第37話 強制ラブコメ展開
夏休み初日のベッドの上。
起きる必要がない。何故ならこれから長い長い夏休みが始まるからである。
色々と充実した夏休みになりそうな訳だが、とりあえず初日は用事がないので惰眠を貪ることにしよう。
チラッと目を開けて机の上にある時計を確認するともうすでに午前11時を過ぎていた。
(うーん、もうちょっとだけ......)
凪沙は再び目を瞑り、眠りに落ちようとする。
しかしそこでわかった。下腹部に少し重みを感じるのだ。
凪沙はゆっくりと目を開けた。
すると夏目が馬乗りになっていた。
マッキーペンを持って。
「あ、起きた、おはよ、おにい」
「......とりあえずその手に持っているものをおこうか」
「ちぇっ、は~い」
夏目は手に持っているマッキーペンを机に上に放り投げた。
投げられたペンはころころと転がり、床へと落ちた。
「......で、なんだどっかに行きたいのか?」
「ううん、違うよ」
夏目が凪沙に馬乗りになっている時は大体どこかに行きたいという合図でもある。
しかしどうやら違うらしい。
「うーんと、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
「......えーっと、じゃあ悪いニュースからで」
「実家に帰る期間が一週間から二日に縮んだ。だから二泊三日だね。あともう一個あるんだけど、マミーとパピーが一緒に実家に帰れなくなった。急用も入って忙しいし、家も一週間も空けられないって」
「じゃあ俺ら二人で行くと......」
「違うよ、三人」
「三人......? あと一人誰が......」
夏目はスマホを取り出すと、何故か有栖とのチャット履歴を凪沙に見せた。
凪沙はそれを見て唖然とした。
「......え? ええ......何をしてんの~?」
呆気に取られて思わず変な声を出してしまう。
『有栖ちゃん~、私たち実家帰るんだけど一緒に帰らない?』
『......へ? えっと、なんで私が?』
『おにいの実家のあるところはホームタウンだから有栖ちゃんもどうせなら一緒に帰ろ~っていう感じかな』
『凪沙くんはなんて?』
『まだ聞いてないけど多分オッケーすると思う』
「......俺、お前に俺と有栖が幼馴染なこと言ったっけ」
「え? おにいについて有栖ちゃんと話してたら有栖ちゃんが言ってくれたから」
「......なるほど」
「それで、おにいの意見は?」
「無理......って言いたいけど何も言えない。とにかくマイシスターの頭に思いっきりチョップをしたい」
「ひどいっ、レディなのにっ」
「とりあえず離れろっ」
凪沙は抱きついて離れたくないアピールをしている夏希を強引に引き剥がした。
夏希は手について乾いてしまった接着剤ぐらい取れなかったが、流石に高校生男子の力に夏希は敵わなかった。
ため息をつく朝は嫌だがいつも通りなので凪沙はもう何も思っていない。
というより有栖と共に実家に帰るということに意識が行っている。
(俺が断れない雰囲気作りやがって......ていうか一緒に帰るってことは寝泊まりってことだよな......いや、なんでやねん)
思わず関西弁で心の中で突っ込んでしまう。
「......とりあえず顔洗ってくる」
夏目の方を見ると夏目は妙にニヤニヤとしている。
それが妙に不気味で凪沙の背筋はゾワッとした。
「なんだあいつ」
凪沙は自室を後にして、洗面台へと向かった。
「相変わらず兄妹で対称的なんだよな......って、なんじゃこれええええええええ!」
凪沙は鏡を見て絶句した。
その後、朝食を食べている間ずっと夏希はケラケラと笑っていた。
油性で書いていたので中々落書きを消せなかった凪沙は、恨めしい妹が推しキャラのためにずっと貯めていたガチャ石を十数連分内緒で引いておいた。
***
『ごめん、夏祭り一緒に行けない!』
午後、グループチャットに紡木からそう送られてきた。
なんとか苦労して顔の落書きを消した凪沙がベッドの中でスマホをいじっていた時だった。
(あ~、紡木行けないのか)
なんとなく事情は察することができる。
宮内がアプローチに成功したのだろう。とにかくいい感じなので凪沙たちが邪魔することはできない。
『なんで~?』
疑問に思ったらしい楓華がそのまま質問をする。
『後輩に誘われて......今ちょっといい感じなんだよね』
『あ~、じゃあ仕方ないね~』
『そうなんだ、初めて知った、応援してる』
有栖も楓華の続き、メッセージを送る。
自分も何か送ろうと思い、メッセージを打ち込んでいく。
『色々と頑張れー』
『恩にきる! 三人ともありがとう!』
紡木はモテないが悪いやつではないのでこのままの勢いでリア充になってほしいところ。
などと思っている凪沙も人のことを気にしてられない。
(......有栖、俺のことどう思ってるんだろうか)
あの一件以降、そのように思うことが多い。
「私のことはただの友達だと思ってる?」
あの言葉の真意は何だったんだろうか。
あの後に言葉が続いていたらなんと有栖は言うのだろうか。
ほんのからかいと出来心だった、で普段から距離感の薄い有栖のことなので納得できる。
しかし、凪沙が軽く物申した時の目がどこか残念そうで違和感を感じていた。
そんな考え事をしているとメッセージはどんどんと進んでいく。
気づけば通知が溜まっていた。
『あ、そうだ、私も無理だったんだ』
『え、そうなの!?』
『うん、仲良い男子から誘われて、そっち行きたいからごめんね〜』
『そっか、なんとなく察したかも』
『そういうこと、二人で楽しんできて』
たしかによくよく考えれば楓華に彼氏がいなかったこと自体がおかしい。
普通に容姿は良い方だし、性格も陽系。
(......ん、てことは)
『二人で行くことになっちゃうけど良い?』
間も空けずにダイレクトメッセージが来た。
凪沙の中では色々と複雑な感情が渦巻いていた。
主に恋に関する感情だ。
しかす断る理由はない、今まで通り接すればいいだけだ。
『全然俺はいいよ、何回か二人だけで遊んでるし』
そう送った後、凪沙は自分の気持ちを落ち着かせるために息を吐いた。
その後、有栖が部屋で一人、実家お泊まりの件やら夏祭りデートの件やらでベッドでのたうち回っていたのは乙女の秘密です。
本当お久しぶりです。投稿が空いてしまってすいません。
完結までゆる〜く投稿していくつもりです。




