表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/42

第41話 追放返し

「さて、最後の仕上げに入ろうか」


 まだ。

 これ以上。

 なにか、あるのか……?


 ラウドは絶望した。

 呼吸と絶望。

 今のラウドにできるのはその二つだけだった。


「これにてお前に対する復讐は成された。だが、まだ腹八分目ってところだ。だから、これから最後の仕上げに入る」

「これ以上、なにを……」

「マリーナちゃんと契りを結べ。当然だが断ったら【痛み】を与える」

「…………内、容は」

「一生農民として働き、ダクヴェルム領に尽くすこと。ダクヴェルムの民に一生を賭けて償うこと」

「農民?」

「そうだ。お前はこれから先、自分で働き口を探さなければならない。死に物狂いでな。そして働き口を見付けたら死ぬまで働くんだ。農民として、領民のために」

「無駄、だ。俺の顔を見れば……領主と、分かる。身分は、農民……でも、扱いは、領主のまま、だ」

「そうならない方法は考えてあるから気にするな!」

「まぁ、もう、どうでもいい。【痛み】がないなら、俺は奴隷にでもなるさ」


 マリーナちゃんが足手纏いでないというのはこういう意味だ。


 俺とサティは契りを結んでいる。

 つまり、ラウドと契りを結べるのは他の第三者のみ。その存在としてマリーナちゃんほど相応しい人間はいないように思えた。


「では、この羊皮紙に魔法の羽根ペンでサインをお願いします」


 ラウドは素直に従った。


 こうして契りは結ばれた。

 そして最後はサティの出番だ。


「サティ、待たせたね。あとは頼むよ」

「お任せください」


 そして。

 サティはラウドに『擬態魔法』を付与した。

 ラウドの姿はみるみる内に変形。


 取り柄のイケメンフェイスは台無し。

 異常なまでに細い目と太い鼻、そして腫れあがった唇。


 出っ張った腹部にゴワゴワの体毛。

 背は低くなって足も短くなってしまった。


 その姿はさながら――オークだった。


 サティは水魔法を発動。

 ラウドは水面に映る自分の姿を見て、そして……失神した。


#


「そんなに自分の顔に自信があったのか。まさかショックで失神するほどとは思わなかったよ。まぁいい。これでお前は別人になった。親父に縋ることも兄に縋ることもできない惨めな豚だ」

「う、うう……うあああああ……」

「ラウド・ダクヴェルム。あえて言おう。本日を以てお前をダクヴェルム家から追放する――ッ!!」


 肉体的な【痛み】。

 その次はに与えるのは精神的な【痛み】。

 これでラウドへの復讐は、完遂された。


「あ、あ……、あああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」


 悲痛に満ちたラウドの絶叫は、大宮殿全域の空気を震わせた。


#


 御者を捕まえ、ラウドを荷台に乗せる。

 行き先はジャラッダの町の最西部。

 砂まみれで環境が悪く、息をするのも苦しい地域だ。


「それじゃ、これから頑張って働くんだぞっ!」


 返す言葉もなく。

 ラウドは死人のような顔で連れられていった。


「はぁ~~~」


 そして。

 俺はドサッ、とその場に尻餅をつく。


「大丈夫ですかっ!?」


 サティとマリーナちゃんが心配の声を上げた。


 正直言うと、大丈夫ではない。

 気丈に振舞ってはいたが、結構キツかった。


 ラウドの姿。

 そして魔法。

 その全てが肉体に刻まれた恐怖を呼び起こした。


 それを悟られては、ラウドに勢いを与えてしまう。

 だからこそ、気丈に振舞う必要があった。

 結果、その疲労がここにきてドッサリやってきた感じだ。


「ははっ、ダセぇ~。見てよこれ、手が震えて――」


 瞬間。

 サティが抱きついてきた。


「サティ?」

「ソード様、もう大丈夫です。……申し訳ありません。お傍に仕えると誓ったのに、その内にある悲しみに気付いてあげられなかった。これでは従魔失格ですね」

「ど、どうしたんだよ急に」


 サティは泣いていた。

 俺を抱きしめながら、涙を流していた。


「ずっと辛かったでしょう。ずっと苦しかったでしょう。一人で全てを抱え、誰にも助けを求めることができない……そんな環境に置かれていたのですね」

「…………」

「でも、もう大丈夫です。これから先は私がいます。それにユニだっている。血の繋がった家族にはなれません。でも、ソード様の内にある傷を癒すような、そんな存在になることはできるはずです」

「……」

「だからもう大丈夫。大丈夫ですからね」


 気付けば俺も泣いていた。

 必死に声を押し殺した。

 でも、限界は早かった。


 こんな……。

 こんな言葉を投げ掛けられたら、もう、無理だ。


 今までゴミのように扱われてきた。

 属性【無し】。

 たったそれだけで奴隷のような人生。


「ぐっ、く……ぅう、ううう……」

「私が全部受け止めてあげます。大丈夫、大丈夫ですよ」

「うぅぅぅうう……っ!」


 思えば。

 俺は、ずっとこうして欲しかったのかもしれない。


 誰にも愛されずに死ぬと思ってた。

 誰にも見向きされず必要とされずに。


 心の底。

 深淵を覗けば、そこにはいつも5歳の俺がいる。


 そして、身を屈めながら泣いている。

 泣きながら家族を呪っている。


 5歳の男の子とは思えないほどの悍ましい表情で、涙と共に怨嗟の言葉を連ねている。


 いわば亡霊。

 その亡霊が、消えつつある。

 

「ずっと……ずっと、こうして欲しかった」


 俺は願望を口にした。

 誰にも言えなかった、内に秘めた思いを。


「俺はずっと、誰かに愛されたかったんだ。それだけでよかったんだよ……ッ!!」

「これからは私がいます。私は誰よりもソード様を愛しています。何度でも言ってあげますよ。好きです。愛しています、ソード様――いえ、ソウ・ダクヴェルム様」


 深淵に光が灯される。

 そして。


 怨嗟の言葉を連ねる5歳の少年は。

 慈愛に満ちた温かい光に包まれ、今、完全に消滅したのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方には是非、ページ↓部分の☆☆☆☆☆で評価してほしいです。☆の数は1つでも嬉しいです!そしてブックマークなどもして頂けるとモチベーションの向上にも繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ