表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/38

第5話 友達認定

 とある昔の日の公園。


 一人の少女が遊具のトンネルの中で縮こまって啜り泣いていた。

 たまたま見かけた少年は心配に思ったものの、友人でも何でもないような人だったので無視して通り過ぎようとした。

 しかし妙に心残りがあり、その少女の姿が忘れられなかった。


「んあー! もう!」


 そんな声を出しながら少年は少女の元に向かった。


「ん!」


 そしてトンネルに行き、彼女に手を差し伸べた。

 何をどうすればいいかわからなかった少年なりの最大限の気遣いである。


「うえええええん!」


 しかし彼女はまたも大声で泣き出した。


「え! ちょっ! おい! 泣くな!」


 少年は自分が泣かせたみたいで嫌だったので少女にハンカチを渡して泣き止ませようとした。

 ちなみに少年も半泣きだった。


「ぐすん」

「うう......ご、ごめん」


 少年は改めて手を差し伸べた。

 彼女もそれを手に取り、トンネルから出た。


 ***


「それじゃあ、この問題を凪沙」

「ふぁ、ふぁあい!」


 凪沙はバン! と勢いよく机から立ち上がった。

 (あれ、俺、これ何して......)


「おおいいな、意欲があるな。そんなに答えたかったか」


 先生がそう言うとクラス中が笑いに包まれる。


「え、あ、はい」

「よしそれじゃあ答えてみろ」

「あー、えっと......わかりません」


 凪沙がそう答えれば再びクラスは笑いに包まれた。


「寝てるから答えられないんだ。ちゃんと起きてろ」

「は、はい」


 凪沙は目を擦りながら席に座った。


 (懐かしい夢を見た気がする......んー、何だっけ)


 非常に懐かしさを覚えているが、人間は夢というものを忘れる生き物だ。

 怖い夢なんかは覚えているが、それ以外の夢はあんまり記憶に残らない。


 それに眠りに落ちる前の記憶もない。いつから寝てたっけ。


 授業はだいぶ進んでいるようで、ノートも少ししか取れていなかった。


「ぷはっ、寝顔思いっきり晒してたよ?」

「え、まじ?」

「まじ」


 そう言うのは凪沙の隣の席の有栖。


 しかし凪沙はゲームのキャラを思いっきり見られてしまっているので今さら恥ずかしがることなんてなかった。

 それに凪沙には必殺のカードがあった。


「Vaikk......」

「わかったわかった! ごめん! 許して! だからそれ以上言わないでー!」


 顔を真っ赤にさせて慌てているところが少し可愛いと思ってしまう。


「おい、そこ、授業中だぞー。あと好きな子に振り向いてもらいたいからっていうのはわかるがあんまり女子をいじめるなよ」


 クラスが苦笑で包まれた。紡木はガチ笑いだったが。


「......私のこと好きだったの?」

「んなわけ」


 ***


「あの、少しノート写させてもらってもいいですかね。有栖さん」

「嫌です~」


 有栖はそう言ってこちらを見ようとしない。


「だって、凪沙くんのせいで授業中怒られたし~?」


 そしてぷくーっと頬を膨らませた。


「分かりました! ごめんなさい! なのでノートを見せてくださいー!」

「むぅー」


 有栖は広げたノートを有栖の机に置いて友達の元へ向かった。


 (いやツンデレか、ともかくまあありがとうございます)

 

 なんだかんだ言って有栖は見せてくれる。


 

 有栖が来て数週間が経っていた。

 有栖はクラスの中心的存在となっており、欠かせない存在となっていた。

 一方、凪沙はというと特に変化はなく、今まで通りの日常を送っていた。

 しかし、隣の席に有栖が座っているためそんな日常が楽しかった。


 ただ、有栖は友達ではない。友達だと凪沙も断言したいところだったが、それは有栖の性格からくるものだろう。

 凪沙はそう思っていた。


 ***


「放課後、行ける人はカラオケ行かない?」


 7限目が終わり、紡木がそうクラスに呼びかけた。

 

「あ、男女関係なく行きたいやつ集まれ~」


 紡木がぶらぶらと手を上げている。

 男女関係なく交流の深い女子、男子などの陽キャ軍が集まっている。

 

「どうしよう、私行ってみようかな」

「フィンランドとかってカラオケあるのか?」

「あるけど放課後にみんなで行くとかは私の地域ではなかったかな。そもそもカラオケが近くになかったから」


 放課後カラオケをしたことがないから少し憧れも感じているのだろう。

 有栖はもう人気者に昇華しているので行っても別に変なことはない。


 しかし陽組と凪沙が入っても変なので凪沙は帰る準備をしていた。


「いいんじゃないか?」

「そうだね。行ってくる。凪沙くんは?」

「え、なぜ俺を誘う。俺が行っても変なだけだろ」


 きょとんと凪沙がしていると、有栖は何気ない顔をしてさらっと答えた。


「友達だからに決まってるじゃん」


 特に意味はない一言かもしれない。しかし凪沙にとっては大きな一言だった。


 (友達......俺に友達が......)


「それで行きたいの?」

「いやまあ、行きたいけど......」

「それじゃあほら、行くよ?」

「お、おう」


 有栖に手を引かれて俺は紡木の元に集まった。

 


 


 





 

 




 



 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ