第39話 ブレンド・ペイン
魔法の効果は三分に設定してある。
いろいろな【痛み】を与えるため、あえてそうしている。
「はぁ、はぁ……」
や、やっと痛みが消えた。
なんだったんだ今のは!?
軽い裏拳を一発受けただけだぞっ!?
それなのに脳裏に死がよぎった!!
コイツ、なにをしやがったッ!?
「はーーー、はーーー、随分と、フザけた真似を……。殺す。殺してやるぅうううう!! この俺様に下賤なゴミクズが無礼を働きやがって、万死に値――」
今度はそっと触れる。
そして【放出】。
次の【痛み】は【削痛】だ。
身体を削ぎ落とされるかのような痛み。
今からそれが三分続く。
さぁ、頑張って耐えてくれ、クソ兄貴。
「ひぎっ、ぎょぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!?!!??!?? うっっっっっ、ぼぇぇぇえええええええええええええええええええっっ!!!!!!」
ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
こっ、今度はなんだぁぁああああああああっ!!??!??
「くぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?????」
痛みのあまり言語が失せたらしい。
とはいえ全く可哀想とは思わない。
なにせこの魔法は痛覚にしか作用してない。
どんなに痛めつけても死ぬことはないので、拷問し放題なのだ。
「こ、これは……。なにが、起きているのですか?」
マリーナが怯えた声を発した。
だが、サティは答えを掲示しない。
代わりに「知る必要のないことだ」とだけ答えた。
「ンホォォオオオオボエエエエエエエエエエエエッッ!??!!?」
「さて、どんどん行こうか?」
#
三十分後。
「もう…………やめて。お願い、しま――す。もう、しま、せん……」
「信用できないしする必要もない。お前みたいな領民をゴミと断言したクズなんぞ信じるに値しないからな。お前みたいな真の意味でのゴミは学習することができない。だから【痛み】で覚えさせる。それが一番手っ取り早い」
「ひぃっ! い、嫌だぁああああああああああああああッ!! お願いします、このとおりですから、どうかやめて下さい! もうやだ、痛いのは嫌だ!!」
「そうか、そんなに嫌か」
「はいぃいい、嫌ですぅうううう。お願いします、許して下さいぃぃぃいいッ!!」
「じゃあ次で最後にしてやる。そのあとは【痛み】を与えないと約束してやろう」
あ、あと一回だと!?
ぐ、く、ぅぅぅううううう~~~ッ!!
あんな激痛、あと一回だって耐えたくない!!
で、でも……。
もしここで嫌だと口にしたら、一回じゃ済まないかもしれない。
だ、だったら……。
「分かり、ました」
ラウドは泣いた。
涙と鼻水と汗とヨダレで顔をぐちゃぐちゃにした。
悪臭が漂っているのは失禁したからだろう。
醜態を晒しながらも。
ラウドは懇願した。
「お願いします、これで……本当にこれで勘弁して下さい、このとおりですぅっ!!」
そして渾身の土下座を繰り出した。
「分かった。俺も鬼じゃない。次の一回で最後にすると誓うよ」
ラウドはホッとすると同時に恐怖した。
ああ、次はどんな【痛み】が来る。
俺はどんな【痛み】を与えられる……?
ああ怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
今すぐにでも助かりたい、そして逃げ出したい!!
「まずは【焼痛】だ」
「…………へっ?」
まずはって、なに?
さっき一回って言ったじゃん!
一回って!
まさか、嘘……ッ!?
「そう悲観するな。一回は一回だ。ただし、ただの一回じゃない。俺が編み出した【ブレンド・ペイン】を受けてもらう」
は……。
なんだそりゃ?
ブレンド・ペイン?
「この世界にはいろいろな【痛み】がある。焼かれる【痛み】、刺される【痛み】、潰される【痛み】、削れらる【痛み】、裂かれる【痛み】、電撃に撃たれる【痛み】……。数え始めたらキリがないほどの【痛み】がゴロゴロしてる」
「お、おいっ、まさかっ!?」
「ああ、そのまさかさ。ブレンド・ペイン。その名の通り、数々の痛みを混ぜ合わせた魔法だ」
「あ、あぁ、あ、あああああ~~~~~~~」
ぐにゃり、と視界が歪む。
これから与えられる【痛み】がなんなのか。
それを知ってしまった。
それはあまりにも邪悪で悍ましく、慈悲の欠片もない……。
「い、嫌だぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!! だ、だれかっ、たす、たすっ、助けてぇぇえええええええええええええええええッ!!!!!!」
ラウドは必死に床を転がった。
この場から逃げようと、全力で藻掻く。
だが――。
「どこに行く?」
扉は封鎖されていた。
銀髪赤眼の美しい少女によって。
その横にはマリーナがいた。
ラウドは縋るしかなかった。
マリーナに。
高貴なる存在である自分が奴隷であるマリーナに縋る。
あまりにも屈辱的だが、もはやなりふり構ってる暇などなかった。
「マリーナ、助けてくれ。お、俺は君を大切にしてきた。金貨だってあげた! 家族奉仕のチャンスも……っ! 君はソウの仲間なんだろう? だったら君から口添えしてくれ! こんな酷いことはもうやめるように!! 君が言えば、きっとソウもやめてくれる! だから頼む、このとおりだ!!」
そして再びの土下座。
高貴たる自分が奴隷に土下座。
屈辱に食いしばった歯茎からは、血が滴っていた。