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第7話 幼馴染との思い出

 (あの子の名前、本当に何だっけ。あーちゃんって呼んでいたのは覚えているけど......)


 凪沙には昔よく遊んでいた、そしておそらく初恋の女友達、今から言えば幼馴染がいた。

 凪沙が彼女と出会ったのは5歳くらいの時である。


 ちょうど友達と遊んだ日の帰り道だった。


 彼女が遊具のトンネルの中で啜り泣いていた。

 その様子を見て手を差し伸べてあげたくなった凪沙は彼女にハンカチを貸したのだ。


『あ、あなたの名前は?』

「......え? 全然何言ってかわかんないんだけど」


 そう言うと彼女は泣き出しそうになった。

 当時の凪沙は非常に女の涙に弱かった。

 だから何とかあやそうとして必死に頑張っていたわけでもある。


『あなたおもしろい......』

「何言ってるか分からないけど、なんか褒められた?」

『ふふ』


 彼女はニコッと笑った。それが凪沙にとって照れ臭くてでももう一度みたいと思うような笑顔だった。

 幼いながら一目惚れに近い感情を抱いていたのだろうか。


 凪沙は毎日その公園に通った。毎日のように彼女はそこにいて凪沙を待っていた。

 言語は通じなくてもジェスチャーや表情で相手の気持ちは大体汲み取れる。

 だから凪沙は彼女と遊ぶことができた。


 しかし言語が通じればもっと仲良くなれるのに。凪沙はモヤモヤした気持ちだった。


 そんなある時、凪沙がテレビ番組を見ていると、フィンランドの文化特集のようなものがあった。

 そこで彼女と似た言葉、発音が流れてきたのだ。


「お母さん、これ何語?」

「フィンランド語だと思うわ。スウェーデン語とかあるけれどフィンランドの第一言語がフィンランド語だもの」

「フィンランド語か......」


 そこから凪沙は毎日のようにフィンランド語を勉強し始めた。


『こんにちは』

『こんにちは......ってフィンランド語喋れるの!?』


 この時の彼女の驚いた表情は好きだった。

 そして彼女の言語が少しでもやっと分かるようのなったという嬉しさもあった。


『わ、私の名前は◼️◼️◼️。あなたの名前は?』

「白鳥 凪沙」

「しらとり......なぎ.....さ?」

『うん、そうだよ』

『じゃあ、なーくんって呼んでもいい?』

 


 そこから彼女はフィンランド語をたまに教えてくれるようになった。


 小学校に上がっても彼女はその公園にいた。

 学校は違ったが、終わったら放課後に集まっていたのだ。


『学校疲れた~』

『お疲れ様、なーくん』


 そしてフィンランド語の勉強も続けて、彼女の喋っていることがほぼ全てわかるようになった。


『なーくんのフィンランド語も上達したね』

『そうか? ありがとう』

『私のため?』

『か、勘違いすんなし。遊ぶ上でこっちのほうが楽しいだからだし』

『それって結局私のためじゃん。ふふ、嬉しい』


 彼女はよく笑った。その笑顔が凪沙は大好きだった。


 そして彼女はよく歌も歌ってくれた。


『Ratsatsaa ja......』


 彼女の笑顔を見るのが好きだった。彼女の歌声を聞くのが好きだった。

 気づけば彼女のことを好きになっていた。初恋というやつなのだと思う。



 でもそんな彼女はある日を境に公園に来なくなった。


「風邪ひいてるのかな」


 こんなこと一度もなかった。最初は風邪か何かで休んでいるだけなのだろうとそう思っていた。

 しかし何日経っても◼️◼️◼️は公園に来なかった。凪沙は公園に通い続けた。



「今日も来なかったのか......もう帰るか」


 凪沙は胸が苦しくて、痛くて......何かしたのかとずっと不安だった。

 彼女を悲しませるようなことをしてしまったのではないかと。

 しかし彼女が来なくなる前日までずっと彼女は笑顔だった。



「なんだよ......あー、もう!」


 そして凪沙は街中を探し回った。

 また何日も、何日も。


「......あー俺何やってんだろ」


 やはり彼女は見つからない。

 凪沙は彼女に捨てられた。それだけのこと。何をそんなに固執しているのだろう。


 そう思い始め、凪沙は探すのをやめた。

 そして最後にもう一度だけあの公園に行こうと、足を運んだ時だった。


 彼女の姿があった。

 ずっと会いたかった彼女がいた。


「◼️◼️◼️!」


 凪沙はその姿を見た途端、真っ先に彼女の元へ向かった。


『なーくん!』


 彼女の目元は少し腫れていた。泣いていたのだろう。


『今までどこ行ってたんだよ......』


 凪沙が彼女に対して言葉を言い切る前に彼女は凪沙に抱きついた。


『なーくん、今までごめん、本当にごめん......会いたかったけど会いづらかった。会ったら......帰りづらくなっちゃうから』

『か、帰るって......まさか......』

『うん、今日の夜、フィンランドに帰ることになったの。......急でごめん。私のわがままだけど......でも最後になーくんと会いたかった』

『っ......』


 気づけば凪沙も涙を流していた。


『今までありがとう。なーくん! 絶対私のこと忘れないで!』

『忘れる......もんか。絶対会いに行くから!』


『Myosotis scorpiodes』


『......? ごめん、それはどういう意味?』

『もしさ、次会った時、この言葉を私に言ってよ』

『......わかった。覚えておく』

『じゃあね、なーくん。Älä unohda minua』



 

 




紫苑の花言葉も素敵ですよ。

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