第38話 【痛み】
影魔法は影への出入りを可能にする。
つまり、フィールド全てが影に包まれれば無敵の力を得られるんだ。
「シャドウ・フィールド。天井も壁も床も、この部屋の全てが影となった!」
サティは「ほお……」と目を見張った。
影魔法の奥義の一つ。
それを扱えるとは、まぁまぁやるらしい。
その横でマリーナは怯えていた。
命の恩人のソード様。
でも、ソード様がいくら強くてもこれでは勝ち目がないわ。こうなってはファントム様はまさしく幻影。影そのものとなってしまう……。
「俺がなんでファントムだなんて名乗っているか教えてやろうか~? それはな、俺が影そのものだからだ! 才能ある魔術師が長年の修行を経て習得する魔法、それがシャドウ・フィールド! 俺はそれをこの歳で習得している。……お前ら有象無象とは生物としての格が違うんだよ」
ズォオッ!!
ラウドは影に潜り姿を消した。
「いけっ、シャドウ・ボール! こいつは今までのそれとは違うぞっ! なんたって吸い込む力を持ってるからなぁッ!!」
そっか。
あの影の玉、シャドウ・ボールっていう魔法だったのか。
懐かしい気分だ。
今となっては触れるだけで…………?
俺はシャドウ・ボールに触れた。
すると。
バヂィンッ!!
その右手は弾かれ、シャドウ・ボールは明後日の方向に飛んでいった。
「なるほど。幼少期とは強さが違うのか」
俺の【虚無】の吸い込む力。
そして【影】の吸い込む力。
二つの力が反発し、弾けたんだ。
「はははっ! どうやらこの魔法攻撃は消せないらしいな!? ならば俺の勝ちは確定的だ。お前が力尽きるまで無限に影の中から攻撃する、それだけでいいんだからな。お望み通り全てを披露してやったわけだが、負けが確定した気分はどうだ~~?」
俺は幼少期から虐待を受けてきた。
暗くて狭い檻の中。
ずっと怖かった。
檻を出る時は、軽食の時か修行の時。
その生活はずーっと続いた。
大人になるにつれ俺は無意識に魔法を発動。
結果として【痛み】をストックしたわけなのだが……。
二人の兄との修行。
この時にも、俺は無意識に魔法を使用していた。
だから、俺の虚無空間の中には【光魔法】と【影魔法】も漂っている。
「もしリンドのヤツまで影か闇だったらちょっと面倒だったかもな」
シャドウ・フィールド。
天才魔術師が長年の末辿り着く極致……ね。
「なら俺のは差し詰め、ライト・フィールドってところか?」
虚無空間に漂う【光魔法】。
俺はそれを一気に放出した。
光あるところに影は生まれる。
しかし光が強すぎると、影は掻き消されてしまう。
カァァアアアアアアアアアア――!!
室内が眩い光で一杯になった。
影は存在する場所を無くし消え失せる。
影を維持できなくなったことにより、ラウドは天井から降ってきた。
ドサッ!
「うぐっ!? ば、バカな。なんだ、今の光は……」
「自業自得ってヤツさ。これはリンドの野郎の光魔法だ」
「兄さんの光魔法だと? ふざけるなっ! 獲得可能な魔法属性は一人につき一つ! これは絶対で神が定め――」
「うるさいっ!」
ボゴァッ!!
まずは一発目。
裏拳と同時に【痛み】を放出。
与えるのは【折痛】だ。
全身の骨が折れる痛み。
それをラウドの痛覚だけに作用させる。
そして刹那。
とてつもない絶叫が響き渡った。
「ア……、あんぎゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??!!!????? うぐあっ、げぁ、あががっがあがああああああああああああっ?!??!」
#
いっ、てぇえええええええええええええええええええッ!!!!!!!! な、なんだこれ!
い、痛い!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「痛いぃぃぃいいいいいいいいいいいッ!?!?!?!?」
うぼおぉおおえええええええええツ!!
なんだこれええっ!
灼ける!
思考が灼き切れるぅッ!!
こんなの常人が耐えられる痛みじゃねえ!!!
明らかにキャパオーバーだ!!!
「うぅぅぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あぎゃががああああああああああっ!!!!!!!!!」
サティはぶるりと身震いした。
あの時――初めてヴェルムの森で出会った時。
あの時、私はソード様に即座に命乞いをした。
その判断は間違っていなかったのね。
まさか、ソード様の内にあれほどまでの【痛み】が蓄積されていただなんて。きっと、相当に酷い目に遭ってきたはず。
私程度でその傷を癒せるかは分からないけれど。
許されるならこの身の全てを捧げよう。
ソード様になら全てを捧げてもいい。
少しでもソード様の傷が癒されるのなら、それで……。
その日。
獄界四天王の一魔・サティエルは生まれて初めて涙を流した。その涙は慈愛からくるものだった。
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