第8話 好きな人いるの?
昼休み。食堂が賑わっているのはいつも通りのこと。
そしてそんな中、ぼっち飯を堪能している凪沙。
可哀想などと同情してあげたくなる気持ちもわかるが、凪沙にとってはもう慣れっこである。
ごく稀に紡木と食べることがあるが、紡木は人気者なので普段は一緒に食べない。
正直気を遣う必要性はないのに、紡木は凪沙に声をかける。
(紡木はお人好しなんだよな。俺がぼっち飯なのは毎回のことだし気にしなくていいのに)
そんなことを考えつつ、カレーを口に運んでいく。
ただ、味があまり感じられなかった。
(ああ、そうか。友達と食べるご飯の方が美味しいのか。......ダメだ、虚しくなるからゲームのことでも考えておこう)
今年は有栖が話しかけてきたりするのでまだマシだが、凪沙の去年の昼休みは本当につまらないものだった。
昼食以外ほとんどスマホを触っているだけで終わる。気づけば昼休みが終わっているのだ。
と、カレーを三分の一ほど食べ終えた時だった。
「凪沙くん、隣いい?」
トレーを持った有栖に話しかけられた。
「え? ......別にいいけど」
こんなことは今までなかったので凪沙は少し動揺した。
そして男子からの『なんでお前なんだよ』という羨望と嫉妬の視線が集まる。
学校にも有栖の噂はある程度広がっており『雲の上のアイドル様』なんて言う異名をつけられたりしている。
有栖は分け隔てなく接しているせいで知らず知らずのうちに男子諸君に希望を与えているのでアイドル様なんて呼ばれたりしているのだ。
有栖はハンバーグを乗せたトレーを机に置いて、凪沙の隣に座った。
「友達はいいの?」
有栖は普段色んな人と食べている。だからぼっちと食べても何の得もない。
しかし有栖からの返答はこうだ。
「えっと、凪沙くんも友達だけど?」
「え? あー、そっか。うん、まあいいんだけど」
(それはそうなんだけどそう言うことではないんだよな)
しかし、凪沙も有栖と話したかったのでここは深く考えないことにした。
「そういえばさ、凪沙くんって好きな人いるの」
「.......!?」
匂わせランキング第1位『好きな人いるの?』
凪沙はそれを聞いてカレーの具材が喉に詰まってしまったため、急いで水で流し込んだ。
「......えっと、大丈夫?」
「う、うん......好きな人いるのかだっけ」
(その質問はダメでしょ、有栖さんや)
ただ、有栖は素で質問していそうなのである。
特に意味もなく、ただの純粋な疑問。
(こう言うところがアイドル様なんて呼ばれたりするんだろうな)
「......好きな人はいないかな、急にどうしたの?」
「いや、何となく」
「ちなみにそっちは?」
「別にいないけど、まだ学校に慣れ始めたばっかりだし」
(まあそれもそうか。転校してまだ約一ヶ月。......そう思うと経ったの一ヶ月でもうアイドル様なんて言うあだ名が広がっているのか)
有栖は気にも留めない顔でハンバーグを口に運んでいる。
「あ、じゃあタイプは?」
「タイプか......」
その時、凪沙の脳裏にあの子の姿が思い浮かんだ。
花の冠をつけて無邪気に笑っている少女の姿が。
そう思えば思うほど、有栖の笑顔とあの子の笑顔が重なるところがある。
「よく笑う子とか?」
「ふーん、まあベタだね。ちなみに私は......一途な子? かな、なんていえばいいんだろう」
「裏切らない子的な?」
「うん、まあそんな感じかな~。ずっと想い続けてくれる子? みたいな?」
有栖は意味もなく自然な感じで笑った。
その感じがやはり重なる。
(やっぱり似てる......まあ全くの別人なんだろうけど)
しかし有栖なら良いかと思い、凪沙は昔のことについて喋ってみることにした。
「俺さ、好きな子いたんだ」
「え? そうなの? てっきりそう言うのに興味ないかと」
「昔だけどね。多分あれが最初で最後の恋だと思う。初恋ってやつ? その子と小さい頃公園でよく一緒に遊んでてさ。まあいわゆる幼馴染かな。それで小学校に上がっても放課後は一緒に遊んだりして......その子の笑顔を見るのが好きだった。その子が好きになってた。でもある時その子が転校しちゃったんだ。ずっといるものだと思ってたから急でさ。想いを伝える前に離れ離れになっちゃってたからさ」
「切ない......」
「まあ初恋拗らせてるだけなんだけどね。元気かな」
「あー、凪沙くんの気持ちちょっとわかるかも。私も似たような経験あるし」
ある日、いきなり仲の良かった子、好きだった子と離れ離れになるのは辛いこと。
有栖は片親がフィンランド人ということもあって、そういうのを何度か経験しているのだろう。
「凪沙くんに話しかけちゃう理由も仲良かった子と雰囲気が似てるからかな」
そういえばあの子も......もしかしたら......。
そんな希望を見せてくれるだけで凪沙は十分だった。