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第38話 イメチェン

 夏祭りと言ったら何を思い浮かべるだろうか。

 美味しい屋台や夜に咲く色とりどりの花、おみくじや射的などの娯楽。


 たしかに凪沙はそれらも楽しみである。さらに有栖と二人きりで楽しみを共有できるのだから尚更。


 しかしそれ以上に楽しみにして夜もあまり眠れなかったことがある。

 それは有栖の浴衣姿だ。


 夏祭り、有栖は浴衣で来ると言った。

 凪沙もそれに合わせて浴衣を着てくることにしたのだが男子と女子で貴重度が違う。


 ましてや好きな人の浴衣姿を男子諸君は一度は拝みたいと思うだろう。


 それが今目の前にある。


「おにい、なんでそんな顔が赤いの......? 緊張してる?」

「それは.......な。女子と二人で夏祭りデート行くのに緊張しない人はあんまりいない」

「ふーん、とりあえず浴衣姿似合ってるよ」

「それは素直にありがとう、夏目も似合ってるよ」

「ははーん、いけないですねえ。鳳城 有栖さんという心に決めた人がいるのに妹を口説く気ですか~」

「口説いてない! というよりなんで有栖の名前が出てくるんだよ」


 (俺、夏目に有栖が好きだって一言も言ってないのに......)


 勘が鋭く前々から察している妹のことなのでとぼけても無駄だろうが一応特別な感情は何も無いかのように振る舞っておく。


「ふふん、妹の目は誤魔化せないんだから......いてっ」


 少し得意げに言う妹に凪沙は少々イラついたので額に軽くデコピンをしておいた。

 こんな妹の元気さによく元気付けられてきたので凪沙は思わず笑ってしまった。


「ところでおにい、話は変わるけどそのいつもの髪型で行くの?」

「え? そうだけど......何?」


 夏目はジト目でこちらを見ている。

 そして凪沙に聞こえるように大きくため息をついた。


「おにいさ、せっかく顔は整ってるし素材はいいんだから髪型変えればいいのに、ずっとそれでしょ?」


 凪沙は近くにある鏡で自分の顔を見た。有栖に比べたら当たり前だが格段に劣る。

 悪い方では無いと思うが雰囲気からして妹はそう言うものの顔立ちが整っている方なのだろうかと疑ってしまう。


 何も考えていなかったがこれでは釣り合わないだろう。

 そう思った途端に少し自信がなくなってくる。


「髪型だけで印象って変わるんだよね、ちょっと待ってて」


 夏目は洗面台の方に行き、父のワックスを持ってきた。

 そしてその中身を手のひらに広げ、凪沙の髪をいじり始める。


 そして数分が経ち、凪沙の髪型は大きく変わった。


「よし、できた」

「......これ俺なの?」

「結構かっこいいよ、髪型変えるだけでおにいの良さが引き出されちゃうのだ〜」

「印象違いすぎて逆に怖いんだけど」

「アップバングショートって髪型。おにいに似合うと思っていつかやってみたかったんだよね。そしたら案の定似合ってる」


 目の前にいるのは前の自分とは似ても似つかない人物。

 陰の雰囲気から一気に陽の雰囲気が出てきた。


 正直これを有栖に見せるのは少し抵抗があるのだが前の髪型よりかは断然良い。


「もし私がおにいの妹じゃなかったら確実にドキッとしてるね......流石我がお兄ちゃん」

「ありがとう、じゃあ時間も時間だし、行くか」


 そうして夏目と凪沙は家を出た。

 夏目は今年は女友達と一緒に夏祭りに行くらしく、せっかくなので途中まで一緒に行くことになった。


 凪沙と夏目が歩いていると夏目は人がいないのを確認してから凪沙の腕に自分の腕を絡める。


「ブラコン妹、暑いから離れてくれ」

「え〜、たまには兄に甘えたいんですー!」


 こうなれば夏目は意地でも離れないので凪沙は諦めることにした。

 兄妹仲が良く、妹も兄のことを避けていないのは嬉しい。

 しかしここまでくっつかれると夏なので流石に暑い。


「ねえ、おにい......有栖ちゃんに告っちゃうの?」

「さあ、どうだか。告白したところで振られたら気まずいだろ? だから友達のままの関係の方が良いかもなって思ったりしてる」


 今の段階で告白しても成功するかどうかはわからない。

 有栖のそれっぽい匂わせはからかいかもしれないし無自覚によるものかもしれない。


 凪沙の恋愛に関してのヘタレはまだ残っていた。


「さっさと次に進んじゃいなよ。じれじれは好きだけどヘタレは嫌いだよ?」

「でもこっちはこっちで遠回りになっても頑張る」


 凪沙はキッパリと言い切った。

 ヘタレだとしても有栖に告れるぐらいには良い人になりたい。


「そっか......そういうことなら妹は安心なのです」


 夏目は腕を絡めるのをやめた。そして別の方向に歩き出す。


「じゃあね、おにい、有栖さんとの夏祭りデート楽しんできてよ」

「ん、もちろん楽しんでくる」


 凪沙は夏目とは別れて待ち合わせ場所に向かった。


 ***


 待ち合わせ場所に着くとまだ十分前だというのに有栖がいた。

 その浴衣姿に一瞬胸がドキッとしたものの、平然を装って有栖に話しかける。


「有栖、お待たせ、待った?」

「あ、なーくん、ううん、全然......って、なーくん......?」


 有栖は困惑した表情で凪沙を見る。

 それもそのはず、髪型が以前とは全く異なるのだから。


「ちょっとイメチェン、どうかな?」

「あ、うん......すごくか、かっこいい......です」


 かっこいいと言われて凪沙の胸はいつもよりもさらに早く動き始めた。

 しかし有栖は目を合わせようとしない。そして片言になっている。

 

 (ちょっと似合わなかった?)


「やっぱりちょっと変かな」

「ううん、全然全然、かっこよかったから......びっくりした」

「そ、そっか」

「う、うん」

「......」

「......」


 鏡で自分の顔を見たわけじゃないが顔が赤くなっているのがわかる。

 少々気まずい感じになってしまい、お互いに沈黙してしまった。


 このままではいけないと思った凪沙は気を紛らわすように有栖のことも褒めることにした。


「有栖も浴衣似合ってるよ。か、可愛い」

「可愛い......あ、ありがと」

「じゃ、じゃあ行こっか」


 凪沙と有栖は横に並んで一緒に歩き出した。




 



 





 


 


週一ペースでぼちぼちと書いていこうと思います。

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