第40話 心の死
「お断りします」
そんな土下座も虚しく。
マリーナからは無情な一言が告げられた。
「どっ……どうしてぇっ!! 俺はお前を大切にしてきた! お前みたいなゴミクズ、平民、下賤なカスを高貴な存在であるこの俺様が大切にしてやったんだぞっ!? 金貨だってやったじゃないか!! 家族奉仕の機会だってくれてやった!! なのにどうしてだっ!!!!! お前は恩を仇で返すのか、この人でなしがァっ!!!!!」
「ファントム様……。いえ、ファントム。あなた、私のことを殺そうとしましたよね?」
「………………は?」
なんでバレてる。
おかしい、あり得ない。
だって爆発は不発!
ふは……つ………………。
この時になってようやく。
何故マリーナが生きているのか?
ラウドはそれを理解した。
あらゆるを消滅させる異次元の闇魔法。
もしもあの爆破にソウが触れていたなら……。
「あ、ひっ、ひひ……ひひひ、いひひひひっ!!」
ラウドは振り返る。
するとそこにはソウが、冷たい目で自分を見下していた。
「あぅっ、う、あっ……、え、えと、ゆっ、ゆるし……」
「…………ダメッ!!」
「ぅあっ、あ……!」
ピタ――、とソウが触れる。
そして……。
【焼痛】。
【刺痛】。
【裂痛】。
【削痛】。
【電痛】。
【潰痛】。
【捻痛】。
【剥痛】。
【切痛】。
【折痛】。
【抉痛】。
【窒痛】。
【破痛】。
【爆痛】。
【殴痛】。
【穿痛】。
【貫痛】。
【割痛】。
【斬痛】。
【弾痛】。
【凍痛】。
数え始めたらキリの無いほどの無数の痛み。
それが、ラウドの痛覚を刺激した。
「……ッ」
あ…………っ!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
#
お”ぇえ”え”え”えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?!???
ずぁがあああああああああああああああああああああ、ひぎ、ぎっ、い、痛いいいいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!
だ れ か
とめ とめ て
い た
あああ が ぎぎっぎぎぎ
ひぎぎぃいいいいいいっ!!
あ、ああ。
ああ――。
俺は、なんて過ちを犯したんだ。
思い返してみれば、おかしなことだった……。
属性【無し】。
そんなの、あり得ないだろ。
属性は一人につき一つ。
これは絶対だ。
なのに。
なのにどうして俺は疑わなかった。
鑑定の儀。
それは絶対なのか?
本当に間違いはないのか?
鑑定を行うのは神ではなく人だ。
なのに、絶対に失敗はない?
なぜそう言いきれる……。
あったんだ。
ソウは、獲得していたんだ。
しかもこれは闇なんて生温い代物じゃない。
魔法は三段階。
そう知られているが、もしも四段階目があるなら?
だとしたら、鑑定の儀でミスが生じてもおかしくない。
ああ、そうか。そういうことだったのか。
思えばおかしなことはあった。
怯えるソウに魔法をぶつけてる時。
何度か不発に見舞われたことがあった。
思えばアレはソウの魔法だったんだ。
気のせいか熟練度不足。
そう思っていたが、そうじゃ、なかった…………。
俺はなんていう過ちを。
ああ、クソ。チクショウ……。
こんな痛みを受けるくらいなら。
それなら最初から。
この世に生まれて来なきゃよかった。
#
「目覚めたか。まぁ、アレだけやられれば流石に失神するか」
「……………………」
もう、口を利く気力すら失われていた。
「安心しろ。もう【痛み】は与えない。次はこの子の番だ。おいで、マリーナ」
「え? 私、ですか?」
「君だって酷い目に遭わされてきたんだろう? だったらちょっとくらい殴ったって誰も怒らないよ」
すると、マリーナはおもむろに部屋の奥間へ向かった。
数秒後、奥間から出てきたマリーナの手には高級な葡萄酒が握られていた。
「ファントム……。失礼しますね?」
マリーナはファントムの靴を脱がせた。
そしてそれを履いた。
「ちょっと大きいけれど、これでいいや」
「……お、ま、え」
まさか、とまで言葉がつながらない。
もう、声を振り絞る気力すらない。
「んっ……」
マリーナは葡萄酒を口に含み。
そして――べぇっ! と吐き出した。
「ファントム、靴を舐めて下さい」
「……こ……った、ら?」
微かな声。
それでもマリーナは理解できた。
ファントムは「断ったら?」と口にした。
「その時は、ソード様から【痛み】が与えられるだけでしょうね」
「ぅっ…………ぐっ、く、うぅう~~~~~ッ」
またもやみっともなく涙するラウド。
涙、汗、鼻水、ヨダレ、失禁。
体中から水分を出し尽くし、恥辱に塗れ、抵抗の意志も削がれ、プライドまで踏みにじられる。ダクヴェルム家の一員としての誇りなど、とうに消え失せていた。
「れぇろ……ぇえろ、ろぉお~…………れろろぉぉお~~」
「ああ、なんというみっともないお姿。まるで……ゴミですわね」
その瞬間。
ファントム――ラウド・ダクヴェルムの心は完全に死んだ。
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