第6話 火が欲しい
思ったとおりだ。
この窪みは中々の上物!
眠っている間、寒さで目覚めることがなかった。
季節的な関係もあるが、この窪みなら冬を凌ぐこともできそうだ。ただし火があればの話だが。
そんなことを思っている矢先。
俺は「そういえば」と思い至った。
それは食料の問題。
これから先、お金が溜まるまでずーっとリゴの実を食べ続ける。いくらなんでもそれはキツい。
「火があれば色々なものを調理できるし、葉っぱやキノコも焼いて食べられるな。いざという時には武器になるし、夜の活動時には松明にだってなってくれる」
となると、これからの生活に火は必須に思えた。
「火起こしに必要な物は木の枝と紐……? いや、火打ち石とかいうくらいだし石のほうがいいのか?」
もしも俺の魔法属性が【火】だったなら。
そう考えて馬鹿らしくなった。
そもそも魔法に属性があれば虐待など受けずに済んだし、追放されてサバイバル生活を送る羽目になってない。
もしも魔法属性が【火】だったなら。
そんなことを考えるのはあまりにも無意味に思えた。
「とりあえずは木でためしてみるか」
俺は適当な木の枝を持ってきた。
本数は二本。
一本は細く、もう一本は太い。
「よぅし、やってみるか」
俺は太い枝を足で固定した。
そして細い枝を宛がい、必死に手を動かす。
こうして摩擦が起これば、きっと火が起こるだろう。
数分後。
「はぁ、はぁ……。全然ダメだ」
俺は大量の汗を流しながら息を荒げていた。
「全然手応えが感じられない。火起こしってこんなに体力使うのか……。思ったよりも重労働なんだな」
正直言ってナメてた。
もっと簡単に火が上がると思ってた。
「火属性モンスターがいればそれを利用することも可能だけどなぁ」
生憎、ここにはスライムとゴブリンしかいない。
どちらも火を使うモンスターではない。
さて、どうしたものかね。
「ん、そう言えば……」
かつて読んだモンスター図鑑。
あれにはユニーク種なるものの記載もあった。
「……っ!」
ひょっとしたら。
この方法ならいけるかもしれない!
リゴの実をぱくっ! と一口。
その場を後にした俺はその足である場所へと向かった。
「この辺でいいか」
そこはリゴの木が大量に生えたエリア。
川沿いから少し北東に進んだ場所だ。
まずは投石。
おなじみの方法でリゴの実を落とす。
そしてそれを踏み潰す。
いくつも踏みつぶしていると。
やがて、辺りにリゴの実の香りが漂い始めた。
「さて、これで準備はオッケーだな」
俺は棍棒を手にその瞬間を待った。
すると早速ヤツのお出ましだ。
『ギギギギギィ!』
棍棒を手に威嚇してくるのはゴブリン。
だがその姿は通常種のものだった。
「まぁ最初からユニーク種に会えるなんて思ってなかったしな」
俺のやろうとしていることは中々の難易度。
低確率に低確率を重ねる、いわば神頼みにも近しいものだ。
それでもやらなければならない。
人は欲しいものがある時、どんなことをしてでもそれを手に入れてきた。
原子の時代からそれは変わることはない。
人の欲望とはそれほどまでに果てがない。
「はぁあ!」
『ギャア―――ッ!!』
バギィッ!!
二つの棍棒が衝突する。
音も衝撃もかなり大きい。
だが、俺は既にゴブリンの攻略方法をモノにしている。
「ふー……」
しばらく攻防を続けてから。
俺はゴブリンから距離を取る。
そして足元にある石を全速力で投げた。
ビュッ!!
そして、それと同時に駆けだす。
ゴブリンは投石攻撃に驚き防御に移る。
ビビッて目も瞑るので、こうなっては隙だらけ。
俺は渾身の力でゴブリンの頭部に棍棒を振り下ろした。
「ふんっ!!」
『ギャバァッ!!』
これが俺の編み出したゴブリン討伐方法。
確かにゴブリンは知性がある。
けれどずば抜けて賢いモンスターではない。
なので簡単な罠を仕掛ければいとも容易く引っ掛かってくれる。
「しかし、ここからは未知の領域。俺の体力がどこまで持つか……」
一匹のゴブリンを討伐した。
その数秒後には次のゴブリンがやってくる。
どうやらスライムはリゴの実の匂いに釣られないらしい。あの感じだと草食系だろうし、道端に生えてる雑草でも食べているのだろう。
「しかし数が多いな。まさか五匹も集まってくるとは」
ゴブリンの数は五匹。
徒党を組まれると流石に苦しい。
それに、やはりと言うべきか。
そこには俺の目当てとする『ユニーク種』のゴブリンはいなかった。
仮にいたとしても、そこから先――目当てのモノを入手できる確率はさらに低いんだけど。
「とりあえず全部狩るしかないだろうな」
相手の数が多かろうが少なかろうが成すべきことは一つ。
生き残るために。
欲しいものを手に入れるために。
そのために俺は勝利する。
獲得。
それは勝者のみが得られる神からの褒美。
獲得したければ勝て。神がそういうふうにルールを設けたのなら、俺はそれに従うだけだ。
「おおおおおおおおおっ!!」
俺の雄叫びに呼応するかのように。
『ギギギャァアアアアアアッッ!!!!!』
五匹のゴブリンが一斉に咆哮した。
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