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第21話 再会

「有栖、今日一緒に帰らない?」


 七月七日。今日は有栖の誕生日である。

 特別なお祝いはできないものの、友人として多少のプレゼントはあげるべきだ。

 そう考えた凪沙は、プレゼントをバッグの中へと入れておいたのである。

 

 本当は学校でサッと渡す予定だったのだが、相変わらずの人気ぶりで渡す機会がほぼなかった。

 だから凪沙は一緒に帰ってその帰り道で渡そうと考えたのだ。

 

 帰り道が途中まで同じこともあり、何度か有栖と凪沙は一緒に帰っているので、誘うのは何も不自然なことではない。

 多少の男子からの妬みはもちろんあるのだが、慣れたせいか凪沙にダメージはない。


「うん、いいよ」


 有栖は笑顔で承諾した。作戦決行である。

 

 そうして凪沙と有栖は足並みを揃えて学校を出た。

 ひとまずは他愛もない会話をしながら歩いていく。


「またどこかの休みで四人で遊びに行きたいね。長期休暇とか使ったり」

「そうだな、暑いし......プールとか?」

「プールか~。水着ないから行くんだったら買わないといけないなー」


 凪沙は特に何も意識せず、暑いからという理由でそう提案した。

 この発言に意味はない。

 しかしよくよく考えてみればプールということは水着になるということである。

 有栖の水着姿が凪沙の脳裏をよぎった。

 凪沙はその妄想をすぐにかき消した。


 (......最近の俺、本当にどうした)


 妄想癖の夏目に影響されたとは考えたくない凪沙であった。


『本当は女子の水着姿見たいんでしょ~?』


 と、夏目がニヤニヤとしながら凪沙に問いかけていたが、そんな妄想も消しておいた。


「また四人で決めればいいんじゃない?」

「それもそうだね。夏休みが楽しみだな~」


 中間テストでは凪沙は上位五名にはどれも載っていなかったものの、どの教科も赤点ではないので補習はない。

 有栖も楓華も紡木も同様である。


 凪沙の少々苦手としていた英語の単元も一位の有栖が凪沙に教えたので、問題はなかった。

 

 故に遊び放題という訳だ。


「あ、そういえば関係ないけど、凪沙くんのあれ面白かったね」

「あれって?」

「猫耳カチューシャのやつ」


 (あれ有栖に送ったのかよ! ......後で楓華にはあの写真は消してもらわないと)


 あれは凪沙的に恥ずかしい写真ランキングトップ五には入るものである。

 どんどん拡散されていけば黒歴史にもなりかねない。


「......あれは忘れてほしい」

「恥ずかしがらなくても普通に可愛かったよ~」


 有栖は揶揄うように笑った。


 (......どこをどう見ても可愛いとは思えないんだよな)


 どうやらあの写真は紡木にも送られていたようで『可愛い』といじられたのだ。

 凪沙は自分の猫耳姿をあまり可愛くはないと思っているものの、他三人は可愛いと言っている。

 しかしお世辞のようにも思えない。


 (......変な写真でもない訳だし、まあいいか)



 そんな日常のような会話をしながら自分の家へと向かっていく。

 段々と同じように帰っている学生の数も減っていき、静かな道へと入った。


 (ここら辺かな......)


 凪沙はそう思って足を止めた。


「有栖、ちょっといい?」

「ん? どうしたの?」


 俺はバッグを開けて赤い包装で包まれたプレゼントを有栖に渡した。


「これって......」

「有栖、今日誕生日でしょ? 誕生日おめでとう」

「知ってたの!? 私凪沙に言ったっけ?」

「言って......ないけど、楓華から聞いたっていうか......ちなみになんで誕生日教えてくれなかったのか聞きたいんだけど」

「言う必要もないかなって。プレゼントとか別に貰わなくてもいいし。自分から言っても変な感じするからさ」


 そう言いつつも有栖は満面の笑みを浮かべた。


「でも......凪沙くんからのプレゼント、すごい嬉しい。......ありがと」


 その姿に凪沙は少しドキッとしてしまった。

 

 そしてその笑顔に昔のあの子の面影がやはりあった。


 芋づる式に過去の記憶が掘り起こされていく。


『やるよ、これ』

『なーくん、いいの!? 嬉しい! ありがと!』


 (あの時は何あげたっけ......)


 凪沙は何をあげたのか、あまり覚えていない。

 

 しかしその笑顔だけは鮮明に凪沙の記憶に刻まれていた。

 その笑顔が凪沙が有栖に恋をするきっかけだったから。


 (......俺は有栖のこの笑顔が好きだったんだ)


 無邪気で純粋な笑み。


 いつのまにか凪沙の胸はドキドキとしていた。

 

 終わったはずの初恋がこんなところでまた出てくるとは凪沙は思いもしなかった。

 有栖に対して恋愛感情を抱いているというわけではない。ただ、凪沙は終わった初恋を思い出したのだ。



「中は何が入ってるの?」

「帰って開けたら分かるよ」

「そう来たか~。家で開けるのが楽しみだな~」


 自然と凪沙の口元も緩んでいた。


 ただ、無邪気で純粋な有栖を見ていると、隠し事をしているという罪悪感が生まれてしまうというもの。

 

 有栖は足を進めて歩き出した。しかし、凪沙はついていかずに立ち止まったまま。

 それに気づいた有栖は進めていた足を再び止めて、凪沙に声をかけた。


「凪沙くん、どうしたの?」

「ねえ、有栖......あれ、覚えてる?」

「覚えてるって何を......」


 凪沙は一息ついて言った。


『Myosotis scorpiodes』



 


 

 




 


 

最後の言葉には「私を忘れないで」とか「真の友情」などなどの意味が込められており、直訳で勿忘草ですね。

関係ないですが紫苑の花言葉もいいですよ〜。

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