第33話 ぼろっちい宿
町の通りをしばらく歩く。
すると、ぼろっちい宿屋が見えてきた。
「ハルメッタの街では結構遊んだし、ここに長居する予定はない。サティ、今日の宿はここでいいかな?」
「ソード様。お言葉ですが、私程度の存在に許可を求める必要はありません」
「分かったよ。でも、もしも我慢できなくなったらいつでも言ってくれよ? サティは女の子なんだから、奇麗にしてたほうがいい」
無意識の脳殺。
サティは歓喜に悶えた。
喜びを顔に出さないよう必死に頑張るサティなのだった。
――ジャラッダの町・宿屋――
「ケケケ、一泊200ルドーだよ!」
なるほど。
治安が悪いというのはこういう意味か。
「どう見ても50ルドーが限界でしょ」
「うるせえ。200ったら200だ。嫌なら道端で寝そべってな、クソガキ」
ブチッ、と何かが切れる音がした。
汚いというのはこの際我慢する。
でも……。
「まず、店の看板が折れてたじゃないか! それに入口の木扉、片方外れてたぞ? 店の中はあちこち蜘蛛の巣だらけ、挙句には食堂のテーブル席、なんだアレはっ! 全く片付いてないじゃないか! 腐っても客商売だろう? こんなんで200ルドーだなんてぼったくりもいいとこだよっ!」
「な……、なんだとぉ~~~!? こんのクソガキィ! 黙ってりゃ言いたい放題言いやがってからに! いいか? これらは全てそういう『景観』なんだよ! 見てみろ、この店の好き放題に散らかった有り様を。いかにも『風情』があるだろ? なんというか危険な輩が集まりそうというか、いざという時には「こっちは任せろ。背中は任せたぜ……っ!」的な仲間ができそうな雰囲気じゃねーかよお!」
「そんな雰囲気は聞いたことがないねっ! 御託を並べてないでとっとと50ルドーに負けるんだ! それが嫌なら掃除くらいしろー!」
正論を叩き付けると、
「ぐぬぎぎぎ……」
言い返せないのか、悔しそうな顔である。
そんなやりとりを見ていたサティ。
ポンッ! 手を打った。
「では、私が掃除をしましょう。この程度ならすぐに片づけられます」
「「えっ?」」
俺とおじさんの声が被さった。
「その代わり一泊は無料。翌日からは50ルドー。いいな? ヒゲデブ」
「ヒッ、ヒゲデブ……だと……」
結局、ヒゲデブ――ロブドルさんはそれで手を打ってくれた。そしてサティがちゃちゃっと清掃を済ませてしまうと、急に態度を変えた。
「いやぁ、先程はとんだ無礼を。本当に申し訳ございやせんでした。いやね? この辺の連中ってマナーってもんがなってないんですわ」
お前が言うな。
「してね、そのせいであちこちをぶっ壊したりとっ散らかしたりして、その癖して片付けもしないモンだから困ってたんですよ。本当にありがとうございやす」
「『「こっちは任せろ。背中は任せたぜ……っ!」的な仲間ができそうな雰囲気』っていうのはなんだったんですか」
俺が言うと。
ロブドルさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「うぐっ、それはその……。苦し紛れの言い訳です。本当に申し訳ありませんでした」
一件落着。
ちゃんちゃん。
こうして俺たちはちょっと安く宿を確保したのだった!
「これからどうなさるのですか?」
宿屋の一室にて。
サティに聞かれた俺は「町歩き!」と即答した。
「町歩きにございますか」
「せっかく新しい町に来たんだから、いろいろと見て回りたいだろう?」
ちなみに怖いモノ見たさもある。
どれくらい治安が悪いのか?
自分の目で見ておきたかった。
宿屋を出て、左手側の大通りへ。
大通りにはいろんな出店があった。
店の一つを覗いてみると、火に炙られた黒焦げのトカゲが500ルドーで売られていた。
「これじゃまるでトカゲの炭人形じゃないか」
感想を述べると、
「文句あんなら失せな」
と一蹴された。
俺はブチギレ寸前のサティを窘めながら、店を去った。
『ところでソード様、お気付きですか?』
サティが声を出さずに語り掛けてくる。
初めて出会った時、サティは脳に直接語り掛けてきた。あれはテレパシーという高等魔法の一つらしい。
「流石サティだな」
俺はテレパシーなどできない。
なので小声で応じる。
『さっきから何者かにつけられてますね』
「らしいね」
治安の悪さは耳にしてたけど。
まさか、さっそく通り魔か何かのお出ましか?
とりあえず気付かないフリ!
何か仕掛けてきたら返り討ちにしてやろう。
数分後。
ワザと細道に入ると、ヤツらは姿を現した。
「フェッフェッフェッ! お前さん、偉いべっぴんさんを連れてるのん! 奴隷市に持ってけばものすんごぉ~~~く高値で引き取ってもらえそうなべっぴんさんなのん。こっちに譲ってくれるなら手出しはしないのん。さぁ、どおするのん?」
見るからに悪そうな顔の巨漢。
そして三人の部下がサーベルを向けてきた。
「なるほど。奴隷市があるということはこういうこともあるのか。治安の悪さは伊達じゃないね」
「ソード様、ここは私にお任せ下さい。こんな汚物にソード様が触れるなど、考えただけで身震いがします」
「それじゃお願いするよ」
数秒後。
ボッゴーーーンッ!!
けたたましい音が響き、そして、男たちは地面に転がって悶絶していた。
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