第5話 拠点をゲットした!
次話は19時です。
歩き続けること数十分(体感)。
俺は何匹目かも分からないゴブリンを討伐したことによって、あるモノを入手し大喜びしていた。
「やった! これでリゴの実の持ち運びが楽になるぞ!」
獲得したのは【毛皮の腰巻】というアイテムだ。
基本的に薬草をドロップするゴブリンだが、稀に毛皮の腰巻をドロップすることがある。かくして俺はリゴの葉のお盆から解放されたのだ。
しかし、ここで一つ問題が生じた。
それは毛皮の腰巻が臭うということ。
正直言って、かなりの獣臭だ。
「臭いが移ったら最悪だよな。どうにかならないかな……」
思案に耽ること数秒。
俺はナイスアイデアを思い付いた。
手にするのはやはり手頃な石。
何度も投石を繰り返し、リゴの実を手に入れる。
リゴの実を食べていて感じたのは水分の多さ。
噛めば噛むほど酸味を含んだ甘味が広がるのだが、それと同時に果汁も溢れてくる。
その果汁こそが全てを解決してくれた。
名付けて、果汁洗濯。
「リゴの実の袋なんだから、匂いもリゴの実のほうがいいに決まってる」
かくして毛皮の腰巻はリゴの匂いに包まれ、俺は幸せな気持ちになったのだった。これで匂い移りを心配せずいつでもリゴの実を取り出して食べることができる。最高だ!
というわけでさっそく腰元に縛り付けようとして、紐なんてものを持ち合わせてないことに思い至り、俺は泣く泣くの思いで衣服を裂いた。
少し短くなった服。
そして右手の小石。
「……」
俺は八つ当たりするみたいに小石を地面に叩き付けた。
「毛皮の腰巻を裂けばよかったのに!」
気付くのが少し遅かった。
#
夕陽が沈みかけた頃。
俺は目当てのものを二つも見つけた。
やっとのことで地形が変わったのだが、俺はそこで岩壁を見付けた。横に広く縦に長い、絶壁のような岩の壁だ。
壁沿いに歩く。
すると、ところどころに凹みが見えた。
淡い期待を込めてさらに歩き続けると、絶好の窪みを見付けた。人が三~四人は入れそうな程に大きな窪みで、雨風を凌ぐのにも使えそうな場所だ。
そして、岩壁はところどころが湿っていた。
まさかと思い周囲を探索すると、風に乗って、川のせせらぎが聞こえてきた。俺は音のする方向へと猛ダッシュし、そしてついに川を見付けられた。
しかも周辺にはリゴの木が!
もちろん岩壁が近いこともあって手頃な石コロもある。
こうして俺は拠点を見付けたのだった。
まだ日は暮れていないし寒さもない。
ふと身体を見てみると、かなり汚れていた。
長時間の探索にモンスターとの戦闘行為。
土や泥や汗、さらには血液が全身に付着して、意識しだすと、もの凄い悪臭を放っていた。
もう一秒だって我慢できなかった。
俺は衣服を脱ぎ去り、川に入って、体を洗った。
人生初のサバイバル生活初日。
なんだか、妙な達成感が心の中にある。
長年の虐待の末の追放。
悲しい気持ちもあるが、今は全部忘れてしまおう。
体を洗える。
衣服を洗える。
毛皮も洗えるし、リゴの実も洗える。
今の俺にとっては、それだけで幸せだ。
窪みの中。
俺は水洗いしたリゴの実を食べた。
水で洗う。たった一工程で、その旨味は何倍にも跳ね上がったように感じる。
「とはいえ、これから毎日リゴの実だけってのも飽きるよなぁ。それに……」
俺はポケットの中からルドーを取り出した。
その枚数はたったの15枚。
こんなんじゃハルメッタの街を拠点にするなんて夢のまた夢だな。
宿屋というのは連泊するほど値段が安くなる。
例えば、一日50ルドーだとして三十日で1500ルドーだ。だが宿泊サービスを利用する際に「三十日間泊まります」と言えば連泊割引で1000ルドーになったりする。
スライムとゴブリン。
この二種類を相手に四桁のルドーを稼ぐのは至難の業に思える。
仮に一日で20ルドー稼げるとして。
一ヶ月まるまるかけても600ルドーにしかならない。
「ヌシが目覚めるのはあり得ないし、仮に目覚めたとしたらその時は俺の命が終わる時だ。あーあ、手っ取り早く稼げる方法があればいいのになぁ」
それとも方法を変えるか?
ある程度体を洗って身なりを整えたら、そのままハルメッタの街に向かってしまう。そうしてそこで雇ってもらえばいい。
仕事は何でもいい。
清掃員でも馬車引きでも配達でも見張り番でも。
生きるためなら、俺はなんだってできる。
「……ははっ、バカみたいだな」
今の俺の身なりはボロボロの衣服。
ただそれだけ。
そんな人間が多少小奇麗にしたところで雇ってもらえるわけがない。
ならば道は一つだけ。
宿代……のみならず。
装備品をきちんと整えられるほどのルドーを獲得する。
それが絶対条件だ。
だがそうするとやはり壁が。
なんたってこの森にはスライムとゴブリンしかおらず、二匹のモンスターが落とすルドーはたったの1ルドーなのだ。
ドロップ品を拾いそれを売却する。
それも可能だが、スライムやゴブリン程度がドロップするものなどたかが知れている。そんなものを売っぱらったところで大したルドーにはならない。
「八方塞がりとはまさにこのことだな」
リゴの実をぱくぱくと口に運びながら呟く。
虚しい呟きは誰にも届かず、空気に溶けて消えていった。
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