理想に恋をするとは限らない
読んで戴けたら倖せです。゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
屋上で上がっていた息を整えると顔を見合せて声を上げて笑った。
適当な処に腰を下ろして、ボクらはもう一度顔を見合せた。
遥緋が前髪を気にしながら言う。
これは遥緋の癖。
「本当に現実じゃ無いのが解ったよ
こんなこと、現実じゃあり得ない」
「ボクの存在が?
それとも周囲の反応? 」
「両方」
遥緋はそう言うと見慣れた屋上からの街の風景に目をやる。
ボクは限界だった。
遥緋に触れたくて抱き締めたくて口付けたくて、手を地面について遥緋の顔に顔を寄せた。
「キミにキスする事を許してくれる?
たまらなく遥緋が愛おしくて限界なんだ」
ボクが目を閉じかけて顔を近付けると遥緋の手がボクの口元を覆った。
「いいよって言いたい処だけど、それはダメかな」
「え? 」
ボクは許されると信じ切っていたから、あまりにも以外な答えに目が点になる。
「オレにはまだ解らないよ、お前が好きなのかどうなのか」
弱々しくボクは言った。
「今更? 」
「さっき恋人繋ぎをしていてときめかなかったんだ
理想が恋に直結しているとは限らないんだな」
「え? 」
ボクの内側で何かがガラガラと音を立てて崩れて行く感じがした。
ボクにはまさかの展開。
頭が混乱して来る。
待て待て待て!
何がどうなっている?
理想のボクに遥緋自身が恋をしてないだって?
そんな事があり得るのか?
遥緋はボクに恋をする為にボクを描いたんじゃないのか?
当然のように両想いだと信じて疑わなかったボクにとってそれは青天の霹靂だった。
今遥緋はベッドで眠っている。
遥緋の生命エネルギーを使ってボクは遥緋の意識をこちら側に繋いでいる。
だからあまり長時間繋いだままでいると遥緋が疲れるし睡眠不足にもなる。
ボクの記憶は遥緋と共有しているから遥緋のクラスメイトの名前とか知識とか、遥緋の知っている事は総てボクも知っている事になる。
それにしても恋人繋ぎをしてときめかないってどうゆう事なんだろう。
ボクはこうして眠る遥緋の顔を一日中だって見ていたいくらい遥緋に夢中で、胸が苦しいくらい遥緋を愛おしいと思っている。
ボクは遥緋の理想そのものの筈、遥緋が生み出したんだから。
何故ときめかせる事ができないんだろう?
解らない。
もしかしたら遥緋自身にもわかっていない事なのかもしれない。
朝、遥緋は目を覚ますと絵であるボクの前に立って、ボクの頬に指先で触れた。
まだ夕べの事が信じられないのだろう。
暫くボクを見詰めると、振り切るように視線を逸らして学校に出掛けてしまった。
アイツは今日もあのねっとりとした視線を遥緋に向けるんだろうか。
成橋は明らかに遥緋に恋をしている。
非常に不愉快だ、ボクの知らない処で遥緋が別の興味に晒されているのは。
あんなにも熱烈な視線。
遥緋の気持ちが動いたりはしないだろうか。
ときめいたりは、しないだろうか。
恋は方程式のように決められた順序で始まる訳じゃ無い。
気付かない内に侵食されていたりする。
一日千秋の想いで遥緋の帰りを待つのは言い難い苦痛だった。
ただの絵でしかない己の存在が呪わしい。
ボクは初めて肉体が欲しいと思った。
そう、ボクは人間じゃない。
ただの意思でしかない。
誰よりも遥緋の事を愛しているのに、学校で不躾な視線にさらされていても守る事ができない。
やっと学校から帰って来ると遥緋は疲れていたのかベッドに倒れ込み眠ってしまった。
ボクは飽きる事もなく眠る遥緋を見詰めていたけど、どうしても気になる事があった。
読んで戴き有り難うございます❗(人´▽`*)♪
フランスのシャンソン歌手、エディット・ピアフは朝起きると声が出なくなっていて立て続けにコーヒーを6杯飲んで声を出し続け、夜またステージに立ったそうです。
歌う事に対する執念のようなものを感じるエピソードだなあ、と思いました。
そんなエディット・ピアフ、なんだか憧れてしまうんです。