き出せば、化け物がその方向を警戒しないはずもなく、すかさず触手を伸ばして天多に攻撃を仕掛ける。


 (届けッ……!)


 決死の行動。落ちているそれが何なのかすらもわからないが、それしか手段がなかった。

 だが、あと一歩遅かった。

 いや、正確に言えば化け物の判断が一瞬速かったのだ。


 手を伸ばし、その物体を掴む直前、化け物の伸ばした触手が分裂し天多の四肢全てに打ち込まれ、彼は地面に叩きつけられた。

 天多が目的の場所にたどり着くまであと僅か、既に数センチにも満たない距離。手を伸ばせば届くはずのそこは、今の天多にとって果てしなく遠く感じられた。



 化け物は天多が動かなくなったのを確認すると、黒衣の人物から片腕を離し、その巨大な剛腕を振り下ろさんと天多に向かって狙いを定める。



 (やっぱ、化け物相手じゃダメだったか……あーあ、今日はついてねえなぁ……)



 詰みだ。


 彼の心を絶望がゆっくりと侵してゆく。



 (あぁ……ここまでか……)

 ごめんな、マスター、結叶。俺、誰も守れなかったよ。



 彼らに向けて懺悔するように謝罪の言葉を思い浮かべている。


 絶望が心を染めきる寸前、天多ふと、過去の記憶を思い出していた。



 それは幾度となく夢に見た、彼に唯一残された凍る炎の記憶。

 壊れた孤児院のような建物から現れた美しく残酷な世界の理に反する炎。



 記憶の炎が揺らめくと、小さな頭痛とともに記憶が再生されてゆく。



 走馬灯のように。まるで、実際にその場にいるかのように。



 記憶に意識を委ねようと深く心を沈めたその時、彼の目の前には、小さな少年が突如として表れていた。



 「え……」



 少年を見たその時、頭痛がひと際大きくなる。



 天多の脳裏に、小さな女の子の笑顔が蘇ってゆく。



 思い出す。



 そうだ、俺には妹がいたんだ。



 思い出す。



 どこまでも明るくて、どこまでも優しかった義理の妹、結依花の太陽のようにまぶしい笑顔が脳裏によみがえる。



 ああ…… 死んだらもうすぐ会える。そうだ、あいつにまた会えるんだ。



 思い出す。



 死の間際、懐かしい日々を思い出す。



 あの笑顔を、あの涙を。







 ——————あの、死に際の苦しむ顔を。







 —————、—————。






 思い出す。思い出す。思い出す。



 あの凍るような炎を、あの焦げた臭いを、妹の刎ねられた首を——————。



 ——————()()()()()()()()()()姿()()



 空白の歴史が再び再生され、あの日の悪夢を思い出す。



 怒りが俺の心を染め上げる。



 そうだ、俺はあの時誓ったじゃないか。()()()()()()()()()()を————。



 「…ねない」




 眼前に広がる死を前に、何もできずに最期を迎えるその間際、死を受け入れようとしたその瞳に光が灯る。



 『死ねない』




 身体はすでに動かない。だが、それでも天多の目には覚悟の炎が宿っていた。



 「俺は、」

 『ここで、』

 「『死ねない!!』」



 目を見開き、押さえつけられ動かない体に鞭打つように右腕を動かす。


 僅か数センチ先、そこにあった物へと手を伸ばし、確かに掴んだ。そして—————





 『————Link(リンク)System(システム)assault(アサルト) Convert(コンバート) On(オン)






 ただ無意識に、その言葉を唱えていた。



 それは彼自身にとっても理解不能な行動。しかし、こうすることが最も正しいことだという確信だけが、天多の思考を埋め尽くしていた。


 次の瞬間、天多の右手に握られた【機械仕掛けの何か】が展開すると同時に黄色い光の線が走り、変形し始めた。


 持ち手の部分を残して一部をスライドして展開した後、さらにその内側からはどこに収められていたのか刀身が姿を現し、気づけば近未来な刀がその手には握られていた。



 すると、突如としてその刀からは強大なエネルギーが放たれ、化け物と触手は強い風圧に押し返されたかのように後方へと跳ね飛ばされる。



 拘束が外れ、体が軽くなった天多はその場でゆらりと立ち上がる。


 それから僅かに間を置いてエネルギーの放出が収まると、天多の脳に直接声が流れ込んできた。


 『バイタルデータ一致 マスター権限認証完了 強制限定契約により一部機能を解除します』


 『周囲にファントムの存在を確認 強制契約者のバイタルデータより 戦闘不能と判断 戦闘の回避を推奨し———』


 『あいつを殺す力をよこせ』


 俺の脳内で淡々とそう告げるその機械的な声を遮るように、俺は言葉を吐き捨てた。


 俺がどうなろうと構ったもんじゃない。


 『承認 肉体への大幅なダメージ 右脚部の破損を確認 戦闘続行の為 意識レベルの低下 及び痛覚の遮断を行い オートモードを実行します』


 全身の痛みが消える、俺は何事もなかったかのように軽くなった体で機械刀を構えると、一気にファントムへと向かって飛び込んだ。

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