第20話 誕生日プレゼント
「色々あって迷うね~、変なやつじゃない限り有栖は喜んでくれそうなもんだけど~」
「だね、どうしよう」
凪沙たちは、近くの商店街へと足を運んでいた。
そんなに大きいものではないのだが、雑貨の店が多く置いてあるので友達へのプレゼント選びにはピッタリの場所だ。
高いものはそもそも買えない。しかしクオリティが低いものも買うぐらいだったらあげない方が良いだろう。
学生のお財布に優しい値段で良いものを買うのにちょうど良い場所なのだ。
しかし一方で多くありすぎて色々と困ることもあるのだ。
マグカップ、キーホルダー、お菓子などなど。どれも可愛らしいし、どれを買っても申し分ない。
だから買うのに迷ってしまう。
(有栖結構動物好きだし、動物の柄が入っていた方がいいのかな)
楓華もそう思ったようで、動物系の小物が置いてある店を指差した。
「ねえ~、あそこ入らない~?」
「うん、そうしようか」
中に入ると、一瞬で穢れた心が浄化され、純粋になってしまうような、まるで子供心を思い出してしまうような、そんな輝きを持った物がたくさん置かれていた。
(今度有栖にも教えてあげよう......)
言い換えるならば聖地。ここに踏み入ってよかったのだろうかという戸惑いがある。
とりあえずここなら有栖が喜んでくれそうな物がありそうだ。
「凪沙~、これ可愛くない?」
「......お......おう」
凪沙とは別で店内を歩き回っていた楓華が凪沙の元へ来た。
しかしいつもの姿とは全く別だった。
楓華は猫耳のカチューシャをつけて猫のポーズを取っていたのだ。
(に、二次元でしか見たことないやつ......け、ケモ耳......うっ)
有栖が異次元すぎるだけで楓華も可愛い部類に入る。
それに加えて、凪沙の最近好きになったケモ耳......。
結果、凪沙の目が焼けるくらいに眩しいものへと昇華した。
(一瞬でも、有栖につけてみたらどうなるのだろうかと思った自分を殴りたい)
『猫耳を誕生日プレゼントとして有栖に渡してつけさせてみようよ~』
『そんなことダメっ、色々な問題でアウト!』
と、凪沙の中で思惑がぶつかり合っている。
「あ、そうだ。凪沙がかぶってみてよ~、似合うと思うんだよね~」
「え!? あっ、ちょっ......」
そんなことを考えていると、凪沙は楓華に猫耳カチューシャをつけさせられてしまった。
「おお、よく似合ってるじゃん。鏡で見ておいでよ」
(嘘だろ~、普通に恥ずかしいんですけど~?)
なんだかんだ言いながらも凪沙も少し気になったので鏡を見てみれば......。
なんとびっくり。普通だった。
(似合っている訳でもなく、似合っていない訳でもなく......普通......めっちゃ普通)
楓華は似合っていると言っているがきっとお世辞なのだろうと凪沙は思った。
「凪沙、こっち向いて~」
楓華に言われたままに鏡から楓華の方を見ると、眩しい光が凪沙の目を覆った。
凪沙は楓華に猫耳姿の写真を撮られたのである。
「よし、完了完了、有栖に送っとこ~」
「あ!? 拡散しないでくれ!」
「やだもん~」
***
「お買い上げありがとうございました~」
凪沙と楓華は足並みを揃えて店を出た。
外はもうすでに夕日が沈みかけていた。
「結局そのカチューシャ買うんだ~」
「まあ、うん」
(......夏目につけさせたいからな)
途端に猫耳姿で少し怒っている夏目の姿が目に浮かぶ。
たまには兄も妹へ仕返しをしたいのだ。
「楓華は最後まで悩んでたけど結局何にしたの?」
「私はシロクマのマグカップ~。可愛いし、これで良いかな~、凪沙はハンドクリームだったよね~?」
「うん、これなら有栖も喜んでくれそう。やっぱり楓華に頼んでよかった」
「そう~? ありがとう~。私も乙女だから女性心っていうものは持ってるからね~」
ハンドクリームは楓華のチョイスである。
『女性ってどんな季節でも手肌のケアってすごい大切だからハンドクリームとかだったら間違い無いとは思うよ~』
ということで凪沙は楓華のアドバイス通りにハンドクリームを買ったのだ。
他の候補にキーホルダーなどがあったが、迷った結果ハンドクリームにした。
ハンドクリームはプレゼント用の包装に包まれている。
楓華の買ったマグカップも同じだ。
そうして凪沙と楓華は途中まで一緒に歩いて帰っていく。
「そういえば凪沙~、率直だけど言いたいことあるから言ってもいい?」
「ん、どうぞ」
「あんたぶっちゃけ第一印象陰キャラだったけど、そうでもないんだね~。最近ちょっと見直したかも~」
「え? そう? 俺結構な陰キャだと思うんだけど......」
「自分でそう思ってるだけでしょ。じゃなきゃ私と話せない」
凪沙は今まで自分を根っからの陰系だと信じて疑わなかった。
凪沙のネガティブがそれを加速させていた。
しかし、本物の陰だったらそもそも楓華や有栖、紡木と話せていない、と楓華は言う。
「陰っていうより物静かっていうか~、消極的な性格なだけなんじゃない~?」
「そう、なのかな」
「うん~、私が言うんだから間違いないよ~。ヘタレでネガティブな部分があるのは変わりないけど、それでも最近のあんた結構明るいし」
楓華はニコッと笑って凪沙を自信付ける言葉をかけた。
「あ、ほんじゃあね~、私こっちだから~」
「今日はありがとう、楓華」
「いいっていいって~、また困ったら私に頼ってよ~。逆に困ったことがあったら聞いて欲しいかも~」
「うん、もちろん。......ばいばい」
凪沙は軽い足取りで帰路についた。




