恋の誕生
読んで戴けたら嬉しいです。
何も見えない。
気配だけを感じている。
ボクは誰?
ボクは何者?
ひとつだけ解っている事はボクが恋をしていると云う事だけ。
誰に?
それさえ解らないのに、恋しいと感じている。
もう少しなんだ。
もう少しでボクはきっと色んな事を理解する。
そう、ボクは無から生まれて恋をした。
いや、生まれる前から恋をしていたと言っていい。
だってボクは理想だから。
ああやっと、彼はボクの目を完成させた。
初めてその目で見たものは、とても真剣な眼差し。
額にうっすらと汗を滲ませる彼。
綺麗な二重にとても澄んだ大きな瞳。
意思の強さを主張したような濃い眉に長い前髪が掛かる。
きゅっと引き締まった口角が少し上がっている。
彼の名前は遥緋。
ボクの創造主。
そして恋人。
彼はとても悩んでいた。
彼はある事実を自覚してから、深い悩みに食事さえ喉を通らないほど苦しんでいた。
それは自分が同性愛者であると云う事。
彼は誰もその悩みに対して確実な答えを提示してくれる者は居ないだろうと絶望していた。
その悩みを打ち明けた途端、軽蔑の目を向けられ敬遠されると信じて疑わなかった。
どれほど多くの人々に囲まれていようと彼は孤独だった。
彼には友人が必要だった。
総てを打ち明けたとしても、そんな自分を蔑まずに話を聞いて理解してくれる存在が。
彼の年齢は十七歳。
思春期と云う不安定で孤独感に陥りやすい年齢。
だから彼はボクを描いた。
自分の理想を詰め込んだボクを。
ボクは遥緋に依って描かれた絵画の人物像。
ボクの目には遥緋しか見えない。
遥緋はそのひと筆を描き終えると疲れたのかベッドに座り込んで項垂れた。
ボクは彼の悩みの象徴でもある。
一つ間違えたらボクは忌むべき絵画になるだろう。
そんな事にはさせない。
遥緋のあまりにも強い思念に依って描かれたボクには意思が宿っていた。
ボクの意思は遥緋の生命エネルギーに依って彼の意識に繋がる事ができる。
それは遥緋が眠っている間だけ、彼の望む風景の中でボクと彼は対等に会話できると云うもの。
つまりボクの世界に遥緋の意識を引き込む事ができた。
それにしても、遥緋の髪の隙間から覗く背骨の突起は、なんて美しいんだろう!!
少し筋肉質な白い腕!
俯いても尚端整な顔を覆うトップの長いサラサラな髪。
顔を上げて少し辛そうにボクを見詰める遥緋が悩ましいくらいボクの目を惹き付ける!
長い前髪から覗く額に一つだけできたニキビまで愛しい!
遥緋は立ち上がると部屋を出て行こうと戸口に向かう。
少し丸めた背中のラインが美しくて、そしてセクシーで抱き付きたくなる!
均整のとれた両肩、しなやかに伸びた腕!
ドアを開けて出て行く仕草、身体を軽く捩った時にできた服の皺まで完璧!
暫くボクは遥緋が出て行ったドアを余韻に浸るように見惚れた後、正面を見た。
そこには大きな等身大の鏡が置かれている。
遥緋が人物像を描く時、ポーズのデッサンを参考にさる為にその鏡は置かれていた。
そこには横分けにした黒髪が耳に掛かるほど長くて、金縁の眼鏡を掛けている男のバストアップが描かれたカンバスがイーゼルに載せられているのが映っていた。
ボクだ。
制服を着崩しているけど細身だから、なんだか優等生みたいな印象だ。
これが遥緋の理想なのかと自分を見詰めた。
遥緋は意外に面食いなのか、自分で言うのもなんだがイケメンだと思う。
その絵はとても写実的で、細やかな色や陰影の描き方がとても繊細でパッと見写真のようだ。
自分と見詰め合うのは、なんだか胸の辺りがくすぐったい。
遥緋が戻って来るとボクの目は遥緋にまた釘付けになった。
部屋に入ると遥緋は机の椅子に腰掛け、こちらに左45度の角度でスマホを弄り始めた。
長い前髪で目が見えない。
だが形のいい鼻筋と口唇の造形が胸をキュンとさせる。
スマホを操る長くて細い指を見るとその指で触れて欲しいと思ってしまう。
遥緋は暫くスマホを弄った後、Tシャツと短パンに着替えた。
こんな大盤振る舞い、ボクが普通の人間の肉体を持っていたら鼻血を出していたと思う。
だっていきなり遥緋の裸体!
筋肉質だがほっそりとしたしなやかな肢体が本当に美しくて、浮き上がる肩甲骨から羽根でも生えて来そうだ!
ボクは背中にあるほくろになりたい!
軽く柔軟体操をしているその仕草が踊るように華麗で見惚れてしまった。
照明を消しベッドに潜り込んだ。
その一部始終の仕草がボクには芸術だった。
今も枕に載せた頭からこぼれたサラサラの髪が無造作に丸かっているシルエットが可愛くて仕方ない!
閉じた目の陰影、半開きの厚くも薄くもない口唇から覗く前歯二本の白さに魅せられて口付けたいと望んでしまう!
この寝顔をボクは飽くことなく一晩中でも見詰めていられるだろう。
でも今夜は、眠る彼の望む風景を用意して遥緋に逢おうと思う。
読んで戴き有り難うございます❗゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
今日から、一万六千文字、十一話、宜しくお願い致します。m(_ _)m
うちの向かいに母が住んでいるのですが、裏に母が植えたさくらんぼの木が立っていて、今花を満開に咲かせています。
桜よりさくらんぼの花は白くて、少し遅咲きなんですよね。
今年も豊作っぽいです。
楽しみですねーー。ヾ(≧∀≦*)ノ〃