第7話 レアドロップ
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「はぁ、はぁ……」
またもや夕陽が森を照らす。
俺は息を切らしながら窪みに戻り、そしてドサッ! と倒れた。
「さすがに、無理をしすぎた……」
あれから数日が経った。
もう感覚がないけど、多分五日くらいだろう。
あの日から毎日こんな具合だ。
やることは同じ。
リゴの木の生えた地点に赴きリゴの実を潰す。
そしてその匂いでゴブリンを誘き寄せる。
一度だけユニーク種のゴブリンが出現した。
その時は嬉しかったが、思い出すと身震いしそうだ。
なにせユニーク種のゴブリンは棍棒でなくサーベルを手にしていたのだから。
「ああ、アレがドロップしていれば今頃は楽だったろうに。現実はそうもいかないな」
体のあちこちが痛む。
特に痛みの酷い左腕。
見てみると、そこには紫色の打撲痕が生じていた。
「クソ、あれはまさしくクリティカルヒットだったからな。でも骨は折れて無さそうだ」
リゴの匂いでゴブリンを釣る。
するとゴブリンは群れになる。
一人でゴブリンの群れを相手にするのはかなり厳しい。
でもなんとなくコツは掴んできた。
今回の怪我はそのせいで出来たものだ。
つまり。あろうことか俺は、命懸けの勝負の最中に油断を見せてしまった。そういうわけなのだ。
「明日は戦えないな。ま、自業自得か」
激しい痛みに顔が歪む。
ただ、この痛みは親父から与えられたソレとは違う。俺の反省材料になる痛み、後の成長に繋がる苦痛。この痛みが俺を強くしてくれると考えると、悪い気はしなかった。
それからさらに五日が経った。
言うまでもないが、あくまでもこの日数経過は俺の体感であり信ぴょう性は皆無だ。実際はもっと経ってるかもしれないが、正直言ってその辺は興味がないのでどうでもいい。
一度は土に印を付けることも考えた。
だが面倒なのでやめた。
とにもかくにもだ。
あの左腕の怪我から数日が経って、俺は相も変わらず例の作戦でゴブリン狩りを続けていたわけなのだが。
「はぁ、はぁ。まあ……及第点だな」
俺はようやくのことでユニーク種のゴブリンからドロップ品を得ることに成功するのだった。そのドロップ品は目当てのモノではなかったが、無いよりかはあるほうが便利なことに違いない。
「これで戦いがぐっと楽になる」
俺はサーベルを数回素振りした。
俺の背丈に比べると少しだけ小さい。
けれど、握り心地はそこまで悪くなかった。
事実。
翌日からゴブリン狩りは見違えるほどに楽になった。
今までは何発も殴っていた。
けれどサーベルを入手してからはその必要がない。
二~三回も切りつけてやれば、ヤツらは断末魔の声を上げながら煙になるのだ。
その間、通常種のゴブリンから三つの腰巻を入手し、その内の一つはルドー袋として扱っている。残りの二つの内の一つには薬草を保管し、もう一つは使い道がなかったので、サーベルで切り裂き紐にした。
とはいえルドーは一向に溜まらない。
というより、溜まりはするのだが異常なまでに牛歩である。それもそのはず。この森に出現するモンスターをどれだけ倒しても、得られるのは一匹につき1ルドー。
あり得ないくらい割に合わない労働を強要されている。俺はそんな気分を毎日のように味わっている。
「もう少しで200か。結構狩り続けたんだな……。それでもなおアレは手に入らないか。全く、いい加減に火は諦めるか?」
何度か火起こしに再チャレンジしたこともある。
けれど、やはり火は起こらない。
しばらく経って気付いたのだが、これはリゴの木の性質が関係してるみたい。
簡潔に述べるならば、リゴの木には水分が多く含まれている。そのせいで火が起こらないのだ。そしてさらに気付いたことがある。
それは、この森に存在する高木の全てがリゴの木だということ。場所によって短かったり長かったり色が違ったり太さが違ったりするのは、リゴの木の成長度合いがそれぞれ異なるからなのだった。
俺がそれに気付けたのはある狂行に出たからだ。
……恥ずかしながら、リゴの実の味に飽き飽きしてきた俺は、枝を口にしてしまった。
最初の数分は味の違うモノが口の中に入ってきたので喜んだ。不味かったが、それを気にせずに齧った。ついでに他の木の枝も折って齧ってみた。
そんな意味不明な行動の末に理解した。
この森の木は全部同じモノなのだと。
リゴの木は水分が多い。
リゴの実に多くの果汁が含まれているのもそれが原因なのかもしれない。
結局のところ。
火を起こすためには、アレを入手するしかないんだ。
火が欲しいのなら。
俺はゴブリン狩りを続けるしかない。
そういう宿命なのだ。
それから数日~数十日後。
俺は手に入れた。
ずっと欲しかったモノ。
ユニーク種のゴブリンから得られる、レアドロップ。
「はぁ、はぁ。長、かったな……」
気付けば、ルドーは500に達していた。
それだけの数のゴブリンを倒すことで。
そうすることでやっと、俺はソレを手に入れられた。
それは『毛皮の腰巻』だった。
だが通常のソレとは異なった色をしている。
ソレの色は黒だった。
「やっと手に入るんだな、火が」
夕陽が森を照らし、ところどころに光の柱を産む。
俺にとっては、それが森の祝福に思えた。
森が――世界が――。
俺の勝利を祝福してくれているように感じられた。
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