第1話 ハーフの超絶美少女転校生
学校生活の中で一番疲れる日というのがある。
それは長期休暇後の始業式の日である。
この日の朝の憂鬱感と言ったら半端なものではない。
白鳥 凪沙もそう感じる一人の人間だった。
高校1年生もぼんやりと過ぎていき、気づけば高校2年生。進級したからと言って特に何も変わることはない。
クラス替えはあったが、唯一の友人とは同じクラスだったのでぼっちは回避である。
とりあえず新学期といえど変わらずにいつも通りに過ごしていくだけ。
凪沙は朝から重いため息を吐いてしまっていた。
しかし、そんな暗い憂鬱も一人の少女の参入によって一気に吹き飛ばされることになった。
「今日からこのクラスに新しい仲間が加わる。入っていいぞ」
先生の合図と共に教室のドアから現れたのは男女関係なくその美に目を奪われてしまうような少女だった。
無論、凪沙も憂鬱など一瞬にして消し去られて見惚れてしまう。
「初めまして。この学校に転校してきました。鳳条 有栖と申します。趣味は強いていうなら人と話すことでしょうか?」
上品な佇まい。
まるで2次元のようなサラサラとした金色の髪。
引き込まれるほど魅力的な澄み切った青い瞳。
男子の心を容易に破壊できるような美しい笑顔。
凪沙だけならず、ほぼ全ての人が有紗に目が釘付けになっていただろう。
「私はフィンランドと日本のハーフです。生まれは日本ですが、小学校の途中からフィンランドにいたので日本慣れしていないです。良かったら仲良くしてください。これからよろしくお願いします」
その時、凪沙の脳裏にいきなり小さい頃の記憶がよぎった。
(そういえば『あの子』も金髪で青い瞳だったっけ。元気にやってるかな)
「それじゃあ有栖は、凪沙の隣の席に座ってくれ」
(あの子の隣の席になった人ラッキーだろうな......え? 今、凪沙って言った!?)
横をみれば確かに誰も座っていない机と席が置かれている。
そしてそこに座る有栖。
(あーこれは新学期早々男子達に恨まれそうだな)
横をバレない程度に見てみればやはりかなりの美少女。
まあしかし、そんな美少女と隣になったからと言って特に何かが起こるわけでもないだろう。
話すのが好きと言っていたが、凪沙のような友達が一人しかおらずパッとしない生徒に話しかける訳がない。
そんなことを考えていると、凪沙のスマホの画面が明るく光った。
唯一の友人である井ノ原 紡木の席を見てみればニヤッと笑ってこちらを見ていた。
バレないようにスマホを開いてみれば、紡木からメッセージが送られてきていた。
『美少女の隣とかずるっ、俺あの子狙ってみるわ』
紡木は相変わらずのテンションである。
『いや無理、諦めることが賢明な判断』
この容姿であれば普通にイケメン彼氏くらいいるだろう。
それでもその彼氏が羨ましいと思ってしまうのは男の性なのでしょうがない。
***
休み時間。
案の定有栖の周りに人が集まっていた。
男子も話しかけようとしたようだが女子の圧力に負けて渋々遠くから有栖を眺めている人が多い。
第一印象というものは大切だということを凪沙は改めて思い知らされた。
というのも凪沙に友達がいない原因が入学当初の自己紹介にあった。
凪沙にとって思い返したくもない苦い記憶である。それでも紡木だけは話しかけてくれた訳だ。
「有栖ちゃんって可愛いね! スタイル良いし、いいなぁー」
「そう? ありがとう。美容には結構気をつけているからかも?」
「ハーフってすごい! お父さんがフィンランド人でお母さんが日本人なの?」
「うん、それでお父さんが偶然日本に転勤することになったからこっちに来たって感じかな」
有栖は陽系女子(凪沙から見た)の猛攻を難なく対処している。
もう打ち解けている感じがする。コミュ力お化けだ。
そしてタイミングを見計らって勇気ある男子も彼女に話しかけていた。
女子達は怪訝そうな顔をしていたがお構いなしである。
「くっ......ライバルは多いぜ」
「お前じゃ勝負にすらならないからライバル以前だな」
「え!? ひどくない!?」
席にいるのが居づらくなったので窓側に移動してその様子を眺めていると紡木が話しかけてきた。
「まあ頑張れよー」
そんな気の抜けたことを言っておく。
「それ以前にあの子彼氏いるんじゃないか?」
「彼氏? あー、遠距離の? ......ありえるな」
そもそもあれだけ美少女なら他の人に取られてないのがおかしいくらいである。
彼氏がいなかったらそれはそれで防御が硬いということだ。
そんな会話をしているとピンポイントに質問した女子がいた。
「有栖ちゃんって彼氏いるの?」
「彼氏? いないよー」
それを聞いて紡木は一人盛り上がった。
「ほらな! ワンチャンある!」
「う、うん。そうだねー」
美少女がこの学校に来たからと言って凪沙の学校生活が変わる訳ではない。
強いていうならこのクラスの活気が上がると言ったところだろうか。
それと、一応応援はしておくけども、紡木がアタックして玉砕する様は少し見てみたかった。