第42話 旅立ち
その日はジャラッダの宿で休んだ。
そして翌日、俺たちはジャラッダの町をあとにした。
南門を出て周囲をチェック。
人が居ないのを確認し、サティに飛んでもらった。
――ハルメッタの町――
北門から町に入り、街道を歩く。
その途中、サティが聞いてきた。
「ソード様は見事に復讐を達成されたわけですが、これからはどうなさるのですか?」
「もちろん人助け……なんだけど。まぁ、課題は多いよね」
まず、ダクヴェルム家の腐敗。
これが意味するのは、ダクヴェルム領の腐敗である。
自分だけの復讐だと思ってた。
でも蓋を開けてみれば、ダクヴェルムの悪行に苦しんでいる民がいた。
「ファントムの消滅によって、ジャラッダの町は少しずつ良くなっていくと思う。もちろんすぐにとはいかないだろうけどさ。どのみち、近日中にサンドワームは倒そうと思ってるよ」
「飛砂害の元ですからね。ですが良いのですか? サンドワームを倒せばジャラッダの町の環境は良くなります。そうなればファントムにとっても住み易い町になるのでは?」
わざわざジャラッダ西方に追いやったことを言っているのだろう。
「構わないよ。俺か他の何者か――いずれにせよ、サンドワームが倒されるまでの数日〜数週間は苦しむんだから。もう復讐は達成されてるし、アイツに固執するくらいなら領民の暮らしを考えたい」
「ふふっ、さすがソード様ですね」
ちなみに。
サティの呼び名はもう「ソード様」に戻っていた。
俺たちはまだダクヴェルム領から出てない。
リンドやダルヴェンディ。
万が一彼らが近くにいて会話を耳にされたら……。
そんな理由から偽名で呼んでもらっている。
御者を捕まえ、例の馬車小屋へ。
「やぁ、ユニ。元気だったか?」
『くぅうっ!』
またもや跳ね回るユニ。
尻尾をぶんぶん振り回しながら大喜びだ。
くぅ~、やっぱりカワイイ~!!
「すっかりソード様を主人と認めていますね」
「ふふ、嬉しいなぁ。ていうか、ほんの少しだけど大きくなってないか?」
首を傾げると、サティが説明してくれた。
「ユニコーンは生まれてすぐに四足歩行できるほどですからね。成長速度も他のモンスターと比べて早いのです」
「なるほど。神獣種ってだけあってタダモノじゃないね。ユニはすごいなぁ」
#
ユニをつれ、まずは宿屋へ。
バッシュさんにはお世話になったから挨拶しておこうと思う。
「おはようございます」
「ああ、おはようございます。おやおや、ユニまでご一緒かぁ」
「はい。……名残惜しさはあるんですけど、今日でハルメッタを発とうと思ってまして」
バッシュさんは表情を曇らせた。
けれどすぐに笑顔になった。
「そうかい」
そして、カウンターから出てくると。
「お世話になりましたぁ。お二人に出会えたことは一生の宝だ」
深々とお辞儀された。
「お世話になったのは俺たちのほうですよ。三食タダで付けてくれたじゃないですか。本当に助かりました。またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそだよ。本当、ありがとう」
#
お次は冒険者ギルド。
バッシュさんと同じように別れを告げると――。
「お前たち、並べ並べ! ソード様に敬礼だ!!」
ギルド長のヴォルフさん、すごい気迫だ。
薬草で少しは回復したらしいが、元々がタフなのだろう。
「ソード様! あなたはハルメッタの英雄ですッ!! このご恩は一生忘れません!!」
冒険者や受付嬢。
そしてたまたま居合わせた住民。
数多くの人々から感謝の言葉を贈られた。
「こちらこそお世話になりました! 旅の途中、また戻ってくることがあるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
#
「次の拠点はお決まりですか?」
「一応はね」
ハルメッタの街。
そしてジャラッダの町と来た。
ダクヴェルム領には他にもいくつかの町や村がある。
「次は『フェーン村』に行こうかなって」
フェーン村は長閑な農村。
連なる山々に囲まれ、空気も美味しいそうだ。
「位置的にはサンドワーム出現地のさらに北西だよ」
再度御者を捕まえ北門へ。
周囲を確認し、サティに飛んでもらう。
今度はユニも一緒だ。
ユニは初めての飛行。
怖がるかと思っていたが……。
『くぅぅう~~~っ!!』
めっちゃ楽しそうだった。
サティは「この早さならどうだ?」とさらに速度を上げた。
「うっ、うわぁあああ~~~っ!?!??」
悲鳴を上げるのは俺だけ。
サティとユニは楽しそうだった。
流石は獄界四天王と神獣。
なにはともあれ、だ。
これから先、俺の目的が変わることは無い。
旅の目的は二つ。
一つは家族への復讐だ。
ラウドへの復讐は達成されたが、まだリンドとダルヴェンディが残っている。それを果たさないことには、真の意味で俺が救われることは無い。
そしてもう一つは。
やはり、弱者救済の施設を作ること。
想像を絶するほどの苦痛を何度も浴びせかけられる人生。なんのために生きてるのか分からず、家族を呪い続けるだけの日々。
きっと、こうしている今も、どこかで誰かが泣いている。
その涙は、その子なりの必死のサイン。
助けてほしいという心の叫びなのだ。
俺は、それをただ一つとして聞き逃したくない。
そして旅の果て。
もし母と再会することがあったら。
その時は、聞いてみようと思う。
追放を言い渡されたあの時。
エントランスホールを振り返ったあの瞬間、母の横顔は寂しそうに見えた。
今にして思えば、顔を合せなかったのは――もしかしたら、涙を堪えていたせいかもしれない。
都合のいい錯覚。
都合のいい妄想。
確かにそうかもしれない。
でも、俺は確かめなければならない。
なぜなら、母だけだったから。
俺に対して手を上げなかったのは――虐待してこなかったのは母だけなのだ。
お前なんか作らなければよかったと思っている。
こんなもの、ダルヴェンディの言葉でしかない。
俺はその言葉を母から直接聞かされたわけじゃない。
だったら、まだ希望はある。
きっとこの旅は長くなる。
弱者救済の過程で困難にぶつかることだってあるだろう。
けれど、俺は絶対にあきらめない。
「あんな酷い目に遭うのは、俺が最後でいい……」
その呟きは本心であり、願いであり、祈りでもあった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今作は人生の全てをぶつけたのですが、まだまだ実力不足でした。
また出直してきます。
もっともっと面白いものを必ず書いて見せますので、引き続き藤紫を応援して頂けると嬉しいです。なにとぞよろしくお願いします!!
今作を応援して頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました!!