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第31話 告白とは

「白鳥くんがす、好きです! わ、私と付き合ってください!」


 木々の隙間をぬるい風が通り抜け、太陽は校舎によって隠された放課後の校舎裏。

 

 目の前にいる生徒は体育祭で同じ組のメンバーだ。

 凪沙はその生徒に告白をされた。初めてのことだった。

 人生で一度も『付き合ってください』と言われたことはなかった。


 校舎裏に呼び出された時、もしかしたらと思ったのだが案の定だったらしい。


 (......何かの罰ゲームとかじゃないよな)

 

 木の裏や茂みを凪沙は見たが、人影のようなものはなかった。


 凪沙はもうヘタレではない。しかし自分を蔑んでしまう癖はまだ残っていた。

 だから自分の評価を適切に行うことができなかった。


 ある程度競技の形も整い、夏休みまで残りわずかとなった時だった。

 

 凪沙はそれまでクラスでパッとしない位置にいる人だった。

 しかし大事な場面ではきちんとやれるタイプの人間である。

 そして本人はそれをいたし方ないことだと、つまり当然のことだと思っている。

 だからサッとした気遣いができる。


 ここ数日で凪沙は女子人気を上げていたのだ。


「......なんで好きになってくれたの?」

「えっと、白鳥くんは優しいし、落ち着きがあるし、気遣いができるような人で......あとはか、かっこいいと思うし」


 罰ゲームならそんなことは言えない。

 この生徒は本気なのだ。それだけ凪沙を見ていて、凪沙に対して好意を抱いているのだ。


 凪沙は初めて故にどう反応したら良いか分からなかった。

 だから凪沙は少し考え込んだ。

 

 (この子の気持ちは受け止めたいし応えたい。けど俺には......)


 凪沙の脳裏に有栖の姿が浮かんだ。

 凪沙だって好きな人がいる。有栖だけは誰にも譲りたくなかった。


 凪沙は一息ついて言った。


「ごめん、君と付き合うことはできない。気持ちは嬉しいけど......ごめん」

「っ......」


 その生徒はそう言った途端目に涙を浮かべた。

 しかし涙を流すことを我慢しているようだ。


 その様子を見て凪沙はぎゅっと胸が締め付けられた。


「......なん、でか、教えてもらってもいい?」


 震えた声でその生徒は言った。


「君のことを全然知らないから......」


 凪沙はそう言いかけたところで止まった。

 (この子は俺のことを知ってるけど俺はこの子のことを知らない。けどそれは事実だし現実を伝えてもどうしようもない......逃げているだけ。だから俺が言うべきなのは......)


 この子の好意を、勇気を最大限受け止めてあげたい。

 

 だから凪沙は中途半端なことを言うのはやめた。


「いや......好きな人がいるから。その人と俺は付き合いたい。だから君の想いには応えられない」

「っ......」


 そう言い切るとその生徒は凪沙から背を向けて溢れ出した涙を見えないようにし、袖で目を擦った。


「そっか......白鳥くんの恋応援してるね。ごめんね、時間取らせたよね。じゃあ、ばいばい」

「ばいばい」

 

 その生徒は背を向けて走り出した。

 

 (......告白って相当勇気のいることだもんな)


 有栖に告白する時が来るのだろうか、と凪沙は考えた。

 しかし想像しただけでも、その決断は大きいと分かった。

 

 (と言っても俺が有栖に告白する勇気があるのかな......)


 有栖に対して好意を抱いていても有栖が今の関係を望んでいるならその気持ちに蓋をする必要がある。

 凪沙も帰路に着くことにした。


 少し重い足取りで歩いていく。

 そうして正門付近まで歩いた時、見覚えのある人がバッグを両手で持ちながら壁にもたれかかっていた。


 有栖である。


「あれ? 有栖? いたんだ」

「あー、うん」

「誰待ち?」

「......なーくん待ち」

「先帰ってても良かったのに」


 有栖は何も言わずに歩き出した。

 

 (あれ? 今日の有栖なんか不機嫌?)


 少し歩くスピードが速く、なんとなく怒っているような雰囲気がする。


「有栖? 俺なんかした?」

「別に......あ、いや、したのは私の方か。ごめん、ちょっとあの告白聞いちゃった。声が聞こえたから近づいてみたら......」

「えっと......最初から最後まで?」

「ううん、最初の方だけ」


 もし最後のセリフが聞かれていたとすれば色々と恥ずい。

 有栖と楓華以外の生徒と交流がない凪沙にとってある程度は察せられてしまうだろう。


 しかし有栖の返答を聞いて胸を撫で下ろした。


「......ちなみにオッケーしたの?」

「オッケーしてたら多分一緒に帰ってる。断ったよ。申し訳ないけど俺はあの子のことそんなに知らないから」

「ふーん、そっか」


 (あ、そうだ、この前有栖にやられたし......)


 凪沙はこの前のことを思い出したので仕返しをすることにした。


「それに俺には好きな人がいるから、その人以外とは付き合いたくない」

「え!?」

「なんてな、冗談」

「......ばか」


 有栖は頬を膨らませてさらに歩くスピードを速めた。

 

 凪沙は有栖のスピードに着いていっても引き剥がされるだけで、それ以降一言も会話しなかったので、何故不機嫌なのかは分からなかった。





 


 


 




 

 

 

 

 


 

 


 


 


 

楓華さんの出番が最近ないことに気づきました。

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