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第12話 進歩

 夕日が照らし、赤くなった空の下、凪沙たちは一緒に歩いていた。


「凪沙くん、今日はありがとうね」

「別に全然いいよ。あれは流石に見過ごせなかっただけだし」

「あ、ちょっと待ってて」


 そう言い、有栖は自販機でコーラを一本買って凪沙にそれを渡した。


「はい、お礼......といってもコーラだけど」

「え、ありがとう。有栖はいいの?」

「私、炭酸苦手なんだよね~」


 (炭酸が苦手だったのか。可愛らしい一面もあるんだな)


 

 有栖は先ほどのことを気にも留めていない様子で笑顔で凪沙に振る舞っている。

 しかしどことなくまだ恐怖心が残っているように感じた。


「......有栖、大丈夫か?」

「やっぱり凪沙くんはすごいね。お見通しじゃん。ううん、実を言うとまだちょっと怖い」


 見知らぬ男子生徒にあんな風に詰め寄られて。凪沙がいなかったらどうなっていたかと思うと末恐ろしい。

 恐怖心が残っているのは当然だ。恋は人を盲目にさせると言うが、ラインがある。


「ま、俺で良かったらだけど困った時はいつでも頼ってくれると嬉しい」


 凪沙で良いかどうかは有栖に任せるとして信頼できる友達がいるのは安心する。


「なら、そうしようかな......なんか、今日の凪沙くん頼もしいね」


『頼もしいね』

 今まで言われてこなかった言葉。自分でもヘタレだと思い込んで自分のことを頼もしいなどと思わなかった。


 (......ちょっとは成長できてるのかな)



 そんな会話をしながらしばらく歩いていると、公園で二人のまだ幼い男女がボール遊びをしていた。


「なんか微笑ましいね~」

「そうだね」


 すると、そのボールが凪沙に向かって飛んできた。

 様子を見ていたので難なくキャッチすることができた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、ご、ございましゅ」


 凪沙は近づいてきた男子にボールを返した。

 そしてまた、その男女はボール遊びをし始めた。


 凪沙は自然とその情景に過去の有栖と凪沙を重ねてしまう。


「昔も私はよくあんな風に遊んだな~......あの子今何してるんだろ、久々に会いたいな」


 有栖は懐かしむような目で二人を見ていた。


 そしてしばらくして、また歩き始める。


「......有栖にもあんな友達がいたの?」


 凪沙は意地悪っぽくそんな質問をしてみた。

 すると、有栖はこくりと頷いた。


 (本当は知ってるんだけどね。やっぱり......)


「うん、異性の幼馴染。結構心残りがあったままフィンランド行っちゃったからさ。いつまでも過去の思い出を引き摺るのは良くないんだけどね~」

「会いたい?」

「もちろん会いたいよ。けど無理なのは分かってる」

「......っ」


 有栖は脆い笑みを浮かべた。

 それを見て凪沙の胸は締め付けられた。


「あのさ、有栖、実は......」

「じゃあ私帰り道こっちだから......ってごめん、話遮っちゃった。どうしたの?」


 凪沙と有栖が言葉を発するタイミングがたまたま被ってしまった。


「ん、いや、何でもない。それじゃあね、ばいばい」

「うん、ばいばい~。また明日ね~」


 有栖は手を振ってから、背を向けて帰路についた。

 凪沙は大きくなったけれども変わらないその背中を見て、少し虚しさを覚えた。


「......俺も会いたいよ、会いにいきたいよ。......あの子に」


 そう独り言を呟いて凪沙も帰路についた。


 ***


「ただいま」


 凪沙が家に帰ると、台所で母は料理をし、父は新聞を読んでいた。


「おかえり、凪沙」

「ただいま、父さん、今日は帰ってくるの早いんだね」

「まあな」


 そして階段からものすごい勢いでドタドタと駆け降りてくる人が一人。


「おにい、お帰りー!」


 こちらに飛び込んで抱きつかれそうになったので、ひょいと凪沙は横によけた。


「......いってて、何で避けるのさ、おにい」


 凪沙の妹、白鳥 夏目(しらとり なつめ)である。


「いや、何となく」

「ひどっ!?」

「とりあえず風呂入ってくる」

「私も......」

「お前はもう入っただろ。ていうかもうお互いそんな年じゃない」


 凪沙にとってこんなやり取りも日常会話。

 しかし少し広がった穴を修復するのには十分だった。


 ***


 お風呂上がり、夏目が凪沙の部屋をノックした。


「おにい、入るよ~」


 そう言って夏目が部屋のドアを開けた。

 そして部屋に入ると、ドアを閉めて凪沙のベッドに座った。


「ん、どうした?」

「おにいさ、最近ずっと元気なくない? 疲れてるだけなのかなと思ってたけど今日は特に元気ない。なんかあった?」

「う......いや、別に何も。いつも通り平常運転」

「おにい、前々から思ってたけど嘘下手すぎ」

「......バレバレか。まあ夏目は気にしなくていい。色々あるんだ」


 凪沙は夏目の頭を撫でた。

 (妹に話すほどのことでもないしな)


「......そっか。ならいいや。あ、母さんからの伝言で夏休みにばあちゃんの実家帰るから、だって」

「ん、父さんの方?」

「いや、お母さんの方」

「......まじか」


 母方の祖母の実家。それは凪沙のホームタウンでもある。

 かつて、あの子とも遊んだ場所。


 ここから三、四時間と遠いので数年帰っていなかったが、父の休暇に合わせて帰るらしい。


 (あの公園、久々に行ってみようかな......夏休みがちょっと楽しみだな)


「じゃあ、それだけ伝えにきただけだから」

「ん、わざわざありがとうな」


 夏目はドアノブに手をかけた。

 しかし少し止まった。


「......何があったのかは知らないけど、私はおにいのこと尊敬してるし、奥手だけどやる時はやるし、かっこいいと思ってる。家族として大好き。おにいはおにい。自信持って」


 そう言って夏目は部屋を出て行った。


 (......妹に慰められたか。はは、情けない兄だな。有栖は......俺が幼馴染だと言ったらどういう反応をするんだろうな)


 











 

 


 

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