第27話 友達の家
「暑い......何がって色々とあつい」
凪沙は陽炎が立つ猛暑の中、ハンカチで汗を拭き冷たい水を喉に流し込んだ。
(いや......気温も暑いんだけどそれがどうでもいいくらい胸が今緊張しまくってて荒ぶってるんだよな)
土曜日。凪沙は有栖の家へと向かっていた。
理由は至ってシンプル。遊ぶためだ。
有栖と二人で遊ぶと約束したのは良いのだがどこで遊ぶかとなった時に暑いし無難に家で遊ぶことになったのだ。
そこで「私の家来ない?」と凪沙は有栖に言われて特に深く考えもせず了承したわけである。
しかしよくよく考えてみれば「女子の家行くの実は初めてじゃね?」と思い、なぜか緊張し始めた。
特に意識しなくても良いのだが、夏目に影響されてしまった凪沙の脳は悪い妄想へと行ってしまう。
凪沙は己の頬をバシッと叩き『友達の家へ遊びに行くだけ』そう言い聞かせて足を早めた。
数分もすれば凪沙は有栖から送られた住所の家の前にたどり着いた。
二階建ての一軒家でいざ目の前にしてみると緊張が加速してしまう。
「ここか......うん、まあ友達と遊ぶだけだもんな」
凪沙は大きく息を吸い、吐いた。
そしてインターホンを押した。
すると、すぐに中から有栖が出てきた。
凪沙の顔をみるとすぐに有栖は笑顔になった。
「来てくれてありがと~。さ、上がって上がって」
「お邪魔します」
中に入ると、日が差し込んでいて明るいが人の気配はなく静かだった。
両親はどこかに出かけているのだろうか。
「うち親今いないからね。男友達と遊ぶって言ったら変な勘違いしたのか知らないけど買い物に出かけちゃった」
「な、なるほど......?」
有栖の部屋は二階にあるらしく、有栖について行き階段を登って有栖の部屋に来た。
(わ、わ~、女子の部屋だ~)
部屋に入ると特有の甘い香りが鼻腔を掠め、変な気分になってしまった。
ベッドにはぬいぐるみが置いてあり、机には有栖の好きそうな可愛らしい小物が置いてあったりと凪沙が想像していたような女子の部屋だった。
「部屋が結構整頓されててびっくり」
「午前中に片付けたって言うのはあるんだけどね。普段から整頓はしてるかな~」
すべてのものが輝いて見えてしまうのは気のせいなのだろうか。
凪沙は床に座り、少し部屋を見渡した。
緊張はおさまっていたが、何故かドキドキは収まってはいなかった。
「それで何する? うち色々ゲームあるよ?」
「ん~、格闘ゲームとかあるならやりたいかな」
「あるよ。じゃあそれやろっか。なーくんには負け越しだし前回のリベンジといこうかな」
「望むところだ」
有栖はゲームのカセットが並べられている下の棚に手を伸ばして、四つん這いの体勢になって探し始めた。
「うーん、何か良いのないかな」
少し大きめの服を有栖は着ていたようで、有栖は気づいていない様子で、凪沙にとっては色々と刺激が強いものとなってしまった。
いけないものが見えてしまいそうなのである。
(ぐふっ......ちょっと俺が体勢変えたら絶対見えてしまう.......見えてしまう。だ、ダメだ。抑えるんだ、理性よ)
凪沙は視線を有栖から逸らした訳なのだが、それでも意識してしまい、凪沙の脳内では夏目が悪魔の囁きをしていた。
『おにいよ、美少女のブラを見れてしまう絶好のチャンスだよ。興味はないのかい?』
『うるせえ!』
凪沙は脳内にいる空想の夏目を追い払ったが、それでも囁きは消えなかった。
(うぐ......ちょっとでも気を抜いたら危ない......)
そうして色々と精神を落ち着かせ、平静を保てるようになった時だった。
(うん、大丈夫、大丈夫......このままこっちを向いていれば良いだけの話)
平静を保てるようになったということはある意味気を緩めてしまったと同意義。
「色々あるけど何が良い?」
凪沙はそう聞かれて反射的に有栖の方を向いてしまった。
(ぶふぉっ......あかん、うぐっ、ごめんなさい! 有栖さん、悪意はないんです)
普通に見えてしまった。ピンク色のブラが。
「これとか、どうかな? 新作ゲームだけど」
「あ、ああ......うん」
「なーくん?」
凪沙が顔を赤くして視線を逸らしていると、有栖もようやく自分の体勢に気づいたようで顔を紅潮させた。
「......なーくんのえっち」
「いてっ!」
凪沙は有栖に思いっきりカセットを投げられ、それが顔にクリーンヒットした。
***
格闘ゲームはやめ、二人でレーシングゲームをしている時だ。
ふと、凪沙は思ったことがあったので有栖に聞いてみることにした。
「有栖って彼氏いないんだよね?」
「うん、じゃなきゃなーくん家に呼んでないかな」
「けど有栖って結構モテるし、男子人気高いし、割とイケメンからも告白されると思うんだけど」
「まあ、そうだね。自分で言うのもアレだけどよく昼食とか誘われるし告白される。けど告白は全部断ってるからね。まあ昼食だったら友達が良いって言ったら一緒に食べてるけど......それがどうしたの?」
「いや、彼氏の一人いてもおかしくないよなって思って」
「私が容姿で判断する人間だと思う?」
「......たしかに」
(それもそうか......性格も大事だし)
容姿が良いから付き合うというよりは好きだから付き合いたいのかもしれない。
凪沙もそういう考えを持っているので有栖の気持ちはよくわかった。
「あと......わ、私好きな人いるからその人以外とは付き合いたくないかな」




