第29話 体育祭準備
「......流石に暑い、ぶっ通しでやってたら倒れる」
「それな、普通に溶ける」
凪沙と紡木は日陰で涼みながらそんな会話をする。
陽炎が立つグラウンドからは励まし合う声など様々な掛け声が聞こえてくる。
(炎天下の中みんな頑張ってるな、ちょっと休憩したらそろそろ再開しないと)
時が経ち、体育祭の練習が本格的に始まった。
紅組、青組、白組、黄組の四チームで分かれるのだが、綺麗に四人とも別のチームに分かれてしまった。
凪沙は紅組、有栖は青組、紡木は白組、楓華は黄組だ。
凪沙としては仲の良い人が一人でもいて欲しかったのだが、叶わぬ願いだったらしい。
今はクラス別練習の最中で組は関係ないのだが、後々分かれて放課後に練習をしたり、休日に集まったりすることになる。
「それにしても残念だよな」
紡木はため息と共にそう言った。
そして腕を前に伸ばした。
「何が?」
「だってお前有栖と同じチームになれなかったじゃん」
「いやまあ運の問題だし......仲良い三人のうち誰か一人でも同じチームだったらよかったなとは思ったけど」
「そうだよな、特に有栖」
「......うるさい」
「かっこいいところ見せたかったもんな~」
凪沙は流石にイラッと来たので紡木の横腹を人差し指で思いっきり突いておいた。
「いてっ......」
「足引っ張らないようにしないと、お前みたいに特別足が速いわけでもないし運動神経良くない部類に入ると思うし......練習するか」
体育祭の色別で競う競技は色別選抜リレー、短距離走(100m)、台風の目、棒引き(女子)、騎馬戦(男子)、綱引きである。
もちろん色別で競わない競技もある。部活動別リレーや、去年は部活動リレーの代わりに仮装リレーというものをした。
仮装リレーとは先生たちが本気でコスプレをして走るというものだ。
去年は人気が高かったので今年ももしかしたらやるかもしれない。
当たり前なのだが全てが体を使う競技。
凪沙が活躍できる競技はないのである。
「そんなこと言うな、凪沙も足速い部類だとは思うぜ?」
「どうだか......去年は短距離で始まった途端転んだし」
「ま、リレーでお前と対決するのを楽しみにしてる」
「大丈夫、多分選抜には選ばれない」
そう言うと紡木は笑った。皮肉だろうか。
イラついたのでもう一回横腹を人差し指で突いておいた。
去年の体育祭はあまり面白くなかった。
凪沙一人だけ浮いていて、一体感が感じられなかったから。
しかし今の凪沙は体育祭を楽しみにしていた。
「夏休み中にも練習があるのがこの学校の嫌なところなんだよなあ」
紡木は横腹を抑えながらそう呟いた。
「と言っても、お前家で籠ってゲームしてるだけな気がするんだけど?」
「......それを言われたら反論できない」
「あ、そうだ、紡木は夏休み予定は何かある? ないならまたあの四人で遊びたい」
遊ぶ機会はほぼなかったものの、四人の仲はだいぶ深まっていて、四人で一緒に行動を共にすることは多くなった。
「じゃあ夏祭り一緒に行こうぜ」
「あ、たしかに、それあり」
「じゃあ二人にも伝えておくか」
(そういや、俺夏休みに実家帰るんだった......日程被ってないよな)
夏祭りの日にちが被れば行けない可能性がある。
「夏祭りいつだっけ」
「八月の初旬だったっけな」
(じゃあ大丈夫か。俺だけいけないとか洒落にならん)
去年の夏祭りは紡木は他の人と約束をしていて行く友達がいなかったので凪沙は夏目と行っていた。
夏目は女友達と行く予定だったらしいのだが、その女友達が好きな男子に誘われたので凪沙と行くことになったのだ。
夏目はまあまあの数、男子から一緒に行かないかと誘われたらしいが夏目の基準では、兄>>>>>>>>他の男子、らしくキッパリ断ったらしい。
「じゃあ、雑談も終わりにしてそろそろ練習戻ろうかな」
凪沙は立ち上がり、グッと背伸びをした。
「だな」
***
「なーくん、お疲れ様」
練習終わり、凪沙が顔を洗ってタオルで拭いていると、首に冷たいものが当たり少し飛び跳ねた。
声のした方を向いてみれば有栖がスポドリを持って立っていた。
有栖はいつもサラサラロングヘアーなのだが髪を結んでおりポニーテール姿になっていた。
「はいこれ、気分が良いから私の奢り」
「ありがとう」
凪沙はすっかり熱くなった体を冷ますべく、冷たいスポドリを喉に流し込んだ。
すると、疲れがみるみるうちに取れていく。
いつもの何倍にも美味く感じられるのだから不思議だ。
「あー、生き返る〜。こんなに動いたの久しぶりだし全身が痛い......」
「あはは、なーくんどっちかって言うとインドアだもんね」
「向こうの学校って体育祭あったの?」
「うーん、ここまで本格的なのはなかったかな。順位付けとかもなかったし、お遊びの体育の授業が六限あるみたいな緩い感じだった」
体育祭というより運動会に近い形のようだ。
凪沙は置いたバッグを手に持ち、そんな会話をしながら流れるように有栖と共に帰路についた。




