第4話 森歩き
どうやってリゴの実を運ぼうか?
そもそもどこに運ぶ?
川はどこだ?
寝床はどこに?
課題はまだ多い。
が、ひとまずは小休止といこう。
ゴブリンとの戦闘で体力を消耗してしまったし、身を休めなければ万が一の時に対処できない。
はむっ。
リゴの実を一つ、口に放り込む。
邪魔な種は吐き出して、実と果汁だけを味わう。
リゴの実は思ったより肉厚だった。
甘味より酸味が勝っているのが個人的にはマイナス点だったが、自身の置かれた現状を考えれば贅沢は言っていられない。
「んっ、む……」
ていうか、果汁が凄い。
容器さえあればジュースが作れるかも?
ある意味では水分問題も解決したと言える。
「でも体は洗いたいしな。どのみち川は探さなきゃか」
ヴェルムの森の特徴は二つ。
一つは、出現モンスターが弱いこと。
ヌシを除けば、そのほとんどが初心者の冒険者でも狩れるだろう。
そして二つ目。
異常なまでに広い。
それはもうとてつもなく。
なんでこんな広いんだよと文句を言いたいほどだが、自然相手になにを言っても時間の無駄である。
「確かどこかの岩壁から水が湧き出してそれが川になった、みたいな話だっけ?」
ならば目指すべきは岩場かな?
その前にやるべきことがあるけどな。
俺は食事の手を止め、リゴの葉を手に取った。
リゴの葉はまぁまぁの厚さを持っている。
ある程度重ねて葉柄の部分で結び合わせれば簡易的な袋にはなりそうだ。
そんなわけで袋作りを始めたのだがこれが中々に難しい。ちょっとの力加減で葉が破れてしまったり、葉柄の部分が千切れたりする。
「袋にするのは無理か」
袋にするのは諦める。
代わりに、小さな葉っぱのお盆を作ることにした。
まず、葉っぱの中心部に穴を開ける。
そしてそこに葉っぱを差し込む。
この工程を繰り返していき、ある程度いい感じの大きさになったら完成だ。
そんな計画を邪魔するモノが現れた。
「やれやれ、またモンスターか」
今度はスライムだ。
ゴブリンより弱いので安心ではある。
それにこっちにはゴブリンから奪った棍棒があるしな。
『ピィ!』
威嚇してるつもりなのだろう。
だが全然威嚇になってないし、むしろ可愛らしい。
世の中は面白いもので、中にはスライム愛好会なんてのもあるらしい。
ちなみに俺のモンスターに関する知識の大半は『モンスター図鑑』なる分厚い書物から得たものだ。
四歳の頃、母に買い与えられた。
俺は暇さえあればそれを読んでいた。
そのお陰である程度の知識は得られた。
それも五歳のあの日に全て奪われてしまったが……。
『キキ―――ッ!!』
あのゴブリンにくらべれば随分と遅い。
「ふんっ!」
棍棒をブオッ! と一振り。
スライムは一瞬で煙になった。
「さすがはスライム。世界最弱の称号は伊達じゃないな。こいつらってなんで人間に襲い掛かるんだ? 自分たちが最弱だという自覚を持ち合わせていないのか? まぁどうでもいいか」
俺はドロップしたルドーをポケットに入れた。
そしていざお盆作り。
こっちのほうは袋作りよりも簡単だったし、結構思い通りのものが出来上がったので満足だ。
「唯一の難点は両手が塞がってしまうことか」
とはいえ出現モンスターは雑魚ばかり。
棍棒を手に入れた今、ゴブリンも最初ほど脅威じゃない。
俺は石ころを手に、衣服の一部を引き裂いた。
それを紐の代わりにして棍棒を腰元に括り付けた。
「さて、行くか」
目指すは岩場。
というか、水がある場所だ。
なんとか日が暮れてしまう前に見つけ出したいものだな。
#
お盆を持つ手が安定してきた。
そんなわけで、今度は片手で持ってみる。
いくらモンスターが弱いとはいえ、両手が塞がるというデメリットはやはり避けたい。
最初は安定しなかった。
何度かリゴの実を落とすことも。
だが、時間の経過とともに慣れてきた。
「意外といけるな」
リゴの葉は一枚でもまぁまぁの厚さ。
それを重ね合わせたお陰で、壊れる心配はなさそうだった。
水辺を探しながら、時々はリゴの実を食べる。
そしてモンスターの気配を感じたらお盆を置いて警戒。何事も無ければ探索再開。モンスターと会敵したら倒す。
そうこうしているうちに二時間が経過した。
ちなみにこの二時間というのは俺が観測できる太陽の位置と体感によって導き出されたもので、信ぴょう性は全くない。
「クソ。全然地形が変わらないな」
『モンスター図鑑』にはモンスターの生息地も記載されており、生息地の情報も得ることができた。その情報が正しければこの森には川が流れているはずなのだが、一向に水の気配がない。
「仕方ない。ダメ元で試してみるか」
俺は人生初の木登りにチャレンジした。
そして、ドテッ! と落っこちた。
「いたたた……。やっぱり木登りは無理か」
高い所からなら川も見つかると思ったが、現実は甘くないな。
「要するに歩き続けるしかないってことか。はあ、憂鬱だ」
嘆きながらも歩を進める。
足が痛んだら途中で休憩。
そしてまた歩く。
やがて、夕陽が木々の隙間から差し込んできた。
「今日は諦めるしかない、か。だとしたら優先事項は寝床の確保だな」
寝ている最中にモンスターに襲われて死ぬ。
それが一番最悪だ。
目的を切り替えた俺は、寝床になりそうな場所を探すべく歩き出した。
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