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第6話 フィンランド民謡

「ちゅ! 可愛くて......」


 タンバリンでリズムに乗っかったり、一緒に歌ったり......。


 凪沙がカラオケに一緒に行くことによって嫌な顔をされるかと思ったがそういう訳ではなく、むしろ歓迎している様子だった。

 勝手な妄想を凪沙は脳内でイメージしていたのだ。


 クラスメイトを信用できなかったことに少し罪悪感に囚われてしまう。


 

 今は有栖が流行りの曲を歌っており、歌も上手いのね、とタンバリンを叩くことを忘れて凪沙は素直に感心してしまう。

 

 (それにしても色んな意味で破壊力すごいな)


 男子の頬がちょいと赤いように見えるのは気のせいだろうか。


 凪沙の右横には紡木、左横には有栖が座っている。

 男女の境界線の役割を果たしていると言っても過言ではない。


「凪沙もなんか歌えよ」

「えー、俺は聞き役に......」

「逃げさせる訳ないだろ」


 と、紡木は凪沙に店のタブレットを押し付けた。


 こうなっては歌うしかない。


 (初心者にも歌いやすい無難な曲を歌っておこう)


 タブレットをスライドさせて曲を見ていると少し気になるものがあった。

 

 (イエヴァンポルカ......フィンランド民謡があるのか。懐かしいな)


 昔、よくあの子が凪沙に向けて歌ってくれた曲である。日本でも有名なフィンランド民謡と言えるのではないだろうか。


 フィンランド語をまあまあ喋れる凪沙にとっては歌うことは容易だが、引かれてしまう可能性がなきにしもあらず。

 やはり無難なものを選んだ方がいいと考えた凪沙はちょっと昔に流行った曲を選択した。



 凪沙はカラオケで歌うのが初めてだった。

 カラオケという存在は知っていたが、今までカラオケに行ったことがなかったのだ。


 ***


 歌い終わると、凪沙はマイクを置きソファーにもたれかかった。

 

 (さ、酸欠! つ、疲れる)


 喉は少し痛いし、口の疲労がどっと来ている。

 

 しかし楽しいかも? と凪沙は思い始めた。


「ちょっとタブレット見ていい?」

「あ、どうぞ」


 凪沙は有栖にアイパッドを手渡した。するとスライドして曲を見始めた。


「うーん、やっぱり知らない曲多いなぁ......ってあ、イエヴァンポルカあるじゃん! 懐かしい!」


 有栖がそう言うと、陽キャ男子の1人が有栖に質問した。


「イエヴァンポルカ......何それ?」

「フィンランド民謡だよ。知らない?」

「あー、あれか!」


 少し前にも話題になったので、名前は知らなくてもリズムは覚えている人が多いのではないだろうか。

 

「有栖ちゃんのフィンランド語聞きたい!」

「私も!」

「お、俺も!」

「普通に聞いてみたいわ!」

「そ、そう? じゃあ歌おっかな。歌えるかな~」


 有栖は流されるままイエヴァンポルカを選択した。


 

 (あの子の歌声もう一度聴きたいな.......っ!?)


 有栖が歌うと同時に、脳内の記憶のあの子の歌声と有栖の歌声がそっくりそのまま重なった。


「jalakani pohjii......」



 (......いや、似てる)


 聴き間違えかと思ったがその声に聞き覚えがあった。音色や音の高さなどは流石に違うが、歌っている時の雰囲気や歌の癖はそっくりだった。

 左を見てみればあの子の幻影とピッタリ重なった。


 (流石にそんなわけ無いよな......)


 凪沙は気にせずにタンバリンを叩いて歌を応援することにした。

 有栖は発音が綺麗で普通に上手い。流石、ネイティブというべきか。


 そして1番の盛り上がりの部分に差し掛かる直前だった。

 いきなり有栖からマイクを押し付けるように渡された。


 有栖はパチンとウインクをし、一緒に歌おうと誘いかけている。

 凪沙がフィンランド語がわかると知っているからだろう。

 とはいえ、サビの部分は難しい。スキャットであるからだ。


 (......ガチ、え、これ歌うの? 昔はよく歌ったから歌えるけども......ってああもう知るか!)


 そうこうしているうちにサビが来てしまった。

 凪沙はマイクを口に近づけて歌った。


『Ratsatsaa ja ripidabi dilla......』


 凪沙が歌い始めると他の人は目を点にして驚いた。

 それもそうだろう。


 まさかクラスでパッと目立たない男子が有栖の歌に入り、ハモって綺麗に歌い始めるのだから。


 そしてそのまま歌い切り、拍手が起こった。


「す、すげえ。凪沙ってフィンランド語できるんだ」

「ま、まあちょっとだけどね」

「えー、意外なんだけど~」

「いやーうん、どっちも上手かった」


 有栖の方を見てみればふふんと誇らしげに笑っていた。


「やればできるじゃん」

「......半ば強制みたいなもんだろ」

「でも案外上手かったよ。歌えないかな~とか思ってたけど」

「そう思ってたならマイク渡すな......いやまあおかげで楽しかったけど」


 凪沙は楽しさと懐かしさを覚えた。

 (やっぱりこの曲好きだな~。歌詞の意味はともかくリズムがいい)


「お、お前......そんな特技あったんだな。意外だ。フィンランド語は喋れるのか?」


 紡木は目をキラキラとさせている。少し気恥ずかしい。


「まあ、うん」

「えーじゃあなんかちょっと喋ってみてよ」

「じゃあ......」


 ちらっと有栖の方を見てみればニコニコと笑ってこちらを見ていた。ちなみに目は笑っていない。

 絶対にあれを言うなという圧を感じる。


 (うー、言うつもりだったけど流石に仕方ないか)

 

「Naapuripoikaparka, joka ei saa tyttöystävää」

「......うーん、なんか貶された気がするんだが、鳳条、これってどういう意味だ?」

「えっと......言いづらいんだけど『隣の男子は彼女ができない可哀想な人』って」

「うーん、フィンランド語で哀れみの言葉を吐くんじゃねえ」




 






 


 






 

 

フィンランド民謡個人的にすごい好きです。というかフィンランドの文化いいですね。今度料理食べてみたいです。

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[一言] ネギ、ネギを振り回さなきゃ(使命感)
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