第30話 後輩の存在
「それじゃあ各々軽く自己紹介をしようか」
放課後。
凪沙は三年A組の教室へ足を運んでいた。
紅組同士でミーティングをするためである。
各クラスの色の代表者が集まって競技の振り分けなどについて話し合うのだが、凪沙はその代表者になってしまった。
理由は簡単。凪沙が一番暇そうだったからだ。
ある人は放課後にピアノのレッスンがあるから、またある人は部活があるから、またある人は単純に行きたくないから。
結果的に一番暇そうな凪沙になったわけだ。凪沙だって行きたくないが頼み込まれてしまってはしょうがない。
「それじゃあまずは私から、私は紅組団長、長谷部 清佳だ、よろしく頼む」
そう名乗る一個上の先輩は凛とした佇まいでかっこいい。
この人にならついていけると話し方でわかる。頼れる先輩なのだろう。
有栖が美少女ならこの人は美女と言った感じだ。クールさがある。
そうして無事ミーティングも終わり、ある程度の振り分けが決まった。
凪沙の団体競技の出場は騎馬戦と綱引きとなった。
そして何故か色別選抜リレーの補欠になった。どうやら紡木の言った通り二年生の中では足の速い部類に入っているらしい。
スタメンで出るとなったら去年短距離で転んでしまった凪沙にとってプレッシャーが凄まじいものになりそうだが、補欠なので早々代わりに出ることはないだろう。
「それでは今日はもう帰ってくれ。遅くまでありがとうな」
凪沙は念の為振り分けをもう一度確認し、プリントを整理して片付けをしていると教室に残っているのは二人となっていた。
(夕焼け綺麗だな~)
そんなことを思いながら凪沙も教室を出ようとすると、もう一人の生徒がファイルの中のプリントを全てばら撒いてしまった。
その生徒はせっせと慌てた様子でプリントを集めようとするのだが、一枚のプリントを踏んで滑ってしまい後ろから盛大に転んだ。
その様子を見て凪沙は心の中で吹き出した。すごくドジである。
流石にプリントの量が多く片付けが大変そうだったので、凪沙はプリントを拾うのを手伝い始めた。
「あ、すいません、ありがとうございます」
「どういたしまして」
プリント自体はすぐに片付けることができた。
しかしその生徒は背中を痛そうにしている。
「背中、大丈夫? 思いっきり転んでたし」
「......お恥ずかしいところをお見せしてしまいすいません。多分大丈夫です。お気遣いありがとうございます......白鳥先輩でしたよね?」
「ああ、うん。宮内くんだっけ」
「はい! 宮内 日向です」
宮内は高校一年生の後輩だ。
部活動もしていないし後輩との交流が皆無だった凪沙にとって先輩と呼ばれたのは高校では初めてだったので不覚にも感動してしまった。
中性的な見た目でセンター分けの生徒である。
どちらか見分けがつきにくいが、どちらかというと男性よりなので男子生徒だろう。
「あの、白鳥先輩に色々お聞きしたいことがあるので一緒に帰っても大丈夫ですか?」
「聞きたいこと? とりあえず一緒に帰るのは親睦も深められるし別にいいけど」
「ありがとうございます」
そういうことで凪沙は宮内と共に帰ることになった。
(やっと俺にも慕ってくれるような後輩ができたのか......感激)
先輩として良いところを見せねばと凪沙は意気込んだ。
そう思うと、代表者としてミーティングに参加して正解だったかもしれない。
「それで聞きたいことって何?」
「あの、実は僕この役目も押し付けられてやったんです......僕、本来人をまとめるのとか苦手でこれから色別で練習が始まると思うんですけど体育の授業も練習に当てるので学年練習ももちろんあるわけで......そうなってくると僕が紅組のリーダーをやらなきゃいけないじゃないですか。だから人をまとめるコツとかを教えてほしくって......」
どうやら宮内は凪沙と同じで押し付けられてやったらしい。
そして人をまとめるのが苦手のようだ。
それを陰属性である凪沙に聞かれてもという部分はあるが先輩として『それっぽい』アドバイスはしておかなければならない。
(......どうしよう)
「えっと、そんなに気負う必要はないんじゃない? そもそも体育祭って生徒全員で作るものだし、全員に役割があるわけでしょ? その役割に沿って人をまとめればいいんだし、ある程度はまとまると思うよ。そりゃあ一人二人はやる気のない人もいるかもしれないけどさ。体育祭を楽しみにしてる人が多いし」
「......たしかに」
「まあそれでも俺には無理だ~って思うんだったら自分が頑張る姿を見せてついてきてもらうっていう手もあり」
「なるほど......そうですね、頑張っている姿を見たら自然とついてきてくれるかも」
「要はそんなに気負う必要はないってこと」
「......ありがとうございます! なんだかちょっと心が軽くなりました!」
少し先ほどまで暗い顔だったのだが一転してパッと明るい顔になった。
「あの、良かったら連絡先交換しませんか? 同じチームですし、色々またお聞きしたいです!」
「全然いいよ」
凪沙はバッグからスマホを取り出して宮内と連絡先を交換した。
「では僕はこっちなので......今日はありがとうございました。さようなら」
「うん、バイバイ」
凪沙が手を振ると、宮内は小さく会釈をした。
「......後輩を持つって結構悪くない、いやむしろ良いな」
そう思った凪沙であった。
え、もう30話!?




